災害廃棄物による火災【注目の化学災害ニュース】2019年11月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2020年01月09日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
昨年10月に日本列島を襲った台風19号。大雨による多数の河川の氾濫、決壊や土砂崩れが起き、その結果、住宅の床上、床下浸水そして損壊などが起きました。気象庁はこの台風19号が「大規模損壊1,000棟以上、浸水家屋1万棟以上、相当の人的被害」という台風の名称を定める被害の基準要件を満たすことから、今年5月までにその名称を定める見込みだそうです。大きな爪痕を残した台風19号、今回は主にその被害により損壊した住宅などから出た「災害廃棄物」に着目します。災害後に出たそれらの災害廃棄物が原因となる火災が起きているというのですが、果たしてどのようなしくみで災害廃棄物特有の火災が起きるのか、今年最初のこのコーナーは「災害廃棄物による火災」に、Close UPです。

昨年は台風による被害が多い年でした。中でも9月の台風15号による千葉県内の長期にわたる停電と、10月の台風19号による多数の河川の氾濫は印象に残っています。栃木県に住む私の友人3人は河川氾濫の被害に遭い、1人は自宅が床上浸水、1人は実家が床上浸水、1人は自宅が床下浸水して所有していた自動車2台も浸水し、乗れなくなってしまったとのことです。

実家が床上浸水した友人から聞いた話では、浸水後の家の片付けと並行しての行政でのり災証明書発行や補助金申請などを経て、やっと業者に修繕をお願いする段階まできたものの、周囲の建物がみな同じように被害を受けていて、業者は大忙しで、修繕完了にはまだ時間がかかりそうとのことでした。

伊藤さんの友人をはじめ、被災された方々が、早く元どおりの生活が送れるようになるよう、願ってやみません。

「災害廃棄物」の処理

しかし、家が浸水しただけでも相当なダメージなのに、その片付けに、書類申請に業者選定と・・・仕事などの日常生活と並行してそれらを進めていかなくてはならないのですから、本当に大変なことだと思います。

片付けでは、家が浸水したために使用できなくなった家具や、電化製品、そして家の内装に使用されていたものなど、処分しなくてはならないものがたくさん出るので、それを廃棄物集約場所まで運ぶのが大変だという話も聞きました。自治体により差はあるとは思うのですが、通常時のごみ収集のようなことはしてもらえない場合があるようです。

また、近所一帯がほぼ同じように災害で被害を受けているため、廃棄物の量もそれだけ多く、それをみんなが一度に捨てに行くことになるので、廃棄物集約場所近くの道路が渋滞してしまうのだそうです。当然捨てるのにも順番待ちが発生するわけで、想像しただけでぐったりしてきます。

災害に伴い排出されるごみのことを、「災害廃棄物」(参考:「災害廃棄物対策情報サイト」(環境省))と呼びます。

このサイトの情報からもわかるように、災害が起きるとそれに伴う廃棄物が大量に出ます。

災害を廃棄物の面から考えたことがなかったのですが、この「災害廃棄物対策情報サイト」を見て改めて考えさせられました。台風に豪雨、土砂災害、地震と、災害には大量の廃棄物がつきものですね。建物やインフラに始まり、土砂崩れなどで山林の木の倒壊などが起きれば、自然の残骸までもが廃棄物になる可能性がありますね。

「災害廃棄物」による火災

そういえば、災害後しばらく、災害廃棄物というキーワードを含む火災のニュースをよく耳にしました。

2019/11/28 福島・ごみ処理施設の不燃廃棄物置場で火災
廃棄物処理施設の高さ5.5m、幅10m、奥行10mの不燃廃棄物置場での火災。同廃棄物置場には、10月の台風の影響で発生した水害で出た災害廃棄物が保管されており、何かの原因で廃棄物から出火した可能性がある。

この火災は、不燃廃棄物置場にあった災害廃棄物からの出火とのことですが、この災害廃棄物が可燃・不燃と分別されていたかどうかは別として、災害廃棄物のうち、不燃物のみが保管されていた場合でも火災が起きることはあるのでしょうか。

災害廃棄物の不燃物と一概に言っても、そこに分別されるものの内容は各自治体によってさまざまかと思います。

ここで推測できることのひとつとして、例えば廃棄家電製品が保管されていた場合、それらに電池類が入ったままになっていて何かのきっかけで通電して短絡が起きることなどが原因となり火災に繋がる可能性はあります。分類上は不燃物でも、多くの製品にはプラスチックなどの可燃物が使用されているので、火勢が大きくなる可能性があります。

また、通常時であればより細かく分別される廃棄物が、災害廃棄物という括りで積上げられていく可能性も否定できません。

そうですよね。使用できなくなったものだらけで、それを片付けようとしている時に、可燃か不燃かの分別をするのも大変なところ、電池が内蔵されているのを確認して外すということまでするのは容易ではありませんよね。

また、このような火災も起きました。原因ははっきりとしていませんが、こちらは木屑なので、可燃物の火災のようです。

2019/10/20 福島・災害廃棄物集積場で火災
災害廃棄物集積場に高さ約5m、幅約3mに積まれた木屑などが焼ける火災。消防が出動して約50分後に消火した。

着火源は不明ですが、災害廃棄物の中に、例えばカセットコンロ用ガスボンベやスプレー缶などがあった場合、積上げられた際の衝撃などで缶が破損しガスが漏洩して滞留していたらどうなるか、このコーナーでも過去に取り上げてきた話題ですね。

確かにその話題は廃棄物収集車や処理場の火災の原因として取上げることが多いです。その場合には容易に着火する可能性がありますし、爆発が起きたり、火勢が増したりして、被害が拡大する可能性がありますね。

「災害廃棄物」による蓄熱火災

他に災害廃棄物からの火災の可能性として考えられるのが、蓄熱火災です。

有機物を多く含む災害廃棄物を大量に野積みにする時間が長くなれば、発酵熱や酸化熱で蓄熱が起きることがあります。

伊藤さんはRISCADの業務に関わる中で、大量に野積みされたタイヤや落ち葉が自然発火したという事故を度々耳にしてきたかと思いますが、これと同じことが、野積みにされた災害廃棄物でも起きる可能性があるのです。

野積みにされた廃棄物の自然発火による火災は、確かによく聞く事故事例ですね。

それから、酸化反応による自然発火といえば、2019年10月第3週のRISCAD Updateでそのメカニズムを取上げました。この時は特に油の酸化反応について取り上げました。

そうですね。発火のメカニズムでいうとその時の説明と同様のことになります。

野積みにされた災害廃棄物に有機物が多く含まれる場合、時間が経ち、それらが発酵、酸化することにより熱が発生します。そしてその発酵熱、酸化熱が廃棄物内に蓄積され、それによりますます発酵や酸化は進み、温度が上昇して発火することがあります。これが災害廃棄物で起きうる蓄熱による自然発火です。

災害廃棄物の火災は、カセットコンロ用ガスボンベやスプレー缶などの燃料や、電池や機械的な火花などの着火源が無くても、蓄熱というメカニズムで起きる可能性があるのですね。蓄熱からの発火、覚えておきたいと思います。

【編集後記】

本文では昨年猛威を奮った台風による水害により出た災害廃棄物の火災についてお話ししました。私たちにはどうすることもできない自然の脅威、今年は災害の少ない年になるようにと願うばかりです。

さて2020年、はいよいよオリンピックイヤーです。オリンピックは7/24が開会式とのこと。今年の気候が例年通りであれば、梅雨開け後の猛暑厳しい時期がその期間とかぶることになります。実際のところ、気象の問題は、「例年通りであれば」ということしか言えず、オリンピックも一体どのような気候の元で開催されるのかわかりません。暑さへの懸念から、開催地が札幌に変更になったマラソンですが、「例年通りであれば」東京よりは気温が低いはずですがこちらは果たしてどうなるか。

今年も「さんぽのひろば」ならびに「RISCAD CloseUp」のコーナーをよろしくお願いいたします。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子