研究開発項目:①(b) 同等性評価のための試料調製技術とキャラクタリゼーション
実施機関:産業技術総合研究所 ナノ材料研究部門
最終目標:有害性試験に対してナノ材料分散液を供給し、それら試料のキャラクタリゼーションを行います。気管内投与試験のための試料調製及びキャラクタリゼーションの方法や留意点について、技術解説書をとりまとめて公開します。
主な成果:
ナノ材料有害性の評価技術構築のための動物試験に使用する試料として、
・世の中で良く使われており、汎用性が高い材料
・多様な形状・サイズのナノ粒子が市販品として容易に入手可能
の観点から二酸化チタンを選択し、その他の試験ナノ材料を調製する上での基本となる標準的な分散液の調製手順を確定しました。
二酸化チタンについては、分散液のpHが7(中性)付近で粒子凝集が起こりやすくなることが分かったため、純水溶媒の替わりに、生体に有害性が無いことが確かめられている分散剤である、リン酸二ナトリウム(DSP)を加えた溶媒を用いました。なお、二酸化チタン以外の試験材料では、分散剤を含まない純水溶媒で調製が可能でした。二酸化チタンに関しては、粒子の直径が6~1,000 nm、粒子形状が球状(アスペクト比1)から針状(アスペクト比13)、粒子表面を水酸化アルミニウムで修飾したものと無修飾のもの等、同物質で多様なサイズ、形状、表面状態の材料を用いて調整した分散液を有害性試験用試料として供給しました。
次に、比較的有害性が低い二酸化チタンに対して、有害性が高いことが予想される材料として、酸化ニッケルを選びました。酸化ニッケルについても、直径18~300 nmの球状粒子、アスペクト比1,000の繊維状粒子などを供給しました。
また、結晶性によって有害性が著しく異なると予想される二酸化ケイ素について、非晶質のものと結晶質(α石英)のものを選び試料を調製しました。非晶質に関しては、異なる直径(10, 70 nm)や表面修飾(水酸化アルミニウム、カルボン酸)のものが市販品として入手可能でしたが、結晶質のものは、市販品の粒子サイズが限定されていたため、粉砕加工や粒径選別の操作を行って供給しました。結晶質二酸化ケイ素を粉砕する際には、粉砕加工の影響で結晶質の一部が非晶質に変質してしまうために、非晶質成分をアルカリ溶解で減少させ、X線回折分析によって非晶質成分の定量評価を行いました。
その他、酸化ニッケルと同様に高い有害性が予想されますが、試験動物体内における溶解度が異なると思われる酸化セリウムの分散液も提供しました。
これまでに動物試験用に提供した試料の調製に使用した材料を表①(b)に示します。
さらに、ナノ粒子の物理化学特性として、ISOやOECD等で示される標準的なキャラクタリゼーション項目を考慮して、電子顕微鏡による形状や一次粒子径の評価、比表面積測定とその結果からの粒子径換算、ゼータ電位と等電点の測定、X線回折などによる結晶構造評価、動的光散乱法による分散液中の粒子径(二次粒子径)測定等の項目について評価し、供給試料全体に対するキャラクタリゼーションの整理を進めています。
表①(b) 動物試験用に提供した試料の調製に使用した材料リスト
物質名 | 結晶型・結晶性 | 形状 | 粒子径(カタログ値、nm) |
二酸化チタン | アナターゼ | 球状 | 6 |
ルチル/アナターゼ | 球状 | 21 | |
ルチル | 紡錘状 | 長径29、短径8 | |
ルチル | 紡錘状 | 長径50-100、短径10-20 | |
ルチル | 紡錘状 (Al(OH)3修飾) |
長径50-100、短径10-20 | |
ルチル | 球状 | 1,000 | |
ルチル | 針状 | 長径1,700、短径130 | |
酸化ニッケル | NaCl構造 | 直方体状 | 18 |
NaCl構造 | 不定形 | 50未満 | |
NaCl構造 | 直方体状 | 300 | |
NaCl構造 | ワイヤー状 | 長径20,000、短径20 | |
二酸化シリコン | 非晶質 | 球状 | 10 |
非晶質 | 球状 | 70 | |
非晶質 | 球状 (Al(OH)3修飾) |
70 | |
非晶質 | 球状 (COOH修飾) |
70 | |
α石英/非晶質 | 不定形 | 80、粉砕+アルカリ溶解 | |
α石英/非晶質 | 不定形 | 200、粉砕 | |
α石英 | 不定形 | 300、(800nm原料から分級) | |
α石英 | 不定形 | 300、(1,400nm原料から分級) | |
α石英 | 不定形 | 1,400 | |
酸化セリウム | 蛍石構造 | 直方体状 | 10 |