1. ホーム
  2. ナノ炭素材料の安全性評価>
  3. 情報提供等>
  4. 2015年12月 複層カーボンナノチューブ(MWNT-7)の有害性について:他のCNT やアスベストとの比較

2015年12月 複層カーボンナノチューブ(MWNT-7)の有害性について:他のCNT やアスベストとの比較

(2015年12月7日)

これまで報告してきたように、厚生労働省は特定の複層(多層)CNT(NT-7及びNT-7K)をがん原性指針に含める方向で意見公募を行っている。従来MWNT-7と呼称されていた、この複層(多層)CNTのみが他のCNTと区別されて「がんその他の重度の健康障害を労働者に生ずるおそれのあるもの」と判断されているのには大きな理由が二つあると考えられる。一つは、昨年行われた国際がん研究機構の発がん性評価により、MWNT-7がクラス2B(発がん性の恐れがある)、他のCNTがクラス3(発がん性について分類できない)とされたことである。もう一つは、今年6月に厚生労働省の検討会において発表された、高濃度のMWNT-7雰囲気下で2年間飼育したラットの一部が肺がんを発症したという研究報告である。このように、MWNT-7に関しては、ヒトへの影響は定かではないものの発がん性について注意すべきというコンセンサスが形成されてきた状況と言える。では、他のCNTとMWNT-7とでは有害性についてどの程度の違いがあるのだろうか?

そこで、過去5年間程の間に発表された研究論文から、他のCNT やアスベストと、MWNT-7を動物実験において同時に比較した報告を検索してみた結果を紹介する。培養細胞実験の報告も多々あるが、ここでは割愛する。概観すると、MWNT-7と別のCNTやアスベストとで有害性に差があるとする結果が幾つか見られる。しかし、研究例が少ないことにも気づかされる。今後、より多くの研究事例を蓄積することにより、CNTの有害性の詳細を明らかにしていく必要がある。

 

比較対象のCNTまたはアスベスト 実験概要 結果概要 文献
絡み合った多層CNT、単層CNT(Zeon Corporation) ラット、単回腹腔内投与試験、暴露後4週間まで観察 NT7暴露群において重症腹膜炎および腹膜線維症(肝辺縁の鈍化)。絡み合った多層CNTおよび単層CNTは肉眼で確認できる変化なし。 Toyokuni (2015)
絡み合った多層CNT
(Cheap Tubes Inc.)
マウス、全身暴露による吸入試験を4時間×4日間、暴露後24時間まで観察 NT7暴露群において気道にアレルギー様反応。絡み合った多層CNTは炎症反応の兆候なし。 Rydman(2014)
クロシドライトアスベスト マウス、単回腹腔内投与試験、暴露後34週間まで観察 NT7暴露群の腹腔内において肝臓は丸く変形し臓器の線維性癒着がみられた。クロシドライトは腹腔内に変化なし。 Yamaguchi (2012)
 単層CNT(Sigma-Aldrich)、アモサイトアスベスト、クリソタイルアスベスト マウス、単回腹腔内投与試験、暴露後7日まで観察 (CNTLONG1=NT7)およびアモサイト暴露群において強い線維化反応。単層CNTは炎症反応なし。 Osmond-McLeod (2011)
N-多層CNT (Nikkiso Co. Ltd.)、
N-単層CNT (Nikkiso Co. Ltd.)、 SG-
単層CNT (AIST)
ウサギ、皮膚刺激性試験および眼刺激性試験、 暴露後72時間まで観察 NT7暴露群およびN-単層CNT, SG-単層CNT暴露群において皮膚刺激性および眼刺激性ともなし。
N-多層CNTは皮膚にごくわずかな紅斑、眼に結膜発赤および充血。
Ema (2011)
モルモット、皮膚感作性試験、暴露後48時間まで観察 いずれのCNTも皮膚感作作用なし。
太い多層CNT、絡み合った多層CNT(ともにShowa Denko) ラット、単回腹腔内投与試験、暴露後1か月まで観察 NT7暴露群において重症線維素性腹膜炎および肝辺縁の鈍化、臓器周辺での線維症、中皮細胞の増殖。その他の多層CNTではこのような影響なし。 Nagai (2011)
ラット、2回腹腔内投与試験(間隔は1週間)、暴露後1年(350日)まで観察 NT7暴露群において悪性中皮腫、他の多層CNTよりも頻度が高く進行が速い。

(文責:藤田克英)