産業保安と事故事例データベースの活用【RISCAD Story 第1回】by和田有司

さんぽコラム RISCAD story 第1回/全10回
産業保安と事故事例データベースの活用
-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-
和田 有司

投稿日:2017年09月28日 10時00分

 2010年代に入り、大きな化学事故が増えている。個々の事故の原因は様々であろうが、その根本となる原因の一つに、熟練技術者の減少が関係していると言われてきた。1970年代までにいろいろなトラブルを経験しながら現場を支えてきた熟練技術者達がリタイアし、安定操業が当たり前の時代の技術者が現場を支えている。トラブルの経験がない者がトラブル対応をしようとしても、うまくいかない。このような状況を打開するために、体験型の安全教育が盛んに行われているが、まだまだ十分とは言えないのが現状である。

 「事故に学べ」とは良く言われる言葉であるが、実際に事故を起こしてしまっては、本末転倒である。そこで、「過去の事故事例に学ぶ」ことが必要になる。本コラムでは、事故事例を学ぶことによって、事故事例を疑似的に体験し、事故を繰り返さないことを目的に開発され、化学物質が関連する火災、爆発、漏洩などによる事故事例を集めた「リレーショナル化学災害データベース(RISCAD(リスキャド):Relational Information System for Chemical Accidents Database)」の概要とその開発経緯を紹介する。

 また、複雑な事故を容易に理解するために、RISCADの一部の事故事例には、事故を時系列で整理し、原因を分析した「事故進展フロー図」を収録している。この「事故進展フロー図」を作成するために開発され、組織の安全意識の向上に有効な「事故分析手法PFA®」(PFA:Progress Flow Analysis)*の実施手順と企業の産業保安への活用手法について検討した結果を紹介していく。

*「事故分析手法PFA」、商標登録 第5580785号(2013)

※このコラムは2013年に産総研の学術誌「Synthesiology − 構成学」に掲載された「産業保安と事故事例データベースの活用-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-」を再編成したものです。

和田 有司 / Yuji WADA,Ph.D

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付

1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。