RISCAD開発経緯【RISCAD Story 第3回】by和田有司

さんぽコラム RISCAD story 第3回/全10回
RISCAD開発経緯
-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-
和田 有司

投稿日:2017年11月20日 10時00分

 1990年代後半に、横浜国立大学 小川輝繁教授(現名誉教授)らが中心となって活動していた「物質安全研究会」では、化学プラントの安全性診断のためのエキスパートシステムの開発に取り組んでいた 1-3)。当時、実際にモデルとなる方々がいたのであるが、化学企業の安全エキスパートと呼ばれた方々が化学プロセスの安全性を判断する際の思考回路をシステム化しようという試みであった。その中で安全エキスパートの方々は、化学工学や化学プロセス安全の知識に加え、過去の事故事例を各人なりの方法で整理して、頭の中に蓄えている、ということがわかった。そこで、エキスパートシステムには、事故事例データベースの組み込みが必須と考えられた。しかし、当時の日本国内の事故事例データベースは、危険物や火薬類、高圧ガスなどの法令に基づいて報告された文字情報を主体とし、単に数行の事故の概要が収録されているにすぎず、事故事例からの何かの知識や教訓を得られる、というレベルではなかった。

そこで、産総研が中心となって、化学事故に特化した事故事例データベースの開発を計画した。そして、1999年10月より3年間、科学技術振興機構(JST、当時の科学技術振興事業団)の「研究情報データベース化事業」の支援を受け、「物性リンク型化学事故事例データベース」(RISCAD開発段階のプロジェクト名)の開発を進め、2002年10月に公開されたデータベースがリレーショナル化学災害データベース(通称:RISCAD、リスキャド)である。前述の「物質安全研究会」をはじめ、システム開発を委託した三菱総合研究所の協力を得て、錚々たるメンバで開発が行われた。

開発に際して特に考慮したのは、利用者による過去の事故事例と「同様の」事故を未然に防止するために有益な情報をどのように盛り込むか、ということであった。そこで、事故事例にその事故に関連した物質の危険性情報とのリンクを張り、事故事例を階層化されたキーワードによって分類し、文字以外の画像情報や事故事例を分析した結果(現在の事故進展フロー図の前身)を収録した。それにより、利用者が化学物質を取扱う際にその化学物質や使用状況により近い事故事例を検索することができ、同時に化学物質に関する危険性情報を知り、事故の起きた状況をより深く理解し、事故を疑似体験できるようなデータベースの構築を目標とした。

1) Takasaki, R., Nobe, J., Wada, Y., Wakakura, M. and Miyake, A. : Hazard identification system based on fire and explosion accidents in chemical processes, Proc. Asia Pacific Symposium on Safety, Vol.1, pp.151-154(2001)
2) 高崎倫,岡泰資,三宅淳巳,小川輝繁,若倉正英,野邊潤,和田有司:化学プロセスの事例解析による危険性評価システム構築手法の検討,第35回安全工学研究発表会講演予稿集,pp.137–140(2002)
3) 高崎倫,岡泰資,三宅淳巳,小川輝繁,若倉正英,野邊潤,和田有司:化学プロセスの危険性推論システムにおける事例情報のパターン化の検討,第33回安全工学シンポジウム講演予稿集,pp.334-337(2003)

和田 有司 / Yuji WADA,Ph.D

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付

1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。