あの事故のその後(2023年6月)【週刊化学災害ニュースまとめ】 RISCAD LookBack

投稿日:2023年6月29日 10時00分

早いもので、2023年6月も明日で終わり。今年の上半期が終わろうとしています。そんな節目の時期に合わせ、「あの事故のその後」」と題し、RISCAD LookBackをお送りいたします。過去に起きたあの事故の原因は何だったのか、その後どうなったのか、今回は、2021年の事故1件と2022年の事故2件の計3件の事故について、企業が発表した事故調査報告書などをもとにまとめました。

2021年、亜鉛粉末製造工場での粉塵爆発


亜鉛粉末製造工場での粉塵爆発により、協力会社社員1名が全身やけどで重傷を負ったほか、3名がやけどやけがで軽傷を負った事故です。当時の事故概要は以下の通りです。

2021/5 福島・亜鉛工場で分級ファンの不具合による粉塵爆発、火災
亜鉛粉末製造工場で粉塵爆発、火災が起きた。付近の住民が消防に通報した。高温の亜鉛粉末は放水による消火や冷却ができず、消防が砂をまくなどして約20日後に鎮火した。同工場の側面や屋根、設備などが損傷した。敷地内の別の建屋への影響はなかった。協力会社社員1名が全身やけどで重傷を負い、2名が顔へのやけど、1名がけがで軽傷を負った。警察と消防の調べでは、同工場は24時間操業で、錆止塗料や化粧品材料の金属亜鉛粉末を製造していた。亜鉛粉末の大きさを風で選別する分級ファンを稼働させた際に異音がしたため、重傷を負った協力会社社員が停止させようとしたが爆発した。分級ファンに不具合が起き、亜鉛粉末に着火した可能性がある。


【その後判明した原因等】

・亜鉛粉末の大きさを風で選別する分級ファンの羽根に付着していた亜鉛粉末のかたまりが剥がれてバランスが崩れ、ファンの軸にずれが生じて異常な振動が発生

・ダクトで繋がる別の設備にもその振動が伝わり、そこにたまっていた亜鉛粉末が浮遊して分級ファン付近に拡散し、亜鉛粉末の濃度が上昇

▶︎ファンの軸がずれたことで軸が他の部品と接触し、摩擦により火花が発生。火花で付近の亜鉛粉末に着火して粉塵爆発が起きた可能性

▶︎粉塵爆発による爆風と火炎で、同工場内に堆積していた亜鉛粉末や製品等に着火して被害が拡大した可能性

 (粉塵爆発の原因)

⚫︎亜鉛粉末の大きさを選別する分級工程の複数箇所に、亜鉛の粉末や汚れの固まりがあったが、それを放置したことで爆発につながった可能性

⚫︎同工程内に粉塵爆発下限濃度以上となる亜鉛粉末が存在したことで粉塵爆発につながった可能性

【その後の対応等】

・事故後、会社は工場の再建を断念し、亜鉛粉末製造事業から撤退した

・会社は装置の詰まりなどの不具合を把握しながら放置していたことから、安全管理を怠ったため事故が起きたとして、2023年2月、警察が当時の工場長を業務上過失傷害の疑いで書類送検した

2022年、産業用爆薬製造工場で火薬類の計量作業中に起きた爆発事故


鉱山などの発破に使用する産業用爆薬の原料となるニトログリセリンや硝安油剤爆薬などを製造している工場での火薬類計量作業中の爆発事故です。1名が死亡し、5名が軽傷を負いました。当時の事故概要は以下の通りです。

2022/3 宮崎・産業用爆薬工場で火薬類の計量作業中に爆発
産業用爆薬製造工場の平屋建ての洗浄工室で火薬類の計量作業中に爆発が起きた。同工場関係者や近隣の住民が消防に通報した。同工室が全損して消失した。周辺の学校などの公共施設や住宅など約100棟で窓ガラスや壁が破損するなどした。計量作業中の従業員1名が行方不明となり、のちに死亡が確認された。同工場敷地内にいたグループ会社の社員や近隣の事業所の従業員、近隣住民など計5名が軽傷を負った。警察と消防の調べでは、同工場では、鉱山などの発破に使用する産業用爆薬の原料となるニトログリセリンや硝安油剤爆薬などを製造しており、同建屋には、ニトログリセリン約2tとジエチレングリコールジナイトレート約1.1tが貯蔵されていた。当時同工室では、従業員3名で火薬類の計量作業をしており、死亡した1名が計量を担当し、別の2名が運搬を担当していた。運搬を担当していた2名が同室を離れた際に、何かの原因で爆発が起きた可能性がある。


【その後判明した原因等】

・工場は2/18-28(11日間)設備工事のため稼働停止していた

・2/28、設備工事の一部が完了して蒸気供給が再開されたので、貯槽内のニトログリセリンなどを加温するために、同日15:00から事故が起きた洗浄工室内の空調を開始した

▶︎工場が稼働停止していた2/18-28の11日間に、貯槽に保管されていたニトログリセリンが冬期の寒冷な外気温の影響などを受け、その一部が結晶化した可能性

▶︎事故当日である3/1、貯槽の温度計は所定の温度を示していた

 (爆発の原因)

⚫︎上記理由などから、計量作業をしていた従業員がニトログリセリンの結晶化を想定して作業するのは困難であった。従業員は結晶化して感度が高くなったニトログリセリンに対し、通常通りの扱いで作業等を行った

⚫︎ニトログリセリンを貯槽から濾過槽に移送する準備作業での衝撃、または、移送作業時にゴムホースから漏れたことに関連して生じた衝撃による可能性

【その後の対応等】

・事故調査報告書が公開された2023/1/27現在、工場の生産活動は停止中。また、今後については検討中とのこと

・引き続き、警察が調査中

2022年、食品香料製造工場でのコーヒー豆蒸気の液化作業中の一酸化炭素中毒事故


食品香料製造工場でコーヒー豆の蒸気の液化作業中にタンク内で起きた事故です。一酸化炭素中毒により、1名が死亡し、1名が重体、1名が軽症となりました。当時の事故概要は以下の通りです。

2022/9 群馬・食品香料工場のタンク内で一酸化炭素中毒
食品香料製造工場でコーヒー豆の蒸気の液化作業中に直径約120cm、高さ約170cmの円柱形のタンク内で一酸化炭素中毒が起きた。従業員1名がタンク内で意識不明となり、タンク内に救助に入った従業員1名も大声を出した後、意識不明となった。大声を聞いた別の従業員が倒れている2名の救助にあたり、体調不良となった。3名は病院に搬送され、最初にタンク内で倒れた1名は一酸化炭素中毒により死亡、1名は意識不明の重体、1名は軽症となった。警察と消防の調べでは、コーヒー豆を蒸留させた蒸気をタンクにため、液体化させる作業中で、通常、同作業でタンク内に人が入ることはなく、タンク上部にある直径約45cmの開閉式の穴から薬剤などを投入していた。タンク付近から高濃度の一酸化炭素が検出されており、一酸化炭素中毒が起きた可能性がある。死亡した1名は、何かの理由でタンク内に入ったか、誤って落下した可能性がある。


【その後判明した原因等】

・蒸留装置は、焙煎されたコーヒー豆に水蒸気を送って香気を得る抽出装置と、留出液を貯留するクッションタンク(事故が発生したタンク)などから構成されていた

・事故発生日は、4日間連続的にコーヒーの水蒸気蒸留を行う工程の3日目であった

▶︎抽出装置での水蒸気蒸留により焙煎コーヒー豆から放出された一酸化炭素がクッションタンク内に蓄積され、事故発生時、タンク内には高濃度の一酸化炭素が滞留していた可能性

 (事故の原因)

⚫︎再現実験の結果、事故発生時のタンク内には、30,000ppmの一酸化炭素が滞留しいていたと推定された。これは厚生労働省のガイドラインにおいて、1-3分間で死亡するとされている濃度(12,800ppm)を超えるものであった*

【その後の対応等】

 (再発防止対策)

・工程の変更:作業時、事故が発生したタンクの蓋を開ける必要がないよう工程変更

・一酸化炭素への対策:送気、局所排気、蒸留装置内への窒素供給、一酸化炭素濃度測定器の常設、保護具の準備など

・安全教育の見直し:雇入時の教育・職場教育の見直し、作業工程の危険レベルに応じた教育の実施

・二次災害防止のための安全教育:一酸化炭素による事故時等における適切な応急措置および退避措置の教育や訓練

【編集後記】

以上、3件の事故のその後をお送りしました。
1件目の福島の事故では、会社は当該工場の再建を断念し、亜鉛粉末製造事業から撤退しました。また、2件目の宮崎の事故では、1年以上経った今も警察などによる調査が続いており、当該工場の操業再開の目処はたっていないようです。
事故は企業の利益に大きく関わってくることがあります。ということは、事故を防止することが、企業の利益向上にもつながるという見方もできるのではないかと思うのです。

 

さんぽニュース編集員 伊藤貴子