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研究開発項目:②(b-1) 気管内投与試験の標準化に関する検討:手技の標準化に関する検討

実施機関:化学物質評価研究機構

最終目標:気管内投与試験実施技術者の技能確認方法も併せた、気管内投与試験の標準的手順書の試案をとりまとめて公開します。

主な成果:
気管内投与試験の標準的な実施手順の確立

気管内投与試験の標準的な実施手順を確立するため、様々な試験条件でナノ材料の気管内投与試験を実施し、試験条件の違いが肺有害性(炎症反応)を中心とする試験成績に及ぼす影響を検討しました。本研究開発項目では、肺有害性の程度を定量的に比較するため、気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar Lavage、BAL)検査結果を指標としました。

検討に先立ち、BAL採取者によるばらつきを最小にするため、BAL採取法を規格化しました。まず、肺胞内を洗浄するため、カテーテルを気管に挿入し、結紮した後、カテーテルから洗浄液(滅菌生理食塩水)を7 mL注入しました。このとき、注入圧力を一定にするため、注入開始時の生理食塩水の液面の高さをカテーテルから30 cmの位置に固定して自然落下させました(洗浄液の注入圧力は30 cmH2O)。注入後の洗浄液は、カテーテルから自然落下によって回収しました。洗浄及び回収は2回繰り返すこととしました。このBAL採取法により、洗浄時のばらつきを最小限に抑えることが可能であり、作業者に関わらず洗浄液の約9割を安定して回収することが可能でした。

検討では上記のBAL採取法を用いて投与器具、投与液量、解剖時麻酔を変えて気管内投与試験を実施し、BAL検査結果に影響しない試験条件の範囲及び麻酔法を明らかにしました。

気管内投与試験実施技術者の技能確認方法

気管内投与操作は、気管への投与器具の挿入、挿入深度の調節など注意すべきポイントが複数あり、投与者の技能が未熟であれば、肺有害性を適切に評価できないことが懸念されます。そのため、投与者が一定の投与技能を有しているか否かの判定法が必要です。そこで、気管内投与操作における投与過誤要因に着目して気管内投与技術者の技能確認法(案)を作成しました(表②(b-1))。技能確認法は、動物愛護に配慮し、動物の解剖を必要とせず、投与器具の気管内への挿入操作の習熟度を高めることを目的とした第一段階と、色素液や毒性が既知のナノ材料を気管内投与し、解剖して投与の成否を目視や炎症反応を指標に判断する第二段階から構成しています。

表②(b-1) 気管内投与技術者の技能確認法

技能項目 技能確認ポイント
第一段階(解剖不要) 喉頭鏡操作の習熟度を高める。 ・喉頭の解剖学的構造を理解し、喉頭鏡等を用いて器具挿入箇所(喉頭口)を可視化することが可能である。
投与器具挿入までの一連の操作を滞りなく実施できる。 ・動物が麻酔から覚醒する前に保定、喉頭口の目視確認及び器具挿入が完了する。
投与器具を過誤なく気管内に挿入できる。 ・挿入時に周囲粘膜を刺激することなく器具挿入ができる。
・投与器具を介して気管軟骨を触知し、気管内に挿入していることを確認する。
適切な位置まで投与器具を挿入し、投与を実施できる。 ・与器具を適切な深さまで挿入していることを確認する。
・媒体等を投与し、投与直後に一定時間の呼吸停止及び湿性ラッセル音を聴取する。
・投与後に投与器具に血液付着が無いことを確認する。
第二段階(解剖必要) 投与液が肺内で局在しないように投与することができる。 ・色素液等を投与し、投与直後に逆流がないことを目視で確認する。
・色素液等を投与後に解剖し、左右の肺への分散を確認する。
媒体を気管内投与し、生体反応の変化が確認されない。 ・BALF検査等により、既存研究情報や同一条件で実施した検査結果と同様であることを確認する。
気管内投与試験において結果の再現性を確認することができる。 ・有害性が既知の物質を投与し、既存研究情報と同様の結果が得られることを確認する。