緊急企画【注目の化学災害ニュース】新型コロナでロックダウン、そのとき工場はどう動くべきか?インドの事故から「現場保安」を考える − RISCAD CloseUP


RISCAD CloseUP
【緊急企画】新型コロナでロックダウン、そのとき工場はどう動くべきか?インドの事故から「現場保安」を考える
牧野良次
投稿日:2020年5月15日 15時00分
2020年5月7日、インド東海岸に位置するビシャーカパトナムの化学工場からスチレンが漏洩し、10数名の命が失われる事故が発生しました。インドでは3月下旬から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウン(都市封鎖)が続いていましたが、5月4日からの一部地域における解除を受け、当該企業は再稼働に向けた準備をしていた可能性があります。当該企業には仮処分として罰金約6億6000万円の支払いが裁判所から命じられているといった報道もあります。
「さんぽのひろば」は、事業者の方々が同様のケースでの事故を防ぐことができるよう少しでも貢献したいと考えました。そこでこれまでの経験を生かし、この事故報道から3つの論点を取り出して、それぞれについて保安向上のための「チェックポイント」を整理しました1), 2)。まず【論点】を示し、その論点に着目すべき根拠となる【記事】を引用しました。そしてその論点についてリスクを低減し事故を防ぐための【チェックポイント】を提案しました。【論点】【記事】【チェックポイント】でひとまとまりになっています。

1)チェックポイントについては経済産業省平成29年度石油精製等に係る保安対策調査等事業 (高圧ガスの過去事故分析によるチェックポイントの調査研究)をご覧下さい。
2)本記事で提案するチェックポイントは2020年5月14日までに報道された内容をきっかけに想起される注意事項をまとめたものです。インドにおける事故の事象進展や原因そのものを考察するものではありません。
わが国においても新型コロナウィルスの影響についてはまだ予断を許さない状況にあります。また、今後別の感染症が発生した場合、日本でもロックダウンやそれに準じる措置が実施される可能性があります。「まさかそんなことはないだろう」ではなく「もしかしたら今後あるかもしれない」と考え、他山の石としてリスクに対処しましょう。
事業所のリスクを発見し適切に管理するためのヒントとしてご参考いただき、ご活用いただければ幸いです。
2020/05/07 インドの樹脂工場からスチレンが漏洩
インド・アンドラプラデシュ州ビシャカパトナム県のポリスチレン樹脂工場の容量約5,000tのスチレンタンク2基からスチレンの漏洩が起きた。スチレンは同工場から半径約3kmの範囲に拡散し、ガスを吸引した住民12名が死亡、1,000名以上が呼吸困難や目の痛みなどで病院に搬送され、5,000名以上が体調不良となった。当局の調べでは、同国ではCOVID-19の流行により3月下旬から約40日にわたり全土都市封鎖が続いており、同工場は稼働停止中であった。同工場は停止のための適切な措置がされずに放置されていた可能性があり、重合禁止剤の4-tert-ブチルカテコールが適切に使用されなかったことや、タンクの冷却がされなかったことなどにより重合反応が起きて、温度が上昇し、スチレンガスが発生した可能性がある。また、同工場では、5/4からの一部地域における封鎖および規制の緩和を受け、再稼働に向けた準備をしていた可能性がある。
【論点1】重合反応の抑制
【論点2】タンク内に大量の物質を残したままロックダウン
【論点3】周辺住民への緊急連絡
参考記事
1)2020/5/8 BBC NEWS JAPAN 「インド工場でガス漏れ、13人死亡 無人状態で化学反応か」
2)2020/5/11 money control “Vizag gas leak: Negligence and human error led to the accident, forensics say”
3)2020/5/8 朝鮮日報 日本語版 「LG化学インド工場で再びガス漏れ、半径5キロの住民避難」
(アクセス日2020/5/14、現在はリンク切れ)
→参考:同記事韓国語版 인도 LG화학 공장에서 다시 가스 누출…반경 5km 주민 대피 출처
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 主任研究員
「さんぽのひろば」編集長
産総研研究員なのに経済屋という変わりダネです。安全対策の経済的効果や社会的評価の定量化に関心があります。
出身地:愛媛県新居浜市(ただし上部)