(2025年7月11日)
産総研の研究成果として、”Effect of gamma irradiation on cellulose nanofibers”と題した研究論文が、Journal of Wood Science(SpringerOpen)において2025年7月5日付けで発行されました。
セルロースナノファイバー(CNFs)は、植物由来のナノ材料であり、持続可能な用途において有望な可能性を持っています。しかし、水分散液は微生物汚染を受けやすく、食品、化粧品、毒性試験などへの長期的な利用には滅菌が必要とされます。ガンマ線照射は微生物の不活化に有効ですが、高線量ではセルロースの物理的・化学的性質を変化させる可能性があります。
本研究では、市販されている4種類のCNFsに対して、低線量(1~25キログレイ、kGy)のガンマ線照射が与える影響を評価しました。2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカルで酸化されたCNFs(TO-CNFs)では、照射により分子量、繊維長、動的粒子径、グリコシド結合に関連する赤外(IR)吸収ピーク強度が低下し、一方で還元末端数およびC=O伸縮振動に関連するIRピーク面積が増加しました。これらの変化は、グリコシド結合の切断(繊維長の減少)を示しています。同様の変化は、リン酸エステル化CNFs(P-CNFs)および水中カウンターコリジョン法によるCNFs(ACC–CNFs)にも見られました。一方、機械的に解繊されたCNFs(MF-CNFs)では変化は最小限でした。
TO-CNFsおよびP-CNFsの粘度および動的弾性率はガンマ線照射により低下し、繊維長の減少がその理由として考えられました。一方、ACC–CNFsおよびMF-CNFsの粘度および動的弾性率はガンマ線照射により増加し、架橋効果がその理由として考えられました。CNFsはもともと分子量や繊維長にばらつきがあるため、数kGy程度のガンマ線照射による変化は比較的小さいと考えられました。本研究の結果は、CNFの特性を維持しながら適切な滅菌用ガンマ線照射線量を決定するうえで、有用な参考情報となります。
本論文は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価」の結果から得られたものです。
リンク
https://jwoodscience.springeropen.com/articles/10.1186/s10086-025-02215-y
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(文責:小倉 勇)