厚生労働省労働基準局の「平成27年度化学物質のリスク評価検討会(有害性評価小検討会)」(座長:大前和幸慶応義塾大学医学部教授)の第3回会合が2015年6月23日に開催され、高アスペクト比の針状(アスベスト様)複層カーボンナノチューブ(MWNT-7)について日本バイオアッセイ研究センターが実施したラットによる2年間吸入暴露試験及び遺伝毒性試験の結果等を検討し、発がん性及び遺伝毒性ありと認め、労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針、いわゆる「がん原性指針」を策定すべき、また、検討会によるリスク評価の対象とすべきと結論しました。
小検討会の資料「複層カーボンナノチューブ(MWCNT)の吸入によるがん原性試験結果」の「まとめ」の記述は、以下のとおりです:
当該被験物質(MWCNT)を0、0.02、0.2及び2mg/m3の濃度で2年間にわたり雌雄のF344/DuCrlCrjラットに全身暴露した結果、雄では0.2mg/m3以上の群、雌では2mg/m3群で肺の悪性腫瘍の発生増加が認められた。従って、MWCNTはラット雌雄への全身暴露により明らかながん原性を示すと結論する。
なお、この試験では、中皮腫の発生はみられませんでした。
また、日本バイオアッセイ研究センターの担当者は、粉じん性物質の吸入暴露試験では、通常は、メスの方が感受性が高くでるのに対し、この試験結果では、オスの方が感受性が高くなっており、そのメカニズムは分からないとコメントしています。
今後、所要の手続きを経て、「複層カーボンナノチューブ」について、上記のがん原性指針が策定され、公表されることになります。これは、工業ナノ材料を対象とする我が国で初めての法的規制措置となります。本件2年間吸入暴露試験は、世界的にも注目されていたものであり、その結果及びそれに基づく法的規制措置は、ナノカーボンの実用化に少なからず影響を与えるものと予想されます。
(文責:五十嵐卓也)