(2024年4月30日)
産総研の研究成果として、” Algal growth inhibition test with TEMPO-oxidized cellulose nanofibers”と題した研究論文が、NanoImpact(ELSEVIER)において2024年3月26日付けで発行されました。
セルロースナノファイバー(CNF)は植物由来の新素材であり、難水溶性という特徴をもちます。水環境中へ流出した際の水生生物に対するCNFの生態影響を評価するためには、まずはCNFそのものの生態毒性を調査する必要があります。しかし、CNFの特徴を考慮した生態毒性試験の手法は現段階で確立されていません。水生生物の中でも植物プランクトンである緑藻類は、水生生態系の生産階級において最も重要な生物の一つであり、化学物質の生態毒性試験で一般的に供試されています。CNFの生態毒性試験を実施する際に、CNFと同様にセルロース構造を持つ藻類を供試生物とする場合、お互いの存在が測定干渉になる可能性があります。また、化学的に解繊されたCNFでは、藻類の生長に必要な、水中のイオンを吸着してしまう可能性もあります。そこで本研究では、化学的に解繊されたCNFの一種であるTEMPO酸化CNFを対象として、藻類生長阻害試験の試験方法を確立し、確立した手法で生長阻害試験を実施して無影響濃度および半数影響濃度を算出しました。まず、TEMPO酸化CNFは、試験培地のイオン成分の濃度を変化させましたが、その変化量は藻類の生長に影響を与えませんでした。次に、CNFの存在は藻類の測定に干渉しませんでしたが、藻類の存在はCNFの濃度測定に影響を及ぼすことが確認され、CNF測定の際は試験期間中に増殖した分の藻類由来のCNF濃度を差し引く必要があることを示しました。検討結果を反映させて生長阻害試験を実施した結果、無影響濃度は≥100mg/L、半数影響濃度は>100mg/Lであるという結果が得られ、TEMPO酸化CNFの藻類の生長に対する影響は低いことが分かりました。
本論文は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価」の結果から得られたものです。
リンク
https://doi.org/10.1016/j.impact.2024.100504
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(文責:田井梨絵)