2022年の事故を振り返る【週刊化学災害ニュースまとめ】 RISCAD LookBack

投稿日:2022年12月22日 10時00分

2022年も残すところあと10日となりました。みなさんにとってこの2022年はどのような年であったでしょうか。12/12には毎年恒例のその年1年の世相を漢字ひと文字で表す「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会主催、一般公募による選出)が発表になりました。今年の漢字は「戦」とのことです。今年はロシアのウクライナ侵攻に、北朝鮮からの度重なるミサイル発射と、確かに「戦」を思い浮かべる出来事が多くありました。ちなみに2位は「安」であったとのこと。惜しくも2位となったこの「安」の字は、私たちの身の回りで起きている色々な事象への不安の裏返しであるように感じられてなりません。来年は少しでも安心できる安定した年となり、文字通りの意味で「安」が「今年の漢字」に選ばれることを願ってやみません。

さて、前置きが長くなりましたが、ここからは私たち「さんぽのひろば」がウオッチしてきた、2022年に日本国内で起きた事故について、「2022年の事故を振り返る」」と題し、その事故事例をピックアップしてみたいと思います。

6名が亡くなった食品工場での火災


2022/2/11 新潟・製菓工場で火災
鉄筋コンクリート一部2階建ての米菓製造工場で火災が起きた。警備会社が消防に通報した。消防車など22台で約11時間後に鎮火したが、同工場が全焼した。清掃担当の従業員4名と製造担当の従業員2名の計6名が死亡し、従業員1名が煙を吸って病院に搬送された。警察と消防の調べでは、同工場は24時間操業で、火災のあった建物では煎餅やあられを製造しており、生地の作成、成型や乾燥、焼成、包装などの工程ごとの区画に分かれていた。煎餅焼成用の長さ数10mの焼釜付近か乾燥工程付近で、炭化した煎餅のかすなどから出火した可能性がある。出火時、生産ラインは休憩時間で、清掃作業が行われていたが、製造機械は点火されたままであった。また、同工場内には約30名の従業員がいたが、火災により停電が起きたことで避難に支障が出た可能性がある。

6名の従業員が死亡したこの火災について、会社が3月に事故調査委員会を設置し、12/15にはその二次報告書が公開されました。また、12/16には、総務省消防庁から火災原因調査の中間報告が公表されました。工場での避難訓練の不備や、防火設備の周知不足など安全管理に問題があった可能性については当初から指摘されていましたが、今回新たに以下のような情報が出てきました。

(消防の調査結果)

・煎餅の乾燥工程で、乾燥機内に堆積した油分を含んだ煎餅のかすが乾燥機や焼釜から熱を受け、そこに油分の酸化反応による酸化熱も加わったことで出火した可能性

・工場の天井に吹き付けられた発泡ポリウレタン製の断熱材に延焼して被害が拡大した可能性

(事故調査報告書の情報)

・亡くなった6名のうち、清掃担当の従業員4名については、工場の防火扉の存在を知らなかったか、または知っていても時間的体力的余裕がなく、避難できなかった可能性

消防は年度内に最終報告書を完成させることを目指す方針とのことです。

鎮火に長時間を要する物流倉庫火災


2022/6/30 茨城・物流倉庫で工事中に断熱材の火災
鉄骨造平屋建ての食品物流倉庫で断熱材の取付工事中に火災が起きた。消防が約5日後に鎮火した。同建屋は外壁と内壁の間にウレタン製断熱材を挟む構造となっており、ウレタン製断熱材がくすぶったことで火災が長期化した。また、同建屋は高さ約20mで窓がなく、地上からの放水が届かない部分があり、重機で建屋を解体しながらの消火活動となったため、鎮火に時間を要した。下請け会社の作業員1名が煙を吸って喉の痛みで病院に搬送され、消火活動中の消防士1名が熱中症で軽症となった。警察と消防の調べでは、出火時、同工場内部では断熱材の取付工事中であった。何かの原因で断熱材のウレタン製断熱材から出火後、フラッシュオーバ現象で建屋内に燃え広がった可能性がある。同倉庫は2022/6に稼働開始した約7,300平方mの食品を扱う物流倉庫で、冷凍や冷蔵の施設などを備えていた。消火活動で大量の水が使用され、配水池の水位が低下したため、自治体が住民に節水への協力を呼び掛けた。

今年、物流倉庫火災は数件起きていますが、いずれも面積が5,000平方mを超える大規模な通流倉庫での火災です。上記の事例は鎮火までに5日かかったケースですが、別の火災では鎮火に8日を要したものもありました。物流倉庫の火災は、倉庫の構造の問題、倉庫内の保管物の問題などから鎮火までに長時間を要する傾向があるようです。

 【参考記事】
   倉庫火災はなぜ消えにくい?【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

製鉄所からシアン化合物を含む排水が河川に流出


2022/6/19 千葉・製鉄所からチオシアン酸アンモニウムを含む脱硫液が河川に流出
製鉄所のタンクから約3,000立方mのチオシアン酸アンモニウムを含む脱硫液が漏洩し、一部が河川に流出した。住民が河川の変色などに気づき、消防に通報した。河川の水が2.5-3kmにわたり赤茶色となり、多数の魚が死んだ。脱硫液は有害なチオシアン酸アンモニウムを含んでいたが、人体への影響は低いとされた。警察と消防の調べでは、製鉄所内のコークス炉で発生したガスの洗浄で発生する脱硫液のタンクに何かの原因で穴が開き、脱硫液約3,000立方mが敷地内に漏洩し、一部が排水口を通じて河川に流出した可能性がある。その後の会社の調べで、会社での過去の水質検査の際、法定基準値を超えるシアン化合物が検出されていたにも関わらず自治体に公表、報告していなかった事例や、基準値を超えた結果が出た場合は後日再分析して基準値内に収まった結果を報告するなどの事例が、2019/2以降で計39回あったと発表した。

水質検査でシアン化合物が検出されても自治体に公表、報告していなかった事例の多さから、製鉄所からのシアン化合物を含んだ水の河川への流出は常態化していたのではないかというという疑いが持たれる事故です。この後、製鉄所は県に再発防止策を提出し、二重のシアン処理や流入防止措置などの対策を講じましたが、2022/11に同排水口付近の水から再度0.1mg/Lのシアンが検出されたとのことです。今後の対応が気になるところです。

製鉄所での事故


他にも製鉄所での事故は多く起きています。

2022/2/10 山口・製鉄所で鋳型の補修作業中に酸欠
製鉄所の高さ約2m、幅約3mの鋼製の鋳型の補修作業中に酸欠が起きた。作業中の下請会社の作業員1名が倒れ、助けに入った別の作業員も倒れた。2名は一時心肺停止となり病院に搬送され、その後蘇生したが、意識不明の重体となった。警察の調べでは、同鋳型は通常はステンレスの精製に使用されていたが、当時は補修作業中で、約1m四方の鋳型内部の酸素を取り除くためにアルゴンガスが充填されていた。鋳型を覆っていた耐火紙が何かの原因で破損して鋳型内に落下したため、先に倒れた作業員が鋳型内に取りに入り酸欠状態となった可能性がある。同製鉄所では、鋳型内にガスが充満している際には鋳型内に侵入してはならず、落下物があれば器具を使用して取る決まりになっていた。

2022/03/7 兵庫・製鉄所の試験用乾燥炉で爆発
製鉄所の金属粉を加工する工場の試験用乾燥炉で爆発が起きた。守衛が消防に通報した。火が上がったが、従業員が消火器で消火し、建物の損傷はなかった。作業中の従業員1名が意識不明の重体で病院に搬送されたが死亡し、近くで作業していたグループ会社社員2名がやけどや肘の骨折、打撲などで軽傷を負った。有害物質の放出はなかった。警察と消防の調べでは、同工場では鋳鍛鋼、鉄粉、チタンなどを製造しており、死亡した従業員は試験用乾燥炉で鉄粉を乾燥させていた。何かの原因で炉が爆発した可能性がある。

2022/09/16 大分・製鉄所で高炉内の熔鉄が飛散して火災
製鉄所で高炉内の銑鉄が飛散して材料袋などの火災が起きた。同製鉄所の保安センターが消防に通報した。消防車9台が約1時間後に消火したが、材料袋や建物の一部が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同高炉では製銑工程を行っており、炉内の高温の銑鉄の一部が飛散し、近くにあった材料袋に着火した可能性がある。

2022/10/21 北海道・製鉄所のコークス炉で保守作業中に酸欠
製鉄所のコークス炉内で保守作業中の混炭機の高さ約2mのタンク内で酸欠が起きた。同タンク内で作業員2名が倒れているのを別の作業員が発見して消防に通報した。2名は意識不明で病院に搬送されたが、酸素欠乏性窒息で死亡した。警察と消防の調べでは、2名は同混炭機の保守作業中であったが、当日は同タンク内の整備予定はなく、最初に倒れた1名が同タンク内に工具を落として取りに入った可能性がある。混炭機の稼働中、同タンク内は破砕した石炭への着火防止のため酸素濃度が低く設定されている。

こう見ると、高温の銑鉄炉などがある製鉄所での事故は、火災のみならず人命に関わるものが多くなっている印象です。ここでは4件の事例をあげましたが、うち2件はそれぞれ酸欠により2名が死亡したもの、2名が重体となったもので、いずれも保守や点検時の事故であったことは注目したい点です。

【編集後記】

事故は起きないに越したことはありません。しかし、日々色々な事故が起きているのが現状です。「さんぽのひろば」では、起きてしまった事故の情報を共有することで、どのような時に、どのようなことがきっかけで事故が起きるのか、また、事故が起きやすい場所、どこに気をつけておくべきかなどの知識を得るきっかけを作り、発生する事故を少しでも減らすお手伝いができればと考えております。この「さんぽのひろば」がみなさまの「安」につながる要素となるよう、今後とも尽力していきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

今年もご愛読ありがとうございました。読者のみなさまの安全な2023年を心よりお祈りいたします。

 

さんぽニュース編集員 伊藤貴子