今後の展望【RISCAD Story 第10回 】by和田有司
さんぽコラム RISCAD story 第10回/全10回
事故分析手法PFA®️の実施手順と効用
-リレーショナル化学災害データベースと事故分析手法PFA-
和田 有司
投稿日:2018年7月24日 17時00分
これまで9回にわたってリレーショナル化学災害データベース(RISCAD)と事故分析手法PFA®について紹介した。
事故分析手法PFA®に関しては、現在は事故調査報告書の事後分析を中心に活用しているが、理想的には事故の直後に行われる事故調査への活用が望ましい。一部、火薬類の事故で事故進展フロー図を用いた分析が行われている例や、事故を起こした企業から直接事故分析手法PFA®の事故調査への活用について相談を受けた例があり、その有用性は示されているが、今後、事故調査においても活用できるように調査の実施方法などを検討し、認知度を高め、利用拡大に努力したい。
一方で、化学事故の事故事例データベースの国際化はあまり進んでいない。その一つの理由は、事故の定義が国によって異なることにある。例えば、日本の高圧ガスに関する事故統計を国際会議の場で発表すると、その件数の多さに他国の人に驚かれる。それは、盗難まで事故に含めていることや、盗難を除外したとしても微少な漏洩も事故として報告し、件数として数えているためである。このような事故の定義の例は国際的にも珍しい。欧州共同体(EC)のMajor Accident Hazards Bureau(MAHB)が構築している重大事故報告システム(MARS:Major Accidents Reporting System)は、経済協力開発機構(OECD)の化学品事故ワーキンググループ(Working Group on Chemical Accidents)参加国も協力する国際的な化学事故データベースであり、人的被害(死傷者数や避難者数など)や化学物質の保有量に対して一定の割合以上の漏洩が起きた場合などに重大事故を報告することになっている。日本の事故を登録する場合に、死傷者数による定義は可能であるが、避難者数や保有量に対する漏洩割合などは、必ずしも情報として集められておらず、登録の対象となるかどうかの判断ができないといった状況である。
リレーショナル化学災害データベースは、化学災害に特化したデータベースとしての地位を確立させ、広く活用されることを目標としている。その活用の中身は、事故防止に役立てることであり、また、安全教育に役立てることである。そのためには、多様な事故事例、すなわち、様々な原因によって引き起こされ、様々な教訓を得られるような事故事例、を学び、それらの事故事例を詳細に分析することによって、教訓を導き出すことの重要性を伝えていくことも必要である。リレーショナル化学災害データベースの中で開発された事故分析手法PFAは、グループでの議論を通じて、安全技術の伝承に役立ち、組織の安全意識を向上させ、結果として、産業保安の向上に役立てることを目標として掲げている。
謝辞
RISCADは、科学技術振興機構の研究情報データベース化事業において同機構と共同開発したものである。RISCADの運用にあたり、日本学術振興会科学研究費補助金研究成果公開促進費の交付を受けた。RISCADの開発、運用には、産総研内外の多数の方にご協力いただいた。ここに謝意を表します。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境安全本部 安全管理部 次長 (兼)安全科学研究部門付
1件でも事故を減らし、1人でも被害者を減らしたい、という一心で事故DBに携わって25年になります。趣味は事故情報の収集です。