倉庫火災はなぜ消えにくい?【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2022年10月06日 10時00分

近頃頻繁に耳にする物流倉庫での火災。事故の情報収集をしていると、その傾向として消火までに時間がかかることに気づきます。そこで今回のRISCAD CloseUPでは「倉庫火災はなぜ消えにくい?」と題し、ここ最近起きた物流倉庫の火災事例から、なぜ消火に時間がかかるのかなど、倉庫火災の特徴について考えていきたいと思います。

ネット通販の定着

私たちが商品を購入する場合、かつては店舗に行って自ら商品を探し、自らの目で確認して購入するというのが主流でした。しかし昨今では、ネット通販が幅をきかせてきており、ネットで注文後、早ければ翌日(場合によっては当日)には商品が手元に届くようになり、また、商品選択の際には商品の現物は見ずに過去にその商品を購入した人の口コミを参考にするなど、選び方にも変化が出てきました。そしてこのネット通販の利用は、コロナ禍で不要不急の外出を避けることが叫ばれた緊急事態宣言以降、より定着が進んだように感じられます。。

扱っているものが多岐に渡るネット通販大手からの購入の場合、私たちがネットで注文した商品は、膨大な種類の商品を置いている物流倉庫でピックアップされ、梱包されて、運送業者の手を経て私たちの手元に届きます。買い物に行けば購入したものは自らの手で家まで運ぶことになりますが、ネット通販であれば運送業者が玄関先まで運んでくれるというのもネット通販で商品を購入することのメリットのひとつかもしれません。このようにとても便利なネット通販は、すでに私たちの生活になくてはならないサービスとなっています。

さて、ここではネット通販を参考に考えましたが、今回は物流倉庫のお話です。メーカー等で製造されたさまざまな商品についても、製造後に物流倉庫に保管され、消費者である私たちが購入すると、物流倉庫から出荷されて私たちの手元にやってくることがほとんどです。

物流倉庫の存在により、配送効率が向上し、人件費、設備費の削減ができることから、現在では大規模な物流倉庫があちこちに建設されています。私の地元付近もここ数年で物流倉庫がかなり増えています。

 

ここ数年の物流倉庫の火災事例

ここからは、2020-2022年に起きた物流倉庫の火災事例を見ていきたいと思います。

2020/4 宮城・物流倉庫で火災
食料品や日用品が保管された延べ床面積約45,000平方mの物流倉庫で火災が起きた。ポンプ車などが消火したが、同倉庫内の食用油に延焼して消火活動が難航し約150時間後に鎮火した。同倉庫が全焼した。従業員ら約200名がいたが、全員避難してけが人はなかった。警察と消防の調べでは、同倉庫にはスーパーマーケットなどに卸す食料品や日用品が保管されていた。同倉庫2階にあった冷蔵庫の漏電が原因で出火し、通路に設置された配電盤に延焼した。さらに倉庫内の食用油に延焼したことで被害が拡大した可能性がある。

2020/12 栃木・物流倉庫で火災
鉄骨造4階建ての延べ床面積約45,000平方mの物流倉庫で火災が起きた。広面積であることと可燃物が多く保管されていたことで消火活動が難航し、消防車約30台で約15時間後に鎮火した。同倉庫の1階部分の防火シャッタが作動し、1区画約1、900平方mと保管されていた商品が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同倉庫は顧客から委託された食料品や衛生用品、樹脂製玩具などを保管していた。

2021/11 大阪・物流倉庫の火災で鎮火に5日以上(←後に放火事件と判明)
鉄筋コンクリート造6階建ての物流倉庫で火災が起きた。消防車延べ445台、ヘリコプタ2機が消火活動したが、同倉庫は窓などの開口部が少ないため放水が届きにくく、また、内部に熱や煙がこもり消火活動が難航し、約130時間後に鎮火した。同倉庫延べ約56,000平方mのうち、約38,000平方mが焼け、保管されていた医薬品や食品、工具などが焼損した。出火時、同倉庫内には従業員100名がいたが全員避難してけが人はなかった。近くの別の会社の従業員1名が煙を吸込んで軽傷を負った。警察と消防の調べでは、1階の中央部分に積まれていた荷物運搬用の紙製パレット付近から出火した可能性がある。

2022/6 茨城・物流倉庫で工事中に断熱材の火災
鉄骨造平屋建ての食品物流倉庫で断熱材の取付工事中に火災が起きた。消防が約120時間後に鎮火した。同建屋は、外壁と内壁の間にウレタン製断熱材を挟む構造となっており、ウレタン製断熱材がくすぶったことで火災が長期化した。また、同建屋は高さ約20mで窓がなく、地上からの放水が届かない部分があり、重機で建屋を解体しながらの消火活動となったため、鎮火に時間を要した。下請け会社の作業員1名が煙を吸って喉の痛みで病院に搬送され、消火活動中の消防士1名が熱中症で軽症となった。警察と消防の調べでは、出火時、同工場内部では断熱材の取付工事中であった。何かの原因で断熱材のウレタン製断熱材から出火後、フラッシュオーバ現象で建屋内に燃え広がった可能性がある。同倉庫は2022/6に稼働開始した約7,300平方mの食品を扱う物流倉庫で、冷凍や冷蔵の施設などを備えていた。消火活動で大量の水が使用され、配水池の水位が低下したため、自治体が住民に節水への協力を呼び掛けた。

2022/8 茨城・物流倉庫で休日に火災
鉄骨平屋建て一部2階建て延べ面積約5,200平方mの物流倉庫で火災が起きた。消防が約50時間後に鎮圧したが、鎮火には約55時間を要した。同倉庫の入口が狭かったことや、建屋の一部が崩壊して火がくすぶるなどしたため、消火活動は難航した。同倉庫は業務終了後30時間を経過した休業日のため無人で、けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同倉庫内には、ゴム手袋やマスク、食品工場用のユニホームなどの衛生用品が多数保管されていた。

2022/9 岐阜・衣料品保管とプラスチック成形加工の倉庫で火災
鉄筋コンクリート造平屋建て約6,600平方mの倉庫で火災が起きた。従業員が消防に通報した。消防が約23時間後に鎮火したが、同倉庫内が焼け、天井の一部が崩落した。保管されていた衣類やプラスチック製品が焼けた。出火時、同倉庫内では従業員8名が作業中であったが、避難してけが人はなかった。警察と消防の調べでは、同倉庫は衣類物流会社とプラスチック成形加工会社が共同で使用していた。

以上の6件が、私たち「さんぽのひろば」が確認することができた物流倉庫での火災事例です。2021/11の大阪の物流倉庫火災は、後に放火であったことが判明したため、事故ではなく事件ではありますが、火災の傾向の参考のためここに上げました。

 

物流倉庫火災の鎮火までの時間と傾向

上にあげた物流倉庫の火災事例中、鎮火までの時間は太赤字で示しました。

鎮火までの時間がいちばん長かったのは、2020/4の宮城の事例で、約150時間(6日以上)でした。ほか、約130時間(5日以上)、約120時間(5日)、約55時間(2日以上)、約23時間、一番短い物でも約15時間を要しており、物流倉庫での火災は鎮火までに要する時間が長い印象があります。

また、消火活動が難航した理由や、鎮火までに時間がかかった理由に触れられている事例については、その部分を青字で示しました。以下に理由別に抜き出してみます。

 (倉庫の構造の問題)
  ・倉庫の面積が広かった
  ・倉庫に窓などの開口部が少ないため放水が届きにくかった
  ・倉庫内に熱や煙がこもった
  ・倉庫の建築材料がくすぶった
  ・倉庫が大きく、窓がない作りで、地上からの放水が届かない部分があった
  ・倉庫の入口が狭かった
 (倉庫内の保管物の問題)
  ・倉庫内の保管物に延焼した
  ・倉庫内に可燃物が多く保管されていた
 (その他の問題)
  ・重機で倉庫を解体しながら消火した
  ・倉庫の一部が崩壊して火がくすぶった

このように、物流倉庫火災が長期化するのには、その構造や保管物など複数の要因がありそうです。

 

総務省消防庁の資料から

総務省消防庁刊行の消防白書に、2017/2に埼玉で起きた物流倉庫火災に関する資料が掲載されていました。
平成29年版消防白書特集3 埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた対応

この中の、(2)出火建物の概要に、該当の物流倉庫の構造について、「大規模な物流倉庫」で、「物品の搬入・搬出のためのトラックヤード以外は屋外への開口部が少ない構造となっている。」とありますが、上記の6事例でも同様のことが該当する倉庫は複数あることがわかります。

また同じく総務省消防庁「埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会」「過去の倉庫火災の発生状況、事例等」(資料1-10)では、過去に発生した焼損床面積10,000平方m以上の倉庫火災の事例が紹介されていますが、その中には以下のような記述がありました(一部抜粋)。

 ・倉庫内には衣類を入れた段ボール箱が大量に集積されており、残火処理に時間を要した
 ・倉庫は窓が少ないため消防隊員が中に入れなかった
 ・重機で外壁を壊して放水した
 ・倉庫内に保管されていた大量の衣類等の物品の火災のため、多量の濃煙熱気が発生した
 ・倉庫の開口部が少なく直接放水ができなかった


これらの資料からもわかるように、やはり物流倉庫の火災は、倉庫の構造の問題倉庫内の保管物の問題などから鎮火までに長時間を要する傾向があるようです。

今後も増えるであろう物流倉庫。万が一火災が発生した場合でも長期化、大規模化しないよう、より有効な対策を考える必要がありそうです。

 

【参考情報】

総務省消防庁  

 

さんぽニュース編集員 伊藤貴子