投稿日:2024年6月27日 10時00分
早いもので、来週には7月突入です。今年の上半期が終わろうとしています。そんな節目の時期に合わせ、「あの事故のその後」」と題し、RISCAD LookBackをお送りいたします。過去に起きたあの事故の原因は何だったのか、その後どうなったのか、今回は、2022年の事故、2023年の事故、そして10年以上前の2013年の事故の計3件の事故についてまとめました。
2022年、7名が死傷した煎餅工場での火災
従業員6名が死亡、1名が軽傷を負った煎餅工場での火災です。当時の事故概要は以下の通りです。
2022/2 新潟・製菓工場で火災
鉄筋コンクリート一部2階建ての米菓製造工場で火災が起きた。警備会社が消防に通報した。消防車など22台で約11時間後に鎮火したが、同工場が全焼した。清掃担当の従業員4名と製造担当の従業員2名の計6名が死亡し、従業員1名が煙を吸って病院に搬送された。警察と消防の調べでは、同工場は24時間操業で、火災のあった建物では、煎餅やあられを製造しており、生地の作成、成型や乾燥、焼成、包装などの工程ごとの区画に分かれていた。煎餅焼成用の長さ数10mの焼釜付近か乾燥工程付近で、炭化した煎餅のかすなどから出火した可能性がある。出火時は生産ラインは休憩時間で、清掃作業が行われていたが、製造機械は点火されたままであった。また、同工場内には約30名の従業員がいたが、火災により停電が起き、避難に支障が出た可能性がある。
【この事故についてのその後】
・工場では過去にも煎餅のかすなどが原因の火災が起きており、乾燥機の清掃を徹底しなければ出火する可能性を予見できたのに、乾燥機内に煎餅のかすやかけらがたまるのを防ぐ対策を怠ったことや、従業員への避難についての指導(適切な避難訓練の実施、非常口や防火シャッタの周知徹底など)などの安全管理が不十分であったことで、複数の従業員の死傷につながった可能性
→2024/2、新潟県警が、会社の最高経営責任者ら幹部4名を業務上過失致死傷容疑で新潟地検に書類送検した
・乾燥機内の煎餅のかすやかけらが高温にならないように焼釜の熱を遮断するなどの防火対策が取られていなかった
→2024/2、新潟労働局が、会社と最高経営責任者を労働安全衛生法違反容疑で新潟地検に書類送検した
・その後、2024/3に同社の最高経営責任者が辞任した
2023年、化学工場でプラントの配管切断作業中に起きた爆発事故
化学工場のクロロプレンモノマ製造設備での配管交換作業のための配管切断作業中の事故です。作業員1名が死亡しました。この事故については、2024/1、事故調査委員会が、最終報告書を公表しました。ここでは、最終報告書をもとに、その後判明したことなどをまとめてみました。まず、当時の事故概要は以下の通りです。
2023/6 新潟・化学工場でプラントの配管切断作業中に爆発
化学工場の合成ゴム製造プラントの屋外で配管の切断作業中に爆発が起きた。同工場の関係者が消防に通報した。協力会社の作業員1名が心肺停止で病院に搬送されたが、約3時間後に死亡が確認された。別の作業員2名が軽傷を負った。警察と消防の調べでは、当時、同プラントの屋外では複数の作業員が配管の切断作業をしていた。同プラントでは、クロロプレンゴムなどの合成ゴムを製造していた。
【この事故についてのその後】
(調査により判明した事故の概要)
・行われていた作業は、配管の内壁に付着しているCP-NOxダイマを洗浄しやすくするためのもので、事故時は配管の交換作業のために電動のこぎりで配管の切断をしていた
・CP-NOxダイマは合成ゴムの原料のクロロプレンモノマと窒素酸化物が結合したもので、湿潤状態では発火の危険はないが、乾燥状態になると発火する危険性があった(約100℃で発火)
→作業前には配管の液抜きや水洗いを行い、CP-NOxダイマを湿潤状態にしたが、水洗いによる液だれを防ぐために、乾燥窒素を配管内に吹き込んでいた。それによりCP-NOxダイマが乾燥状態となった可能性
→電動のこぎりで配管を切断した際の熱でCP-NOxダイマに着火した可能性
→火炎が配管内を伝播し、切断箇所から約2.9m離れた、CP-NOxダイマが多く付着していたエルボ部分で配管が破裂。死亡した作業員はその場所で配管を支えていた
(事故の背景要因)
・過去に類似の事故が起きていたにも関わらず、配管に付着していたCP-NOxダイマが持っている危険性に対する関係者の認識が低かったこと
・プラントの運転状態のわずかな変化に対する原因の追究が不十分であったこと
・工事における関係者間の情報伝達などに問題があったこと
(再発防止策)
・CP-NOxダイマの安全な取扱の徹底など
・協力会社への危険情報等の伝達と施工方法の情報交換の徹底など
2013年、食品製造工場でのアセトンの爆発、火災事故
最後は10年以上前の事故です。アセトンを使用して鮭の軟骨から健康食品や化粧品などの原料を抽出していた工場での、アセトンの爆発、火災事故です。従業員2名が死亡しました。当時の事故概要は以下の通りです。
2013/7 北海道・食品製造工場でアセトンの爆発、火災
鉄筋コンクリート造平屋建ての食品製造工場の事務所兼工場でアセトンの爆発、火災が起きた。消防が約1時間半後に鎮火したが、同建屋約750平方mが全焼した。同工場内にいた従業員7名のうち、2名が死亡した。警察と消防の調べでは、同工場内のアセトンが100L以上保管されていた部屋の損傷が激しかったことから、何かの原因でアセトンに着火した可能性がある。同工場では鮭の軟骨から健康食品や化粧品の原料となる成分を抽出していた。
【この事故についてのその後】
・同社の元社長が、規定を超える量のアセトンを工場で使用して爆発事故を引き起こし、従業員2人を死亡させた業務上過失致死の罪に問われていた
→2024/3、釧路地方裁判所が、元社長に禁錮2年を言い渡した
→弁護側は爆発を予見できる立場になかったとして控訴予定とのこと
(その後判明した事故の概要)
・工場では、鮭の軟骨から健康食品や化粧品などの原料となるプロテオグリカンを抽出しており、その際にアセトンを使用していた
→工場でアセトンの処理に使用されていた部屋は、80L未満のアセトンを使用する前提で設計されていたが、実際には400L以上のアセトンを保管し、使用していた
・アセトンは「消防法危険物第4類第1石油類水溶性」で、指定数量は400L。この工場では400L以上のアセトンを貯蔵・取扱していたが、貯蔵・取扱に使用されていた部屋は指定数量の0.2倍である80L未満のアセトンを貯蔵・取扱する仕様で設計されていた
→そのため、電気設備が防爆構造となっていなかったり、静電気除去装置が設置されていなかったりという設備の不備があった
→事故は、同室内のアセトンや、同室内に滞留していた気化したアセトンなどに、電気設備の火花で着火したことで起きた可能性
【編集後記】
以上、3件の事故のその後をお送りしました。
1件目に紹介した事例の工場では、過去にも煎餅のかすなどによる火災が何度か起きていたとのことでした。2件目に紹介した事例では、事故後に、1994年に米国で類似の事故が起きており、1995年には米国の学会誌にCP-NOxダイマの危険性について発表されていたことがわかりましたが、同事故を防ぐことはできませんでした。また、3件目に紹介した事例の工場では、2016年にも同じくアセトンが原因となる爆発で、1名が重傷となる事故が起きました。
事故が起きるのは望ましくないことですが、もし起きてしまった場合には、それを教訓にして繰り返さないことも大事ではないかと思うのです。
さんぽニュース編集員 伊藤貴子