自然災害に起因する産業事故【注目の化学災害ニュース】2018年9月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2018年10月04日 10時00分

2018年9月のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。今年は記録的に早い梅雨明けに始まり、猛暑、地震に台風と、各地で自然には抗えないことを思い知らされることが多い年となっています。現在日本に近づいてきている台風25号の進路も気になるところです。さて、そんななか、RISCAD Updateでも自然災害が原因で起きた事故をいくつかお知らせしました。このような自然災害が発端となって起こる産業事故は、Natech(ナテック:Natural-Hazard triggered Technological Accidents)と呼ばれます。今回はそのような自然災害に起因する産業事故にClose UPです。

今年は記録的に早い梅雨明けからの猛暑という長い夏になりました。そしてその後9月に入り、北海道での最大震度7を観測した地震、複数の猛烈な台風の上陸など、自然災害が相次ぎました。先日台風24号が関東を通過した際も、夜は眠れないほどの暴風雨でしたね。翌日、近所の公園も私たちの職場の敷地内も折れた木や枝、飛ばされた葉っぱなどが散乱していました。遊歩道では大木が倒れて通れなくなったところもありました。また、今も台風25号が日本に近づいており、その進路が気になるところです。

確かに、異常に自然災害の多い年ですね。そしてそれらの自然災害が発端となって起きた産業施設の事故も多くありましたね。

そうですね、例えばRISCADに掲載した事例だと以下のようなものがありました。
9/4 兵庫・台風の高潮で浸水した自動車から火災
9/5 兵庫・台風の高潮で浸水したコンテナでマグネシウム火災
この事故は、マグネシウム火災であることから、発災から1ヶ月が経過した現在でも鎮火していません。
9/6 北海道・地震による停電で製鉄所の製鋼工場で火災
また、
9/6 福井・繊維工場で機械の試運転中に火災
この事故も、台風による停電で製造が停止し、その後の機械の試運転中の事故なので、遠因には自然災害があげられます。

Natech(自然災害に起因する産業事故)

伊藤さんは「Natech」という言葉を知っていますか?

「Natech」ですか。うーん、聞いたことがないです。それはなんですか?

「Natech」とは、Natural-Hazard Triggered Technological Accidentsの略称で、「自然災害に起因する産業事故」を意味します。

なるほど、そのような言葉があるのですね。確かに上記事例を含め、過去にも「Natech」に該当するものを結構見たことがある気がします。

私が初めてNatechという言葉を耳にしたのは、2008年に初めてOECD(経済協力開発機構)のWorking Group on Chemical Accidents(化学品事故WG)に出席した際に、次期2009年〜2012年のWGの課題として、Natechのリスクマネジメントが提案された時でした。その時は、略称だけでなく、Natural-Hazard triggered Technological Accidentsが併記されいたので、おそらく欧州中心とするWGの参加者にとっても、それほど慣れ親しんだ言葉ではなかったのではないでしょうか。

その後、同WGのプロジェクトとして実施され、2012年に第1回のNatech Workshopがドイツのドレスデンで開催されました。これには私が日本からただ1人参加しましたが、2011年の東日本大震災から約1年後で、その概要を報告したこともあり、かなり注目されたことを覚えています。おかげで、OECDのNatech関係者には、日本のNatechの第一人者と勘違いされてしまいました。先月、第2回のNatech Workshopがドイツのポツダムで開催された際には、日本からも多数参加したと聞いています。

そうですね。東日本大震災でもNatechに該当する事故が多数起きましたね。海外でもあの地震と津波は衝撃的でしたでしょうし、また、ほかにも衝撃的な事故も起きたので第1回のNatech Workshopでの和田さんの注目度合いは想像できます。

話がそれましたが、欧州でNatechと言えば洪水です。その原因となる気候変動も注目されています。大きな国際河川が氾濫し、有害物質が流されると河川の下流にある他国に大きな影響をもたらします。そういうことが起こらないように、きちんと気候変動も配慮したリスクマネジメントをしましょう、ということだと思います。2012年のワークショップの際、その前年に洪水に見舞われた地域を見学しましたが、彼らは、この設備は30年に一度の洪水に耐えるとか、50年に一度の洪水に耐える、と言った言い方をしていました。設備の危険度に応じて、安全対策の重みを変える、まさにリスクベースの発想です。

もっとも、古くからの洪水の情報がきちんと蓄えられていてこそですので、いつ起こるかわからない地震に対して、同じ発想を持ち込むのはかなり難しいと思います。数年前までは、日本は洪水よりも地震とそれに伴う津波が問題なので、ちょっと対象が違うと言ってきましたが、今年はそうも言っておられない状況になりました。あらためて欧州のNatechのリスクマネジメントに学ぶときかもしれません。

地震も台風も、もう勘弁してほしいですが、いずれにしても、今後、日本の産業界も「Natech」を念頭に置いた対策をしていかないといけませんね。

【編集後記】

異常気象のニュースを目にするにつけ、今は昔、私が育った昭和50年代から60年代は平和だったなと感じます。夏休み、最高気温が32℃となれば「今日は暑いね!」とプールへまっしぐら。それが今年、平成最後の夏は気温が40℃近くになった地域もあり、気温が高すぎてプールの授業が中止になった学校もあると聞きました。それだけを例に上げても、私たちを取り巻く自然環境は変化してきています。もう何年も毎年のように聞いている気がする「異常気象」という言葉。「異常気象」が「平年並み(通常気象?)」にならないことを願ってやみません。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子