事故分析手法PFA®開発経緯【RISCAD Story 第6回】by和田有司

さんぽコラム RISCAD story 第6回/全10回
事故分析手法PFA®開発経緯
-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-
和田 有司

投稿日:2018年2月15日 10時00分

 事故分析手法PFA®(Progress Flow Analysis)は、RISCADの中で、利用者に複雑な事故の内容を一目で理解できるようにすることを目的として、いくつかの事例にリンクさせてきた「事故進展フロー図」を作成するための手法として発展してきた。

※参考:RISCADパンフレットと一緒に配布している事故進展フロー図説明の別紙
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事故進展フロー図は、RISCAD運用グループの誰かが事故事例の事故調査報告書などから、事故に関連する事象を時系列で抽出し、原因を考えて、事故進展フロー図の原案を作成し、それをRISCAD運用グループ全員で確認し、議論して仕上げる、という手順で行っていた。

RISCAD運用グループには、安全工学、化学安全の研究者はもちろん、化学企業OBも所属している。そして、化学とは無関係の経済学など文系の出身者もいる。研究者は、事故調査報告書を読み解くことには長けているが、実際の現場のことはわからないことが多い。こういう設備に対して、現場ではこういう対策がとられているのが常識だ、といったことは、化学企業OBの現場経験に基づく発言を聞いて初めて知ることができる。また、化学や現場の常識に囚われない素朴な疑問が、核心を突いていることもある。言い換えると、グループで議論することによって、お互いのバックグランドを補完しあって、知識や経験を共有できることがわかってきた。特に化学企業OBの現場経験に基づく発言は、化学プラント勤務などの現場経験の無い研究者にとって得難いものであり、事故調査報告書からだけでは読み解けない原因などを抽出するために大変役に立った。これは、まさに現在、企業現場で問題となっている熟練者の知識や経験の伝承や組織の安全意識の低下に対して有効な対策となる。

そこで、この知識と経験の共有を化学プラントの現場で実践できないかと考え、「事故進展フロー図を作成するための手法」を事故分析手法PFA®としてまとめることにした。事故分析手法PFA®は、単に事故進展フロー図を作成して、事故を分析する手法にとどまらず、事故分析を通じて、組織の安全文化を伝承し、安全意識を向上するための手法と考えている。

和田 有司 / Yuji WADA,Ph.D

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付

1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。