(2025年1月6日)
産総研の研究成果として、” Pulmonary inflammatory responses and retention dynamics of cellulose nanofibrils”と題した研究論文が、Toxicology(Elsevier)において2024年12月22日付けで発行されました。
セルロースナノファイバー(CNF)は、バイオマス由来の軽量かつ高強度な素材であり、石油由来素材の代替として期待される有望な材料です。本稿では、CNF製品の安全性評価を目的としてラットを用いた動物試験を実施し、その結果を基にCNF暴露による潜在的な吸入影響について考察しました。
本研究では、ラットを用いてCNFの気管内投与後における肺炎症反応および組織内残留を評価しました。使用したCNFは、物理的特性の異なるTEMPO酸化CNF、機械的解繊CNF、短繊維CNFの3種類で、それぞれラット体重1 kgあたり2.0 mgの用量で投与しました。肺炎症の評価は投与28日後に実施し、化学染色したCNFの肺内残留は90日間追跡しました。
その結果、以下のことが明らかになりました。(1) CNFは肺胞マクロファージに取り込まれましたが、顕著な急性炎症は観察されませんでした。(2) CNFの物理的特性、特に繊維径と長さが、肺炎症の程度や炎症部位に大きく影響を与えました。(3) CNF懸濁液中のエンドトキシン濃度は、炎症反応に対して限定的な影響しか及ぼさないことが示されました。(4) CNFは肺組織内に長期間残留し、緩やかなクリアランスを示しました。
これらの結果から、CNFは急性炎症を引き起こす可能性が低い一方で、肺内での長期的な残留が慢性的な低レベルの炎症を誘発する可能性が示唆されます。また、CNFの特性は原料供給源や製造工程により大きく異なるため、各CNFの安全性を個別に評価する必要があります。今後は炎症以外の毒性評価も含めた包括的な検討が重要であると考えます。
本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価」の結果から得られたものです。
リンク
https://doi.org/10.1016/j.tox.2024.154038
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(文責:藤田克英)