畜産農場での火災【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2023年05月11日 10時00分

昨年から今年にかけて、高病原性鳥インフルエンザ(以後、鳥インフルエンザ)が猛威を奮っています。それを受けて、養鶏場では数多くの鶏がやむ無く処分され、鶏や鶏卵などの移動制限、搬出制限などの防疫措置が実施されるなどしています。ここのところテレビのニュースなどでよく耳にする鶏卵の価格上昇なども、その鳥インフルエンザの流行に起因するところが大きいといわれています。ところで、そのような採卵用の鶏を含む家禽や家畜の飼養現場である、畜産農場の鶏舎、牛舎、豚舎などでは、毎年かなりの件数の火災が起きています。感染症である鳥インフルエンザで殺処分されるなどする鶏の数とは比較にならないとは思いますが、毎年数多くの家禽、家畜が火災で焼死するなどしています。今回の「RISCAD CloseUP」は、「畜産農場での火災」と題し、家禽や家畜の飼養現場での火災についてお送りします。畜産農場の飼養現場での火災はどのような原因で起きるのでしょうか。

鳥インフルエンザの流行

昨年から今年にかけて、鳥インフルエンザが猛威を奮っています。2022年度は、10月28日に国内1例目が確認され、2023年4月14日14時の時点で26道県34事例発生し、約1,771万羽が殺処分されたとのことです。*

国内の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生した場合、家畜伝染病予防法に基づき、その養鶏場で飼育されていた鶏は殺処分され、焼却又は埋却されます。そして養鶏場では消毒などの防疫措置がとられます。また、他の養鶏場でも、発生した養鶏場からの距離によって、一定の期間、鶏や鶏卵などの移動制限や搬出制限などの防疫措置が実施されることになっています。**

そのような中、鶏卵の価格上昇のニュースをよく耳にするようになりました。農林水産省の資料*からは、鳥インフルエンザに罹患して殺処分された鶏の大多数が採卵用に飼養されていたものであることが読み取れます。その影響を受け、鶏卵の価格が上昇しているようです。

長い間小売価格がほとんど変わっていない商品として「物価の優等生」と呼ばれてきた鶏卵、そしてその栄養価ゆえ「完全栄養食」とも呼ばれている鶏卵。鳥インフルエンザが落ち着けば、価格もまた安定してくるであろうという希望的観測を耳にしますが、さまざまなものの価格が上昇しているのは火を見るより明らかです。養鶏場においても、鶏の飼養に必要となるガス、水道、電気などのエネルギーや、鶏の餌となる飼料の価格が上昇していると想像されます。筆者は一(いち)消費者として、そして卵好きとしてあれこれ思いを巡らせつつ、スーパーでパック入りの鶏卵をカゴに入れています。
(参考)農林水産省

*「令和4年度 鳥インフルエンザに関する情報について」
**「鳥インフルエンザについて」

4月に畜産農場で起きた事故

さて、ここからは鳥インフルエンザの話からは離れて、本題である、家禽や家畜を飼養している畜産農場での火災などの事故事例を見ていきたいと思います。

私たちが食品として口にする肉や卵は、そのほとんどが畜産農場で生産者により飼養されていますが、その畜産農場での火災などのニュースを耳にしたことがある方は多いと思います。以下に、2023年4月に起きた国内外の畜産農場での事故の事例を紹介します。

2023/4 米国・米国の酪農場で爆発、火災
米国・テキサス州ディミットの酪農場で爆発、火災が起きた。同農場の建物に閉じ込められた従業員1名が重傷を負って病院に搬送された。同酪農場で飼育されていた乳牛約18,000頭が焼死した。当局の調べでは、乳牛の小屋から糞尿を取り除く装置が過熱したか、または装置から出火するなどして、糞尿から発生したメタンに着火した可能性がある。事故直前、搾乳作業で乳牛が集められていたため、乳牛の死亡被害が拡大した可能性がある。

2023/4 茨城・養鶏場で火災
養鶏場の鉄筋造平屋建て、長さ約120m、幅約33mの鶏舎で火災が起きた。警備員が消防に通報した。タンク車やポンプ車など約17台が約4時間半後に消火したが、同鶏舎1棟が全焼した。同鶏舎内で飼育されていた採卵用の鶏約150,000万羽が焼死した。警察と消防の調べでは、同養鶏場には、全焼した鶏舎を含め9棟の鶏舎があり、計約830,000羽の鶏が飼育されていた。

米国での爆発事故については、牛の小屋から糞尿を取り除く装置が過熱したか、または装置から出火するなどして糞尿から発生したメタンに着火したことにより爆発が起きた可能性があるとのことです。牧場で爆発事故が起きることは稀だと思いますが、約18,000頭が焼死したとのことで、その事故の規模に驚かされました。

また、茨城の養鶏場での火災では、採卵用の鶏約150,000羽が焼死したとのことで、前項で触れた鶏卵の不足が頭に浮かびました。

4月に起きた事故事例として上記2件を紹介しましたが、米国の事例は爆発という稀なものであり、また、茨城の事例では原因につながる情報がありませんでした。

国内の畜産農場での火災事例

ここからは、畜産農場で起きた火災のうち、その原因や火元などの推測ができている事例、または現場に着火源となりうるものがあった事例を見てみたいと思います。

2022/1 秋田・大学の敷地内の牛舎で火災
大学の敷地内の鉄骨造平屋建ての牛舎で火災が起きた。数100m離れた大学の農業用ハウス内で作業中であった業者の従業員が消防に通報した。消防が約3時間半後に消火したが、同牛舎1棟約700平方mが全焼し、牛舎で飼育されていた牛51頭のうち30頭が焼死した。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、牛の分娩のため、前日20:30頃まで学生らが牛舎内にいたが、その後は無人であった。同牛舎内では子牛向けに、日常的に夜間も電気ストーブなどの暖房器具を使用していた

2022/3 山形・養豚場の豚舎で火災
養豚場の木造平屋建ての豚舎で火災が起きた。従業員が消防に通報した。消防が約6時間半後に消火したが、豚舎1棟が全焼し、飼育していた子豚など約2,500頭が焼死した。同豚舎内は無人で、けが人はなかった。警察と消防の調べでは、出火時、豚舎内ではヒータを使用していた

2022/3 岩手・養豚場の豚舎で火災
養豚場の鉄骨造平屋建ての豚舎で火災が起きた。従業員が消防に通報した。消防が消火したが、同養豚場付近に消防車が給水する場所がなく、消火活動が難航し、豚舎5棟、計約9,000平方mが全焼した。けが人はなかった。飼育されていた豚約7,700頭が焼死した。警察と消防の調べでは、出火前、豚舎の修繕のため、同養豚場の従業員が豚舎の檻の溶接作業またははんだ付けなどを行っていた

2022/11 福島・鶏卵孵化場でエアコン付近から火災
木造一部鉄骨造平屋建ての鶏卵孵化場で火災が起きた。同孵化場の関係者が消防に通報した。消防が約2時間半後に消火したが、同孵化場1棟約820平方mが全焼し、鶏卵約50万個が焼けた。けが人はなかった。出荷前のひよこ約3万羽は、出荷作業中で被害はなかった。警察と消防の調べでは、同孵化場内では関連会社の複数の従業員が作業中で、エアコン付近から出火した可能性がある

2022/12 兵庫・養鶏場の鶏舎で火災
養鶏場の鉄骨平屋建ての鶏舎で火災が起きた。近隣住民が消防に通報した。消防車など6台が約1時間半後に消火したが、同養鶏場内の4棟の鶏舎のうちの1棟約430平方mが全焼した。同養鶏場は無人でけが人はなかった。同鶏舎内で飼育されていた鶏約5,400羽が焼死した。警察と消防の調べでは、同鶏舎内では暖房器具が使用されていた

2022/12 北海道・牧場の牛舎で火災
牧場の牛舎で火災が起きた。牧場主の家族が警察に通報した。消防が約1時間半後に消火したが、樹脂製の牛舎の一部が焼け、飼育していた牛約70頭のうち、約40頭が死んだ。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同牛舎内では投光器を暖房代わりに使用していた

2023/2 北海道・牧場の牛舎で火災
牧場の牛舎で火災が起きた。従業員が消防に通報した。消防車6台が約2時間後に消火したが,同牛舎1棟が全焼し,中で飼育されていた子牛69頭が焼死した。けが人はなかった。警察と消防の調べでは,同牛舎内にあった暖房器具付近の燃え方が激しかった

わたしたち「さんぽのひろば」が情報収集できた2022年1年間と2023年のこれまでの畜産農場での火災事例のうち、その原因や火元などの推測ができている事例、または現場に着火源となりうるものがあった事例は計7件でした。「さんぽのひろば」で収集できた情報だけであるため、もちろん全ての事例ではないことは申し添えますが、2022/3の岩手の事例を除き、飼養している家禽や家畜のためなどに使用していたとみられる暖房器具などからの出火の可能性、または、暖房器具があった現場での火災の発生であったことが確認できます。

そして暖房器具を使用して家禽や家畜の飼養環境を暖める必要がある冬期に火災が多く起きていると推察されます。

まとめ

いずれ肉として私たちの口に入る時、家禽や家畜はすでに屠されているわけですが、何十、何百、何千の家禽や家畜が火災などの事故で死んだと聞くと、形容し難い気持ちになります。ましてや天塩にかけて飼養されている畜産農家の方々がその家禽や家畜を失った際の気持ちたるや如何ばかりかと思います。

畜産農場の飼養環境には木造のものも多くあるでしょうし、飼料やわらなどの燃えやすいものも多くあると推察されます。そして暖房器具を使用する冬は乾燥する季節です。暖房器具類をはじめとした電気製品を使用する際には、その周辺から火災などにつながる可能性があるものを除いておきたいものです。

【参考情報】

さんぽニュース編集員 伊藤貴子