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2026年1月 繊維状ナノマテリアルの吸入影響についての解説論文

(2026年1月16日)

(国研)産業技術総合研究所(産総研)の研究成果として、解説論文「繊維状ナノマテリアルの吸入影響と安全性評価 ― 繊維状構造の特性に着目して ―」が、日本粉体工業技術協会の学術誌『粉体技術』において、2026年1月1日付で掲載されました。

本論文では、近年、産業利用が急速に拡大している繊維状ナノマテリアルを対象に、吸入曝露時の健康影響、特に肺毒性と免疫応答に焦点を当て、その評価の考え方と最新の研究知見を解説しています。対象材料としては、カーボンナノチューブ(CNT)やセルロースナノファイバー(CNF)などが取り上げられています。

CNTやCNFは、軽量性、高強度、高機能性といった優れた材料特性を有し、複合材料、電子材料、機能紙など、幅広い分野での応用が進められています。一方で、ナノサイズの繊維状構造を持つ材料は、吸入された場合、その繊維長、直径、凝集状態、表面特性などによっては、肺内に長期間残留し、炎症反応を引き起こす可能性があることが指摘されています。

産総研ではこれまでに、多層CNT、単層CNT、CNF、さらにはサブミクロンサイズのカーボンファイバー(SCF)を対象とした比較研究を実施し、繊維の構造特性が肺胞マクロファージの応答性や毒性の発現様式に大きく影響することを明らかにしてきました。本論文では、これらの研究成果を体系的に整理し、材料ごとに肺内残留性や炎症リスクの現れ方が異なることを示しています。これは、繊維状ナノマテリアルの安全性評価において、単一の基準による画一的な判断ではなく、材料特性に基づいた精密な評価が不可欠であることを示唆しています。

また、安全性評価を進める上での課題として、長期毒性データの不足、製造ロット間における物性ばらつき、実際の作業環境における曝露実態に関する情報不足などが挙げられています。これらは、実用化が進む材料のリスク評価および適切な管理を行うために、今後解決すべき重要な課題です。

国際的には、欧州連合(EU)において特定の多層CNTを発がん性物質として扱う規制の検討が進められるなど、繊維状ナノマテリアルを巡る法規制の動きが強まりつつあります。こうした動向を踏まえ、本論文では、材料の機能性を損なうことなく安全性を高める設計思想である「Safe-by-Design(SbD)」の重要性についても詳しく論じています。繊維長の制御や表面改質など、毒性低減を意図した設計手法はすでに提案されていますが、それらを社会実装へとつなげるためには、制度的支援や国際的に調和した評価枠組みの構築が不可欠であると指摘しています。

繊維状ナノマテリアルを安心して利用するためには、科学的エビデンスの体系的な蓄積と国際協調を基盤とし、実際の曝露実態を踏まえた「リスクに基づく管理」を構築していくことが重要です。本解説論文は、そのための基盤形成に資する重要な知見を提供するものとなっています。

リンク

https://appie.or.jp/shirumanabu/publishing/funtaigijyutu/

https://appie.or.jp/wp-content/uploads/2025/12/2026_1tokusyu.pdf

本論文の本文閲覧をご希望の方は、日本粉体工業技術協会までお問い合わせください。

(文責:藤田克英)