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2016年7月 短尺な単層CNTと多層CNTの肺および胸腔における炎症に関する研究報告

(2016年7月1日)

TASCおよびNEDO研究成果として、Pulmonary and pleural inflammation after intratracheal instillation of short single-walled and multi-walled carbon nanotubes(短尺な単層CNTと多層CNTの気管内投与による肺および胸腔における炎症)と題した研究論文が、Toxicology Lettersにおいて平成28年5月31日付けで発行されました1)

本論文は、eDIPS法により合成した単層CNTと多層CNTであるMWNT-7を、幾何平均0.5μmおよび1.8μmの短尺に調製し、それぞれラット気管内に投与(低用量:0.15mg/kg;高用量:1.5mg/kg)して、6ヶ月間のBALF(Bronchoalveolar Lavage Fluid:気管支肺胞洗浄液)中のタンパク、好中球等の細胞数、炎症性サイトカイン、病理観察、網羅的遺伝子発現解析、さらに胸腔内洗浄液の好中球等の細胞数、炎症性サイトカインを試験項目に、肺と胸腔の炎症の度合いを同一の試験系で比較したものです。

この結果、高用量群の短尺単層CNTでは投与後から経日的に炎症が亢進する一方、短尺多層CNTでは炎症が認められるものの経日的な亢進が認められませんでした。しかしながら、短尺単層CNTでは胸腔内の有意な炎症が認められなかった一方、短尺多層CNTでは経日的な炎症の亢進が認められました。さらに、投与後6ヶ月で、両者の短尺CNTは、それぞれ縦隔リンパ節において観察されたことから、肺から移行していることが示唆されました。

昨年12月、NANOSAFETYで、「複層カーボンナノチューブ(MWNT-7)の有害性について:他のCNT やアスベストとの比較」という記事を掲載しました。MWNT-7に関しては、ヒトへの影響は定かではないものの発がん性について注意すべきというコンセンサスが形成されてきた一方、他のCNTとMWNT-7とでは有害性についてどの程度の違いがあるのだろうか?という一連の研究報告を紹介したものです。本研究では、同一の試験系で短尺の単層CNTとMWNT-7を比較した結果、炎症というエンドポイントで差異が認められることが分かりました。同じCNTであっても、生体への影響に対し、単層CNTと多層CNTでは差異があるということになります。さらに言えば、同一のCNTであっても、その長さやバンドルの太さなどの物理化学特性によっても生体影響に違いがあるという我々の報告2,3から、実際にばく露されるCNTの計測と評価が非常に重要と考えます。

リンク

1)http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378427416301382

2)http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/15376516.2013.811568

3)http://www.tandfonline.com/doi/full/10.3109/08958378.2015.1026620

なお、論文1、3はオープンアクセスになっていますので、全文を無償で閲覧できます。

(文責:藤田克英)