事故と組織のイメージ【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2023年10月5日 10時00分

2022/10、沖縄県のクリーニング工場でボイラの爆発が起きました。そして先月、鳥取のバイオマス発電所の燃料受入建屋で爆発と火災が起きました。この2つの事故、いずれも爆発事故であるということくらいで、業種もクリーニング工場と発電所であることから、特にこれといった関係はないように思えるのですが、実は組織としてある共通点があります。それは、1年足らずのうちに複数回の事故が起きたということです。今回の「RISCAD CloseUP」では、沖縄、鳥取の事故事例と、報道情報で目にした周辺の住民などのコメントから「事故と組織のイメージ」について考えてみたいと思います。

沖縄のクリーニング工場で起きた事故

冒頭で触れた沖縄県のクリーニング工場での事故について、2021年と2022年に起きた事故の概要は以下のとおりです。

2021/5 沖縄・クリーニング工場のボイラで爆発、火災
クリーニング工場のボイラの焼却炉で爆発、火災が起きた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同工場の過失は認められず、何かの原因で炉内の圧力が高まり爆発が起きた可能性がある。

2021/10 沖縄・クリーニング工場のボイラの焼却炉で爆発
クリーニング工場のボイラの焼却炉で爆発が起きた。爆発で開いた扉が従業員1名の頭部に当たって外傷で意識不明の重体となり病院に搬送されたが、のちに死亡した。別の1名が顔面熱傷で病院に搬送された。警察と消防の調べでは、同ボイラは同工場でアイロンがけの機器などの動力として使用されており、廃タイヤを燃料としていた。死傷した従業員が、同焼却炉を稼働させようとした際に、炉内に残留していた可燃性ガスに着火した可能性がある。同工場では2021/5にもボイラが爆発し、火災が起きた。

2022/3 沖縄・クリーニング工場で火災
鉄骨造4階建てのクリーニング工場で火災が起きた。警備会社が消防に通報した。消防車14台が約12時間後に鎮火したが、同工場の3階と4階が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同工場では布団やシーツなどの洗浄をしており、洗濯機や水蒸気を発生させる焼却炉があった。乾燥機やシーツなどがあった3階部分の焼け方がひどかったことから、火元の可能性がある。出火時、同工場は稼働しておらず無人であった。同工場では2021年5月と10月に、別の建屋の焼却炉で爆発、火災が発生していた。


このように、このクリーニング工場では、1年足らずの間に爆発や火災といった事故が3件起きたのです。

この事故に関しては、その後、クリーニング工場を経営する会社が、ボイラ機器の製造・販売会社が納めた機器システムに当初から欠陥があり、対応・説明も問題があったと主張し、ボイラ機器製造・販売会社と役員3人に損害賠償を求める訴訟を起こしました。2023/8末、那覇地方裁判所は、機器システムの欠陥と事故との因果関係を認め、被告らに原告の請求通りの約4億2千万円の支払いを命じたとのことです。

被告であるボイラ機器製造・販売会社側は、2020/1に原告であるクリーニング工場に機器システムを引き渡しました。しかし、その時点で機器システムに設計・製造上の欠陥、指示・警告上の欠陥が存在しており、クリーニング工場がボイラ機器製造・販売会社の指示する使用法に従って機器を稼働させたものの、2021/5と2021/10に炉内で爆発が起きるなどしました。また、ボイラ機器製造・販売会社からの運転マニュアルや指示には、使用法の明確な基準や適切な説明がなかったとのことです。

事故当時は原因が解明されていなかったのですが、少なくとも事故のうち2件は、ボイラ機器に欠陥があったことにより起きた事故である可能性が高いということが判明したようです。

鳥取のバイオマス発電所で起きた事故

もう1件、冒頭で触れた鳥取のバイオマス発電所では、今年以下の事故が起きました。

2023/5 鳥取・バイオマス発電所で燃料タンク内の木材チップの火災
バイオマス発電所の高さ約30m、直径約23mのコンクリート製の燃料タンクで木材チップの火災が起きた。同発電所の従業員が消防に通報した。消防が約30分後に消火したが、同タンク内の一部と木材チップ約2平方mが焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同発電所は木材チップやパーム椰子殻などのバイオマスを燃料として発電を行っており、4基あるタンクのうち1基のタンク内に貯蔵していた燃料の木材チップから自然発火した可能性がある。

2023/9 鳥取・バイオマス発電所の燃料受入建屋で爆発、火災
バイオマス発電所の鉄骨造平屋建ての燃料受入建屋で爆発、火災が起きた。隣接する会社の従業員が消防に通報した。消防が約4時間後に鎮火したが、同建屋の屋根や壁の一部が吹飛んで約135平方mが焼け、エレベータ約75平方mが焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同建屋では発電の燃料として使用する木質ペレットを保管しており、焼損したエレベータは木質ペレットを貯留槽に運搬するのに使用されていた。


また、「さんぽのひろば」では情報をつかめていませんが、2023/5にはこの発電所でもう1件火災が発生したとのことです。ということは、こちらのバイオマス発電所では、半年もしない間に爆発や火災といった事故が3件起きたということになります。

この一連の事故を受け、県知事が専門家などによる調査チームを立ち上げて現地調査を行い、また、国に対しては安全対策を要請するという考えを示しました。そして発電所の所在する市は、発電所に対して、運転を停止し、原因究明や再発防止策が実施され住民の理解が得られるまでは運転再開しないよう申し入れたとのことです。

半年もしない間に3件の事故が起き、しかも直近の事故は爆発を伴うものであったということで、しっかりと原因究明をしてからでないと運転を再開してほしくないという気持ちはよく理解できます。

この事故のその後の動きとして、2023/9/21に鳥取県の調査チームが現地調査を行い、その結果を同10/2に県知事に報告したとのことです。調査結果として、爆発と着火の原因はいずれも複数考えられ、複合的な原因で爆発に至った可能性があるとのことです。

事故が繰り返されたときの印象

日々事故の情報収集をしている私からすると、例えば、「沖縄」、「クリーニング工場」とか、「鳥取」、「バイオマス発電所」などのキーワードで、もしやあの工場では?とふと頭をよぎるものがあることがあります。そして記事を読み進めると、やはりその工場であったということは少なくありません。これらの事例に限らず、同一組織で複数回の事故が起きたという情報を目にした時には、正直なところ「またかあそこか。」と思ってしまうものです。

報道等では、事故があった組織の近隣の会社の従業員、近隣の住民などが事故を知った際の感想などが取り上げられていることがよくあります。あくまでも例えですが、複数回の事故が起きた組織へのコメントでは、以下のような不安の声が聞かれることが多いと感じます。
(過去に報道等で掲載されていたコメントの記憶からイメージを羅列します。どの事故に対する、どのような立場の人のコメントという具体的なものではないことをご了承ください。)

・この工場は度々事故がある
・何回もこのような事故が起きていて怖い
・このように事故が続くということは、安全管理をきちんとしていなかったのではないか
・いつか大事故が起きて自分の生活に影響が出るのではないか

組織外の人間からすれば、その組織の中でどのような安全管理体制がとられているかというのは見えないものです。どのような事情であれ、事故が起きた、特に事故が短期間で複数回起きた組織に対して怖いという気持ちを持つ方は少なからずいるのではないでしょうか。

クリーニング工場の事例では、訴訟により納められた機器システムに瑕疵があったことが明らかになったことで、事故の直接的な原因はクリーニング工場の安全管理の不備ではなかったことが判明したようなのですが、近隣の住民などから見た工場への印象に変化はあったのでしょうか。気になるところです。

それでも事故は事故

私たちの実生活でも思い当たるように、一度ついてしまったマイナスイメージを払拭するのはなかなか難しいものです。ここからは推測になりますが、それと同様に、事故が起きた組織へのイメージ、こと複数回の事故が起きた組織への「あそこは何度も事故が起きた」というマイナスイメージはなかなか消えないように思われるのです。

事故が起きた組織内はもちろん大変ですが、事故は周囲からの評価の上でもマイナスイメージにつながることであり、一度ついたそのイメージを払拭するのは難しいと考えると、事故を防ぐことが、ひいては組織の発展にもつながるという考え方は大袈裟ではないように感じます。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子