毒性ガスが火災や爆発を引き起こす【Dating Chemistry 人と化学のランデヴー】by 若倉正英
さんぽコラム Dating Chemistry 人と化学のランデヴー
毒性ガスが火災や爆発を引き起こす
若倉正英
投稿日:2017年11月22日 10時00分
以前、毒性ガスの危険性を紹介したが、これらの毒性ガスの多くがエネルギー危険性(火災や爆発を引き起こす潜在的な危険性)をもつことを知って欲しい。二酸化塩素は高い毒性があり農薬などに利用されてきたが、最近では鳥インフルエンザに対応した空間消毒薬として注目されている。この物質は同時に高い分解性をあわせてもっている。薬科大学の微生物研究室で二酸化塩素の殺菌性評価の実験中、ガラス製の注射器が爆発して実験者が左手指切断の重傷を負った事故があった。注射器に吸引した時の摩擦で二酸化塩素が分解したものと想定されたが、実験者は毒性のみに注視していて、分解危険性に対する意識がなかったようである。毒性物質ではこのようなエネルギー危険性をもつものが少なくない。例えば猛毒のシアン化水素は可燃性ガスであると同時に重合性物質で、輸入食品の燻蒸に使用されるシアン化水素ボンベは徐々に重合が起きる可能性があり、2月でメーカーに返却することが求められている。
二酸化塩素
・二酸化塩素とは?– 一般社団法人 日本二酸化塩素工業会
・二酸化塩素 – RISCAD
シアン化水素
・シアン化水素 – RISCAD
・化学会社の実験室でシアン化水素中毒 – RISCAD(2011年6月21日)
中毒による労災事故がきわめて多い硫化水素の燃焼限界は、下限界4.3%、上限界46%と下限界は水素に近い値である。また、アンモニアの燃焼限界は下限界15%、上限界28%で、火災や爆発のリスクはあまり高いとはいえないが、アンモニアによる火災事故は過去に起きている。また、一酸化炭素の燃焼限界は下限界12.5%と高めであるが、上限界は74%と水素に近く、爆発リスクが小さいとはいえない。また、以上の燃焼限界は空気中の値で、酸素濃度が高くなると燃焼限界はかなり広くなると同時に、発火温度は低下し、燃焼速度は増大する。つまり、高酸素濃度中では火が付きやすくなり、そして激しく燃焼するのである。
多くの化学物質が複数の危険特性を持っているので、その取り扱いではSDSをみるだけではなく、事故情報も調べておくことが必要である。
硫化水素
・硫化水素 – RISCAD
・化学工場の硫黄製造プラントで火災 – RISCAD(2017年4月21日)
アンモニア
・アンモニア – RISCAD
・中国の鶏肉工場で爆発火災 – RISCAD(2013年6月3日)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 客員研究員
特定非営利活動法人 安全工学会 保安力向上センター センター長
産総研での事故分析や保安力の評価などに従事。モットーは、”遊びと仕事の両立”。