事故分析手法PFA®️の実施手順と効用【RISCAD Story 第9回 】by和田有司
さんぽコラム RISCAD story 第9回/全10回
事故分析手法PFA®️の実施手順と効用
-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-
和田 有司
投稿日:2018年6月21日 10時00分
事故分析手法PFA®は、以下の手順に従って分析を実施する。
(1)事象の時系列整理
(2)原因の抽出
(3)恒久的対応策の検討
(4)教訓の作成
(5)概要文のまとめ
(6)グループによる議論
手順の詳細を以下に解説する。
(1)事象の時系列整理
事故事例の分析に先立って、分析対象となる事故事例に関する事故調査報告書などの情報を精読して、内容を十分に理解する必要がある。ただし、一般に事故調査報告書などは難解であるため、事象を時系列で整理しながらまとめると理解しやすい。
第8回で述べた通り、作業者および組織の行動、状況や設備、装置、化学物質および手順書の状態など全てを事象として時系列で並べる。
(2)原因の抽出
時系列で整理した事象には、どこかに事故に至った原因が隠れているはずである。そこで、各事象に問題がないかを逐次検討する。問題がありそうな事象については、原因の抽出を行う。主な原因は、すでに事故調査報告書などに記載されているが、事故調査報告書には、必ずしも全ての原因が記載されているとは限らない。そこで、分析者の知識や経験に基づいて、できるだけ多くの原因を推定して抽出することが望ましい。ここが、事故調査と事故事例分析の相違点と言える。事故事例分析では、真の原因を追及するよりも、事故事例からより多くのことを学ぶことが重要である。
(3)恒久的対応策の検討
恒久的対応策は、抽出した原因ごとに検討し、原因の数だけ恒久的対応策を挙げられることが理想的である。
(4)教訓の作成
教訓は恒久的対応策を普遍化して作成する。ただし、事故事例をより印象づけるために、教訓は1つの事故事例に対して、2-4件程度に絞り込むのが望ましい。したがって、教訓を考える前に、まず、この事故事例でポイントとなる、事故事例を見る人に最も伝えたいことは何か、を考える必要がある。こうした検討を行うことにより、事故事例をより印象的に記憶することができ、また、事故防止のために、まずどこに注意すべきか、どういう対策を優先すべきかを判断する能力が身につけられる。
(5)概要文のまとめ
最後に分析結果をまとめて概要文を作成する。概要文の記載方法は、第7回で紹介した。
(6)グループによる議論
事故分析手法PFAによる事故進展フロー図の作成は、(1)〜(5)の手順で一応は完成する。しかし、その事故進展フロー図には、情報源である事故調査報告書の内容と分析者個人の知識しか含まれていない。事故事例を知識化し、より有効に活用するために、数名のグループで議論し、事故進展フロー図を完成させる。ある分析者が作成した事故進展フロー図の原案に対して、分析者を含めた4-5名程度の異なるキャリアを持つ人たちからなるグループで事故事例について議論し、最終的に事故進展フロー図を完成させる。
事故進展フロー図を囲んでのグループによる議論には、次のような効果が考えられる。
(1)グループ内で事故の情報を知識として共有できる。
(2)事故の進展の見落としを補完し、違った視点で原因を抽出できる。
(3)原因の抽出や恒久的対応策について、他の参加者の知識や経験を共有できる。
(4)皆で原因を見つけ出そうという意識、組織全体の安全意識が向上される。
例えば、化学プラント現場での短時間のミーティングの中で活用するなどの方法が考えられる。
できあがった事故進展フロー図は、事業所全体や企業全体など、さらに広い範囲に水平展開して、事故事例情報の共有と安全教育に役立てることができる。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付
1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。