実験中の事故がなくならない(1)【Dating Chemistry 人と化学のランデヴー】by 若倉正英

さんぽコラム Dating Chemistry 人と化学のランデヴー
実験中の事故がなくならない(1)
若倉正英

投稿日:2018年4月25日 15時00分

 大学や研究室では化学実験中の事故がなかなかなくならないとの声をよく聞く。また、小中学校、高校でも教える側の知識不足とも思われる事故が起きていて、化学実験をやりたがらない学校も少なくないようである。しかし、実験は化学の楽しさを知る良い機会であり、技術を柱とする日本の将来にとってゆゆしき問題とも言える

RISCADチームでは事故情報の一次データとして新聞や雑誌の速報も収集している。なお、これらの情報はすぐにRISCADに掲載されるのではなく、複数の情報や専門家の検証を経て提供されることになる。
2015年以降、学校や研究機関で起きていた火災、爆発、有害物漏洩の事例を以下に示す。残念ながら安全の事前評価や事故対策の不十分さが見受けられる。次回から学校での理科実験の問題点を事故事例から考えていきたいと思う。

事故発生場所 事故の概要
研究機関 陽子加速器施設の電磁石制御盤変圧器から出火し火災が起きた。電気回路の設計ミスで、過電流が流れて発熱した。
小学校 理科の授業ででろうそくを作る実験中にコンロの火で児童の衣服に着火した。ろうそくを溶かす工程で屋外通路でコンロを使っていた。
中学校 理科実験で硫黄と鉄を混合して硫化鉄を作る実験をしていた。硫化水素が発生するため、担当教師は換気などの対策をとっていたが、生徒らが発生した硫化水素を吸入した。
高校 化学室でせっけんを作るため、薬品を入れたフラスコをガスバーナで加熱する実験中に爆発が起き、部員の生徒3名が負傷した。顧問教員はおらず、生徒のみで実験をしていた。
大学 実験室でアルコール溶液の加熱蒸溜中に燃焼が起き、学生1名が顔にやけどを負った。
大学 研究室内の細菌を封入した実験機器で、装置の誤使用で外気が内部に入り、内部の菌が漏れたが、実験者等への健康影響はなかった。
中学校 科学部で酸化銅とアルミニウムの粉末を空き缶の中で混ぜ、火を付けて銅を作る実験中、激しく燃え上がり、生徒や顧問教諭がやけどを負った。
大学 大学内で燃料電池のコーティングのため、メタノールの入ったガラス容器で混合作業中に、内部の圧力が高まり、学生が動かした際に破裂し、実験者は軽傷を負った。
研究機関 シランガス及び水素ガスを使用する半導体結晶成長装置の清掃中に、爆発が起き1名がやけどを負った。
大学 酸化クロムとブチルアルコールを使った新薬開発実験で、酸化クロムとブチルアルコールを調合中に爆発が起き、学生1名が顔にやけどを負った。
研究機関 研究所で塩素ガスボンベ交換作業中にバルブ操作を誤って塩素ガスが漏洩した。
高校 理科室で、教諭が実験で使用したナトリウムの保管のため、ガラス瓶に灯油を入れていた際にガラスビンが破裂し、割れたガラス瓶の破片で指に切創。灯油に含まれた水分がナトリウムに反応した可能性。
大学 RI低レベル実験室で火災が起きた。微量の放射線量が検出されたが、人体に影響のないレベルであった。出火直前まで研究員が実験をしており、木製机上で使用したヒーターの電源を切り忘れ、部屋を離れたのが出火原因の可能性。
大学 実験中に爆発が起き、フラスコを置いていた実験台やコンセントが焼損した。この爆発で大学院生が両手にやけどを負った。
中学校 酸化銅と活性炭を加熱し、二酸化炭素を生成させる実験中に異臭がし、生徒8名が病院に搬送されたが、軽症。
中学校 フラスコに塩酸と亜鉛を入れて水素を発生させフラスコから管で試験管に集め、着火させる実験でフラスコから漏れた水素に着火し、フラスコが破裂し破片が飛散し、生徒3名が手首や耳に切創を負った。
中学校 フラスコに塩酸と亜鉛を入れて水素を発生させる実験で、塩酸と亜鉛を混合したフラスコが破裂し、生徒9名が目に破片がはいったり、顔に擦り傷などで軽傷を負った。
中学校 理科の実験で、教諭がトイレ用酸性洗剤と台所用塩素系漂白剤を混ぜる実験をして塩素ガスを発生させ、生徒ににおいをかがせたたところ、生徒1名が一時入院した。教諭は理科への関心を高めるために同実験を行っていた。
中学校 理科の実験で鉄と硫黄の粉末を混ぜバーナで加熱したところ、ガスが発生して生徒21名が体調不良やのどの痛みを発症した。
中学校 硫化水素を発生させる実験中に体調不良で、生徒8名が病院に搬送されたが、軽症。換気扇を廻すなどはしていた。
中学校 硫化鉄を作る(硫化水素を発生させる?)実験後に生徒3名が体調不良で病院搬送されたが、軽症。
中学校 鉄と硫黄をまぜ、アルミホイルに包んでガスバーナで加熱し、硫化鉄を作る実験中に体調不良やのどの痛みで生徒12名が病院に搬送されるも軽症。
中学校 鉄と硫黄をまぜた後、塩素と反応させて硫化水素を発生させる実験を行っていたところ、生徒5名が喉の痛みや頭痛で病院に搬送されるも軽症。
大学 共同研究施設の2階の実験室で爆発が起きた。施設を使用していたベンチャー企業の社員1名が手や顔に切創で重傷を負った。薬品を混合する実験中に何かの原因で爆発した可能性。同社は硫黄化合物の製造、販売を行っていた。
大学 実験室で薬品廃棄中に爆発が起き、教員1名が顔にやけどで軽傷を負った。研究室の引越し準備のため負傷した教員1名で室内の薬品などの整理中、薬品名表示のないガラス瓶入りの液体を流しに捨てたところ爆発した。
若倉 正英 / Masahide WAKAKURA

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 客員研究員
特定非営利活動法人 安全工学会 保安力向上センター センター長

産総研での事故分析や保安力の評価などに従事。モットーは、”遊びと仕事の両立”。