RISCADの運用【RISCAD Story 第5回】by和田有司

さんぽコラム RISCAD story 第5回/全10回
RISCADの運用
-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-
和田 有司

投稿日:2018年1月19日 15時00分

 文字以外の情報として、事故調査報告書などに記載されている反応プロセスフロー図、機器・設備配置図、事故を起こした装置の概略図、反応式などの画像情報を収録できるようにした。

例:化学合成実験中の自然発火 – RISCAD(1987年4月8日)に収録されている装置図

事故事例を解析した結果の表示機能として、マクロな統計分析については、事故事例検索結果のグラフ表示機能を搭載し、なおかつウェブブラウザ画面上でダイナミックに表示方法などを変更できる機能を搭載した(本機能は現行版では削除されている)
初期のRISCADでは、主要な事故事例について、専門家によって事故に関する事象を時系列で整理し、それに対してHAZOPで用いられているような事故の引き金となるような通常状態からのズレを抜き書きした事故進展フロー図を作成し、事例にリンクさせた。現在は、我々が開発した事故分析手法PFA®によって主要な事故事例を分析し、事故進展フロー図を作成して収録している。事故分析手法PFA®と事故進展フロー図については、次回以降で詳細に述べる。
また、JSTの要望もあり、国際化時代に対応するためデータベースをすべて翻訳し、同等の機能が英語版でも利用できるようにした。残念ながら運用予算の関係で、最新事故事例の英訳は後回しになってしまっている。

実際の運用にあたっては、まず、日々事故情報を集める作業を行っている。これは、インターネットの新聞や通信社などの報道メディアのウェブサイトを巡回して、事故の発生について知ることである。インターネットが発達して、検索などが容易にできる時代であり、こうした情報収集は容易にできると考えられがちであるが、例えば、「爆発」というキーワードで検索をすれば、打線爆発や怒り爆発といった情報が入り込み、「火災」で検索すれば、火事、出火やぼやは抽出されない。経験から複数のキーワードを設定して検索しているが、最後は人が確認するしか方法がない。こうして事故の発生についての情報を入手したら、次に、より正確で詳細な情報を求めて、発災企業のホームページや、発災地域の自治体のホームページを検索する。また、詳細な事故調査報告書は、事故から数ヶ月から1年以上も後に公表されることもあり、大きな事故に関しては、常に情報のフォローアップが必要となる。

事故概要の作成では、著作権の問題と内容の信頼性の問題で、報道情報をそのまま掲載することはできないので、複数の情報から客観的事実のみを抜き出して、次回以降に紹介する一定のルールで概要文を作成している。さらに、これらの事例を上述の階層化キーワードで分類する作業は、化学安全工学や化学プラントの知識を持った専門家でなければ困難である。

このような作業を経て、RISCADでは年間約250件の新規事例を追加している。残念ながら、法令に基づき報告されるような事故情報を収録したデータベースとは異なり、網羅性の点では十分とは言えず、統計処理は誤った理解を与える可能性があるため、現行版では検索結果の統計処理機能は削除した。

和田 有司 / Yuji WADA,Ph.D

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付

1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。