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研究開発項目:②(b-2) 気管内投与試験の標準化に関する検討:単回投与と複数回投与の比較検討

実施機関:日本バイオアッセイ研究センター

最終目標:気管内投与試験の標準的手法として適切な投与回数に関する見解をとりまとめ、研究開発項目②(b-1)による標準的手順書の試案に含めて公開します。

主な成果:
ナノ材料に対する気管内投与試験の確立に際しては、投与回数(単回、複数回)によって肺有害性に違いがあるかどうかについても検討が必要です。そこで、性状や形状の異なる3種類のナノ材料(二酸化チタン(TiO2)、酸化ニッケル(NiO)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT))を用い、単回投与及び複数回投与(2回投与は単回投与の1/2の用量、3回投与は1/3の用量、4回投与は1/4の用量とし、総投与量は同じ)を行い、主に肺への影響を比較、検討しました。また、ナノ材料の各投与回数に合わせ、媒体のみの群(媒体対照群)、及び無処置対照群を設けました。なお、複数回投与の間隔は1日おきとし、総投与量は、TiO2 :10 mg/kg、NiO: 2 mg/kg、MWCNT: 320 μg/kgとしました。動物はF344ラット(12週齢)を用い、投与後最長3か月まで飼育しました。投与終了後3日目、投与開始後及び投与終了後28日目に気管支肺胞洗浄液(BALF)の検査を行い、投与開始後及び投与終了後28日目、さらに3か月後に、呼吸器を中心とした病理学的検索等を行いました。

TiO2、NiO、MWCNTの3材料とも、BALF検査では炎症所見がみられ、NiOでは強い炎症が28日後まで継続しましたが、TiO2は中等度、MWCNTは軽度でした。また、BALF中の総蛋白、アルブミン、LDH等の増加もNiOでは28日後まで継続したものの、TiO2とMWCNTでは媒体対照群と同程度か軽度の増加でした。肺重量は、NiOでは3か月後まで高かったのに対し、TiO2とMWCNTでは3か月後には媒体対照群とほとんど差はみられませんでした。病理組織検査では、28日後と3か月後に肺胞腔内にナノ粒子を貪食(どんしょく)したマクロファージの出現、肺胞腔や肺胞壁又は気管支関連リンパ組織や肺関連リンパ節にナノ粒子の沈着がみられました。TiO2とNiOでは肺のⅡ型上皮の過形成、NiOでは線維化や肺胞腔内に蛋白様物質の貯留がみられました。

3材料とも単回投与と複数回投与でみられた変化は、程度は若干違うもののいずれも質的に同様の変化でした。投与回数による差は、投与終了後3日目のBALF検査でみられました。TiO2とMWCNTでは、多くの項目で単回投与より複数回投与で程度が減弱しましたが、NiOでは、単回投与より複数回投与で程度が増強しました。28日後と3か月後の肺重量及び病理組織検査では、3材料ともほぼ同程度の反応でした。

以上のように、投与総量を同じにして、単回投与と最大4回までの複数回投与のデータを比較すると、反応の程度は、材料によって差がみられたものの、3材料とも反応の質的変化においては同じでした。したがって、いずれの投与回数においても投与による影響をとらえることは可能であると考えられます。しかし、複数回投与による動物への負荷や実験デザインの煩雑さを考慮すると、スクリーニング試験としての気管内投与の回数は、単回投与で評価が十分可能であると考えます。なお、被験ナノ材料の物性等によって、投与媒体中での分散性等を考慮して、低濃度の分散液しか調製できない場合は、複数回投与を取り入れることも必要であると考えます。