事故進展フロー図の構成【RISCAD Story 第7回 】by和田有司

さんぽコラム RISCAD story 第7回/全10回
事故進展フロー図の構成
-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-
和田 有司

投稿日:2018年4月12日 10時00分

 以前は事故事例を理解するためには、数10ページに及ぶ難解な事故調査報告書を各自が読解するしかなかった。しかし、それでは、日々多忙な現場で十分に事故情報を活用することは困難である。そこでRISCADでは、難解な事故調査報告書を読まなくても、一目で事故が理解できるように整理したものを事故事例にリンクさせることにした。これが事故進展フロー図である。
事故進展フロー図は、「事故概要」「背景」「事故進展フロー」「恒久的対応策」、および「教訓」から構成される。事故進展フロー図の様式を下図に示す。

事故進展フロー図の様式

「事故概要」欄には、発生日時、場所、および、概要文を記述する。RISCADでは、一般の事故事例も含め、一定のルールを定めて、この事故概要を作成している。

・発生日時は西暦とし、場所は市町村名までの記載とする。
・概要文は、「どこ(○○工場)で、何が(爆発、火災、漏えい、中毒)起きた。」を最初に記載し、被害の拡大状況や消防活動などを続ける。
・最終的な被害は、物的被害、人的被害に分けて、物的被害、人的被害の順序で記載する。
・次に事故原因を記載するが、ほとんどの場合はそうであるが、原因が明確でない場合には、「・・・という可能性がある。」と断定を避けている。
・最後に、事故後の対応や行政による処分などを記載する。

次に、「背景」欄には事故の背景となった事柄や補足的な情報を記述する。設備の老朽化や法令への対応状況の参考となる事故が起きた設備の設立年代や設立の経緯、事故現場の繁忙度の参考となる事故当時の社会情勢や事業所の状態、化学プロセスの事故であれば、関連化学物質の危険性やプロセスフローなど、必ずしも事故に直接関係のない事柄でも構わないが、事故を理解する上で役立ちそうな情報があれば記載する。天候は、温度や湿度が事故に影響している場合があるため可能な限り調べて記載する。

「事故進展フロー」は、事故進展フロー図の主要部分であり、事故分析手法PFAを実施する土台となる。「事故進展フロー」部分は縦3列から構成される。中央列には、設備、物質、人、組織に拘わらず事象を時系列に並べ、各事象において問題の有無を検討し、問題のある事象については、左列にその原因を抽出する。原因の抽出方法については次回紹介する。火災、爆発、漏えいなどの最終事象に至るまでを「経過」として記載し、被害拡大や消防活動など事故後の事象は、「対応操作」として記載する。右列は、備考欄である。備考には、各事象の補足情報を記載するほか、抽出した原因に対して、その原因を抽出するに至った理由や経緯の説明を記載する。

「恒久的対応策」には、「事故進展フロー」内で抽出された各原因に対する対応策を検討し、記載する。さらに、恒久的対応策を普遍化したものを教訓として、「教訓」欄に記載する。RISCADでは、教訓の表現方法として、簡潔で興味を持たれそうな「教訓フレーズ」をまず記載し、その説明文を一般的な意味とその教訓が分析した事例にあてはまる部分が理解できるように、全体で数行にまとめて記載する。

事故進展フロー図は、時間の流れを基に分析を実施するものであるため、初心者でも比較的容易に事故進展フロー図を作成することが可能である。事故進展フロー図を作成するにあたっては、詳細な事故情報があることが望ましいが、少ない情報であっても相応に原因を抽出し、対応策を検討することができる。ここで重要なのは、事故事例からできるだけ多くのことを学び、多くの対策を考えようとする意識であり、そのためRISCADでは事故原因は推定された原因を許容することとしている。また、事故進展フロー図は、分析者以外の第三者が閲覧した場合に、難解な事故報告書を読むよりも事故の進展や原因がより容易に理解できるという利点がある。さらに、事故の進展を時系列に従って確認することにより、事故を擬似的に体験できる体験学習の効果が期待できる。

事故分析手法は、FTA(Fault Tree Analysis)やETA(Event Tree Analysis)、なぜなぜ分析やVTA(Variation Tree Analysis)などが知られているが、これらの手法はある程度の分析者の経験と事故に関する情報量が必要である。これらの分析手法に比べて、事故分析手法PFAは少ない情報量で、誰でも容易に実施でき、簡便であるという点が優れている。

和田 有司 / Yuji WADA,Ph.D

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付

1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。