バイオマス発電所での事故事例【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2024年3月7日 10時00分

1月末に愛知県の火力発電所で起きた爆発事故については、みなさんの記憶に新しいことと思います。その発電所は、石炭とバイオマスを混焼して発電を行っている発電所で、爆発が起きたのは、バイオマス発電の燃料である木質ペレットの一時貯蔵場所でした。今回は、愛知県の火力発電所の事故にClose upし、過去に起きたバイオマス発電所関連の事故事例を確認してみたいと思います。それでは「RISCAD CloseUP」「バイオマス発電所での事故事例」スタートです。

バイオマスを燃料とした発電所での爆発、火災事例

バイオマスを燃料とした発電所での爆発事故事例のうち、まずは冒頭で触れた今年1月の愛知県での事故の概要をみてみたいと思います。

2024/1 愛知・火力発電所のボイラ施設で爆発、火災
石炭火力発電所の18階建てのボイラ施設の13階の直径10m、高さ35mの鋼製のバンカ(木質ペレットの一時貯蔵場所)で爆発、火災が起きた。工場の従業員や周辺住民など複数が消防に通報した。消防車14台が約5時間後に鎮火したが、同ボイラ施設が焼け、高さ約20mの位置にある石炭運搬用のベルトコンベアや隣接する建屋に延焼した。けが人はなかった。同発電所の発電が停止したが、電力供給への影響はなかった。警察と消防の調べでは、同施設には6個のバンカがあり、爆発が起きたバンカ内には約300tの木質ペレットが保管されていた。通常20℃の同バンカのセンサの温度が55℃まで上昇していたことや、同バンカ付近の外壁の損傷が大きかったことなどから、何かの原因でバンカ内の木質ペレットに着火した可能性がある。同発電所は石炭と木質バイオマスを燃料として発電を行っており、出力は107万kWで、爆発のあった発電施設のみが稼働していた。


石炭とバイオマスを混焼して発電を行っている発電所での爆発、火災事故です。

発電所の他の発電施設は、老朽化により2016年までに廃止され、稼働していたのは2022年に稼働開始した事故の起きた施設だけであったとのことです。同施設の出力は107万kWと、1基としては国内最大級の出力を誇るものだそうです。

この事故を受け、発電所の運営会社は事故調査委員会を設置し、火災の原因調査や再発防止策の策定を行うことを決めました。原因が究明されるまで、発電所の稼働は停止されることになりました。

次に、2023年に複数回の事故が起きた鳥取県のバイオマス発電所での事故事例をみてみましょう。

2023/9 鳥取・バイオマス発電所の燃料受入建屋で爆発、火災
バイオマス発電所の鉄骨造平屋建ての燃料受入建屋で爆発、火災が起きた。隣接する会社の従業員が消防に通報した。消防が約4時間後に鎮火したが、同建屋の屋根や壁の一部が吹飛んで約135平方mが焼け、エレベータ約75平方mが焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同建屋では発電の燃料として使用する木質ペレットを保管しており、焼損したエレベータは木質ペレットを貯留槽に運搬するために使用されていた。


2023/5にはこの発電所で2件の火災が発生したとのことです。うち、「さんぽのひろば」では情報をつかめた1件についてはこの後の「バイオマス発電所での火災事例」で事例を紹介します。

半年もしない間に爆発や火災といった事故が3件起きことを受け、県知事が専門家などによる調査チームを立ち上げて現地調査を行い、また、国に対しては安全対策を要請するという考えを示しました。その後の動きとして、鳥取県の調査チームが現地調査を行い、その結果を県知事に報告したとのことです。報告された調査結果としては、爆発と着火の原因はいずれも複数考えられ、複合的な原因で爆発に至った可能性があるとのことです。

バイオマス発電所での火災事例

前出の2つの事故は爆発から火災に至るなどした事例でしたが、ここでは、バイオマスを燃料として使用する発電所での火災の事例について見てみましょう。①の最初の事例は、前項で触れた鳥取県のバイオマス発電所での火災です。

①木質ペレットなどの自然発火

2023/5 鳥取・バイオマス発電所で燃料タンク内の木材チップの火災
バイオマス発電所の高さ約30m、直径約23mのコンクリート製の燃料タンクで木材チップの火災が起きた。同発電所の従業員が消防に通報した。消防が約30分後に消火したが、同タンク内の一部と木材チップ約2平方mが焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同発電所は木材チップやパーム椰子殻などのバイオマスを燃料として発電を行っており、4基あるタンクのうち1基のタンク内に貯蔵していた燃料の木材チップから自然発火した可能性がある。

2023/1 千葉・バイオマス発電所の燃料貯蔵サイロで木質ペレットの自然発火
バイオマス発電所の燃料貯蔵サイロで木質ペレットの火災が起きた。消防と会社が同サイロ内に窒素ガスの注入や散水を行い延焼を防止したが、火が燻ったため鎮火には時間を要した。けが人はなかった。周辺に木が焦げたような臭いが広がった。警察と消防の調べでは、木質ペレットはバイオマス発電の燃料に使用されており、同サイロ内で自然発酵し、蓄熱が進んで自然発火した可能性がある。


バイオマス発電を行う施設においては、燃料として使用する木材チップ、木質ペレットなどをタンクやサイロなどで大量に貯蔵する場合が多いです。この2つの事例は、木材チップ、木質ペレットなどの燃料が、水分などの影響で、発熱、蓄熱するなどして自然発火し、火災に至った可能性があるものです。

②設備の火災

2023/3 京都・石炭火力発電所の木質ペレット供給設備で火災
石炭火力発電所の木質ペレット供給設備で火災が起きた。職員が消防に通報した。消防車10台が約10時間半後に鎮火したが、木質ペレットのサイロ2棟とベルトコンベアの中継所2棟の計4棟、計約1,100平方mが焼けた。けが人はなかった。発電設備1機が停止したが、停電などの影響はなかった。警察と消防の調べでは、同発電所では石炭とバイオマス燃料である木質ペレットを混ぜて燃焼して発電しており、木質ペレットをベルトコンベアでボイラに運搬中に何かの原因で設備から出火した可能性がある。

2020/1 千葉・バイオマス発電所でベルトコンベアの火災
バイオマス発電所でベルトコンベアの火災が起きた。消防車13台で約4時間後に鎮火したが、同ベルトコンベアと燃料備蓄施設の一部が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同発電所は稼働中で、ベルトコンベアは発電燃料の木製ペレットの運搬に使用されていていた。


これらは、バイオマス発電を行う施設における設備などの火災です。京都府の発電所は、愛知県の発電所と同じように、石炭とバイオマスを混焼して発電を行っている発電所です。

燃料を運搬するベルトコンベアの火災は、バイオマス発電所に限らず、主に石炭を燃料としている火力発電所などでの発生を耳にすることも多いです。

ところで、バイオマスとは何だろう?

バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称です。今回このコーナーで紹介した事故事例は、間伐材や廃材などをペレットなどに加工した木質バイオマスを燃料とした発電所が関連したものです。バイオマス発電の燃料には、ほかにもバイオガス(家畜の糞尿や生ごみなどを発酵させて回収したメタンガスを利用)などがあります。

カーボンニュートラルや持続可能性といった観点から評価されているバイオマス発電。事故なく普及していくと良いですね。

【参考情報】

総務省 消防庁
  消防危第36号 バイオマス発電のため指定可燃物として木質ペレットを貯蔵等する施設における自主保安の徹底について(令和6年2月20日)

経済産業省 資源エネルギー庁
  バイオマス発電 再生可能エネルギーとは

さんぽニュース編集員 伊藤貴子