中学生に実験の経験は必要ないのか?【注目の化学災害ニュース】2017年5月のニュースから RISCAD Close UP

投稿日:2017年06月29日 14時00分

2017年5月のニュースファイルから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
今回は「中学校の理科の実験で体調異常を訴える事故」に Close UP です。

5月頭頃から、おそらく実験で発生した硫化水素を吸い込んで起きたであろう中学生の体調不良の事故が4件起きました。
全て軽症とのことでしたが、なんでこう頻発してしまうのでしょうね。
5/2 広島、5/10 大阪、5/19 長野・塩尻、5/25 長野・岡谷
(RISCAD未登録)

中学校の理科の教科書を見ると、中学2年生は、1学期の5月頃「鉄と硫黄」の実験の時期なんですよね。
1年生の頃は沸騰などの実験で、反応系の実験はこれが初めてになるんじゃなかろうかと思われます。
それもあってか、ほぼ毎年この手の事故が起きているような気がします。

教科書出版社からの教員に対する「実験・観察の安全指導」には、「鉄と硫黄の化合実験」で発生する硫化水素についての注意がしっかりと書いてはあるのですが。

啓林館|中学校「理科」実験・観察の安全指導「鉄と硫黄の化合の実験について」

学校間、教員間の事故情報の共有ができていないのでしょうか。

これらの事故を受け、実験は教員が行い、生徒はその様子の見学だけにすることを検討するよう、各学校に通知した県教育委員会もあったとの報道もありました。

相次ぐ理科実験事故 安全管理徹底求め長野県教委が異例の通知:産経ニュース 2017年06月02日
理科実験で体調不良続発、教員の知識不足指摘も:読売オンライン 2017年06月15日注)読売オンラインの記事は2017年06月27日時点でリンク切れです

ということは、実験の経験があまりない教員が指導した、実験の経験がない中学生は、高校生・大学生になって初めて実験を行なうことになるのでしょうか。

子供の頃からの体系的安全教育について考え、教育現場でも取り入れてもらおうという検討が進められていますが、残念ながら、学校では、学校生活の中での事故防止が最優先で、社会に出てからも役に立つ安全教育にまでは手が回っていないようです。

そうすると、安全教育を受けないまま卒業した人たちが企業に入り、企業がコストをかけて、一から体系的にそういう人たちの安全教育をしなければならないという流れになっているのでしょうね。

とすると、やはり中学生に実験の経験は必要ではないでしょうか?

私が中学生の頃、もう30年も前になりますが、中学校の理科の実験でアルコールランプを使ったときには、大人の階段を一段登ったような気がしたものです。
(私は当時では珍しかったかもしれない、マッチやライターで火をつけられない子どもでした)

逆に私は薪で風呂を沸かすような子供時代だったのですが、それでも化学の実験はドキドキしました。
危ないと知っているから、かえって慎重に実験に参加していたように思います。

慣れによる事故も当然ありますが、子供の場合は特に無知、未経験による事故もあります。危険を知らないから、安全に行う方法やなぜそうすべきか(Know-Why)を教えてもらってないから、事故になってしまう。

「中学生に実験の経験は必要ないのか?」という問いについては私は「必要である」と考えます。
中学生の化学実験は、理科の知識を得る勉強であると同時に安全教育の貴重な体感教育の場でもあるのです。
子供が安全を学ぶ機会を失くすようなことは避けたいですね。

もちろんそのためには、先生の安全教育、過去の理科実験における事故情報の共有などもより一層大切になります。

RISCADで「教育」をキーワードに検索すると、小中学校での理科の実験中の事故も見ることができますので、ぜひ活用していただきたいですね。

【編集後記】

「さんぽのひろば」では、これからも子供の頃からの体系的安全教育について考えていきます。
2017年07月22日(土) 産総研 一般公開(つくばセンター)では小学生・中学生向けに身近な化学事故を学べるクイズをご用意しております。皆様のご来場をお待ちしております。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子