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2025年7月 【論文】セルロースナノファイバーの吸入毒性についてのレビュー論文

(2025年7月8日)

産総研の研究成果として、”Inhalation toxicity of cellulose nanofibrils: A review of key findings and future directions”と題した研究レビュー論文が、Carbohydrate Polymer Technologies and Applications(Elsevier)において2025年6月27日付けで発行されました。

セルロースナノファイバー(CNF)は、持続可能で生分解性を有するバイオマス由来のナノマテリアルとして注目されており、包装材や農業、バイオメディカル分野など幅広い産業への応用が期待されています。一方で、その微細かつ繊維状の形態から、吸入曝露による健康影響、とくに長期的な肺への影響が懸念されています。 本稿では、CNFの吸入毒性に関する近年の研究成果を概説し、肺炎症反応、肺内分布および残留、マクロファージによる貪食、さらにはin vitroにおける細胞毒性の知見を整理しました。

これまでの報告によると、CNFはカーボンナノチューブなどの炭素系繊維状ナノマテリアルと比べて、一般に軽度の肺炎症を引き起こすことが示されています。特に、繊維の長さや径といった物理的特性は、肺への到達性や炎症の程度、組織内での残留性に大きく影響することがわかっています。CNFは肺胞マクロファージに取り込まれますが、肺組織内に緩やかに蓄積し、長期間にわたって残留する傾向があります。一方、in vitro試験では、使用するCNFの性状によって炎症応答に差はあるものの、明確な細胞毒性は観察されていません。また、CNF懸濁液中に混入する微生物やエンドトキシンなどの不純物が炎症反応に影響を与える可能性も指摘されていますが、その寄与はまだ十分に明らかになっていません。CNFは原料の供給源や製造方法によって性状が大きく異なるため、吸入毒性の評価は個別に行う必要があります。

今後は、長期的な影響や免疫系との相互作用、実際の曝露条件を踏まえた評価手法の確立が求められます。また、特性評価の標準化や、安全に利用するためのリスク管理体制の整備も重要となります。

本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価」の結果から得られたものです。

リンク

https://doi.org/10.1016/j.carpta.2025.100913

オープンアクセスになっていますので、全文を無償で閲覧できます。

(文責:藤田克英)