(2024年7月19日)
産総研の研究成果として、第51回日本毒性学会学術年会(2024年7月3~7月5日、福岡国際会議場)においてポスター発表により下記の研究報告を行いました。
・発表題目:セルロースナノファイバーの肺胞マクロファージへの影響評価
・発表者:藤田克英、小原佐和枝、丸順子、遠藤茂寿、森山章弘、堀江祐範
セルロースナノファイバー(CNF)は、新規材料として期待されていますが、その繊維状で超微細な性質から、潜在的な健康影響が懸念されています。製造時などの作業者の吸入暴露を管理することは重要ですが、CNFの吸入毒性に関する情報は限られています。本研究では、異なる3種類のCNFおよび微結晶セルロース(MCC)分散液を用いてラット肺胞マクロファージ(NR8383)を48時間培養し、ミトコンドリア脱水素酵素活性、活性酸素種産生、炎症性サイトカイン産生、網羅的遺伝子発現解析、細胞へのCNFの取り込みを観察しました。また、CNF懸濁液に含まれる細菌、真菌、酵母、エンドトキシン、(1, 3)-β-D-グルカンなどの生物学的要素の役割も検証しました。この結果、いずれのCNF暴露においても、細胞へのCNFの取り込みが観察されましたが、有意な活性酸素種の産生は認められませんでした。2種類のCNFに暴露された細胞では、ミトコンドリア脱水素酵素活性の増加、炎症性サイトカインの産生、炎症反応に関連する遺伝子の高発現が観察されましたが、1種類のCNFでは観察されませんでした。また、MCCに暴露された場合はCNFと異なる傾向を示しました。CNF懸濁液に含まれる細菌やエンドトキシンなどの生物学的要素には、明確な相関関係は示されませんでした。以上の結果から、CNF懸濁液が肺胞マクロファージに及ぼす影響は、CNF原料の種類や製造工程、物理化学的特性、およびCNF懸濁液の生物学的特性など、さまざまな要因に影響されることが示唆されました。本研究は、CNFの生体影響評価の手法の確立や、CNFの吸入毒性の解明のための有用な知見と考えます。
本発表は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー関連技術開発/CNF利用技術の開発/多様な製品用途に対応した有害性評価手法の開発と安全性評価」の結果から得られたものです。来年の第52回年会は、沖縄コンベンションセンターでの開催が予定されています(2025年7月2日から)。
(文責:藤田克英)