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2025年10月 ナノセルロースの肺毒性と免疫応答についての研究論文

(2025年10月1日)

産総研の研究成果として、“Pulmonary inflammation and immune responses induced by nanocellulose: Insights from in vivo and in vitro models”と題した研究論文が、Current Research in Toxicology(Elsevier)において2025年9月25日付けで発行されました。

セルロースナノファイバー(CNF)およびセルロースナノクリスタル(CNC)などのナノセルロース(NC)は、化粧品、食品、建材・住宅、包装材、医療製品など、幅広い分野での応用が進められていますが、呼吸可能粒子サイズ(<10 µm)を含むため、吸入曝露による健康影響が懸念されています。本研究では、TEMPO酸化CNF(CNF1)、機械的解繊CNF(CNF2)、CNC1を用いて、ラットへの気管内投与による肺毒性と免疫毒性を評価し、比較対象として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)も使用しました。

すべての材料は2.0 mg/kgで投与され、28日後には全てのNCが肺胞マクロファージに貪食されました。CNF1とCNC1は炎症性マーカーに変化を示し、CNC1は最も顕著な組織変化を示しました。CNF2は限局的な炎症と肉芽腫形成を示し、BALFの変化は最小限でした。いずれのNCもMWCNTより炎症反応および組織変化が軽度でした。脾臓・胸腺のリンパ球サブセットに有意な変化は認められず、全身性免疫毒性は確認されませんでした。

in vitro試験では、CNC1、CNC2(硫酸加水分解)、CNC3(脱硫)を比較した結果、全てのCNCがラット肺胞マクロファージ(NR8383)に取り込まれ、炎症性サイトカインの産生が増加しました。反応は表面化学により異なり、CNC3は軽度〜中等度の細胞毒性を示しました。

これらの結果から、NCは一般にMWCNTよりも肺毒性が低いことが示されましたが、その生物学的影響は繊維形態、表面特性、肺内での沈着挙動により大きく左右されることが明らかとなりました。NCの安全な利用には、混入微生物やエンドトキシンの厳密な検査と管理を含め、材料特性に応じた包括的な毒性評価と標準化された評価枠組みが不可欠です。

本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価」の結果から得られたものです。

リンク

https://doi.org/10.1016/j.crtox.2025.100259

オープンアクセスになっていますので、全文を無償で閲覧できます。

(文責:藤田克英)