トランプ予算、保安機関閉鎖も「歳出法案」優先審議に議会の調整力やいかに【のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO)】by 中島農夫男
さんぽコラム のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO)
トランプ予算、保安機関閉鎖も「歳出法案」優先審議に議会の調整力やいかに
中島 農夫男
投稿日:2017年08月23日 15時00分
米国・トランプ政権は、2017年3⽉16⽇に2018会計年度(2017年10月-2018年9月)の予算ブループリント『America First』を発表した。連邦財政赤字を拡大せずに米軍の再建と国防費だけは増額を認めつつ、それ以外の分野では大幅な歳出削減が模索された。国防予算の増額は、その他省庁の削減で相殺したものである。特に削減幅が⼤きい環境保護庁(31.4%減、約3,200名の人員削減)、国務省等の国際協力プログラム(28.7%減)等が提示された。
19の独立行政機関が閉鎖対象となり、既存の規制責任部局(OSHA/EPA)とは独立した化学産業の事故調査機関(CSB:U.S. Chemical Safety Board)も安全分野では唯一の閉鎖対象として含まれた。閉鎖理由は、
(1)事故調査に既存規制当局との重複(二重性)が多い
(2)近年、より大きな規制の必要性を要請し、既存規制当局(筆者注:OSHAと思われる?)や産業界の不満や摩擦がみられる
等が挙げられていた。
CSBは、規則立案や罰則権限を持たずに中立の立場から重大事故の根本原因を調査し、対策を推奨して将来の再発防止につなげるべく実務者の意見を聴取しつつ情報公開するユニークな機関であり、毎年わずか1,100万ドル(約12億円)と43名の専門家(20名は調査者)のスタッフの予算で運営されている。当然、CSB議長の落胆声明(2017年3月16日)や労働者組合、他の地域を含む各種団体、マスコミ等の反論が出された。化学会の広報責任者は、小さな予算規模にもかかわらず大きな影響を与えてきたきわめて重要な機関と述べ、CSBの調査を受けた事業者(副社長)が、機能的で専門的な調査機関が廃止されるのは産業界の誰もが見たくはないとも述べていた。また、事故の学習機会が外部実務者や市民としばしば情報共有されなかったCSBの活動以前の状態に戻すのかとの論調もあった。
立法府の議会は、2017年5月に閉鎖対象となった行政機関に活動と予算の必要性を提出させた。CSBも2018会計年度を2017年度+αの予算とし、19年間に130件以上の事故調査を行い、ほぼ100件の調査報告書を公表していること、およそ800項目の勧告を提出し78%以上が実施済みであること、さらには68のビデオ創作の成果および連邦規制機関、産業界従業員、標準化推進組織、学界等を支援して化学産業をより安全にするCSBの必要性と意義を提出した。
下院歳出委員会は、2017年7月11日に2018会計年度の環境関連予算を公表した。将来の世代のために環境安全を保護するプログラムに限られた資金提供を優先させるとして、CSBには2017会計年度と同等レベルの歳出をするとしている。トランプ政権が掲げた公約の審議や採決も遅れていると怪聞するに付け、夏休み後の議会では、上下両院ともに9月末が締め切りである歳出法案の審議を優先して致命的な混乱を起こさずに、CSBの継続性が担保されることを望むものである。
米国化学安全委員会(CSB:U.S. Chemical Safety Board)
毎年4-8件の大規模な事故についての詳細な解析を行い、その報告書をCompleted Investigationsとして公開するとともに、関係機関等に規制等の制定を勧告する機能を有する。CSBのWebページのトップページでは、最新の事故調査映像、最近のお知らせ、化学事故ニュース等の情報を掲載するとともに、メディア情報、調査員による情報等が逐次追加、更新されている。また、CSBでは実映像やコンピュータグラフィックによる再現映像を用いた事故事例の紹介映像の制作などにも力を入れており、事故事例の理解を助けるための工夫がなされている。こうした映像の一部は動画サイトYouTubeのUSCSBチャンネルでも公開されている。CSBの調査例:2016年11月22日、米国・ルイジアナ州での事故
・当該事故調査報告書(英語):ExxonMobil Refinery Chemical Release and Fire
・USCSBチャンネルで公開されている映像
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 客員研究員
化学系民間会社で事業と技術のライフサイクルの各ステージを広く薄く携わった後、産総研にて事故情報収集と原因分析業務などに従事しております。
事例の物語風編集で”気づきセンス”の研ぎ澄ましにお役に立てればと思っています。