(2023年7月3日)
産総研の研究成果として、第50回日本毒性学会学術年会(2023年6月19~6月21日、パシフィコ横浜 会議センター)においてポスター発表により下記の研究報告を行いました。
・発表題目:セルロースナノファイバー懸濁液の生物学的特性評価
・発表者:藤田克英、小原佐和枝、丸順子、遠藤茂寿、森山章弘、堀江祐範
これまで我々は、セルロースナノファイバー(CNF)の細胞影響を調べた結果、有意な細胞生存能力の低下や、乳酸脱水素酵素の放出、活性酸素種産生の上昇が認められなかった一方、有意な炎症性サイトカイン産生や炎症に関わる遺伝子の高発現が認められたことを確認しました(第49回日本毒性学会年会)。一方、CNFの原料樹種や製法、物理化学特性によりその程度が異なるものの、CNF懸濁液中に細菌やカビ、エンドトキシン、β-グルカンが検出されました。このため、炎症性サイトカインの産生や炎症に関わる遺伝子の高発現は、CNFの直接的な影響と共に、CNF懸濁液に含まれる微生物や生体由来物質の関与が考えられました。
そこで本研究では各種CNF懸濁液の生物学的特性を評価すると共に、抗生物質や高温処理、高圧蒸気滅菌を事例とし、CNF懸濁液の物理化学的特性を評価しながら、滅菌や不活化の手法としての有効性を検証しました。この結果、抗生物質、高温処理、高圧蒸気滅菌はCNF懸濁液中の細菌やカビの滅菌に対して有効であったが、高温処理および高圧蒸気滅菌はCNF懸濁液の物理化学的特性を損ねることが明らかになりました。また、抗生物質、高温処理、高圧蒸気滅菌はCNF懸濁液中のエンドトキシンおよびβ-グルカンを不活化できないことが分かりました。CNFの生体影響を評価する際、被験材料の物理化学的特性のみならず生物学的特性を明らかにすることは重要です。本研究は、CNFの生体影響評価の手法の確立や、生体影響の解明のための有用な知見と考えます。
本発表は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価」の結果から得られたものです。
来年の第51回年会は、福岡国際会議場での開催が予定されています(2024年7月3日から)。
(文責:藤田克英)