
投稿日:2017年10月12日 10時00分
2017年9月のニュースファイルから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
今回は「中学校の理科の実験中に起きた水素の爆発事故」に Close UP です。
9/28に、島根県の中学校で理科の授業で塩酸と亜鉛を混ぜて水素を発生させる実験の片付け中にフラスコ内の水素が爆発するという事故が起きました。フラスコが破裂し、生徒3名が腕や指に切創で軽傷を負いました。
【RISCAD】中学校で理科の実験中に水素が爆発
教諭が本来使用すべき試験管ではなくフラスコを使用して実験したため試験管での実験よりも多量の水素が発生しており、そこに生徒が興味本位でフラスコにつながったガラス管にマッチで点火して起きた事故とのことですね。
私としてはこの事故の原因は、教諭の実験準備不備、安全指導不足、また、生徒の危険認識不足と考えたのですが。
水素発生の実験では、通常、容量の少ない試験管を使うことになっているのに、担当教諭の指示でガラス製のフラスコを使ったということが最大の誤りでしょう。つまり生徒への指導よりも教諭への教育が足りていない典型例だと思います。
原因は、教諭の実験準備不備というよりも教諭への安全教育不足だと思います。
となると、教諭への教育体制をもっと篤くする必要がありますね。
確かに今回のケースでは、教科書に「必ず試験管に集める」と書かれていた水素を、教諭の判断で前の授業で使用したフラスコに集めていたようです。
小中学校の理科の授業で水素を発生させて着火する実験中の事故は過去にも繰り返し起きていますね。
RISCADで「学校 水素 爆発」のキーワードを入れて検索すると8件の事故事例(9件の事例が出てきますが、うち1件は中国のもので今回のケースには該当しません)が出てきます。(このページ下のRISCAD事例リンクをご参照ください。)
また、RISCADには未掲載(いずれ掲載予定)の以下のような事故もあります。
2016/9 熊本県・水素をフラスコから管で試験管に集め着火させる実験中、生徒が着火しようとした際にフラスコから漏れた水素に着火しフラスコが破裂し破片が飛散し、生徒3名が手首や耳に切創を負った。
こちらの事故では、教諭が指導書の基準より高い濃度の塩素を使って実験したのが原因のようです。
2016/10 福岡県・教諭がフラスコの中で塩酸と亜鉛の混合を実演した際にフラスコが破裂し破片が飛散し、実験台近くにいた生徒9名が目に破片が入ったり、顔に擦り傷などで軽傷を負った。
こちらの事故では、教諭は塩酸と亜鉛を混ぜる分量は間違っていないと言っていたそうです。
これらの事故も、キーワードは生徒ではなくて、責任者であり監督者である教諭ですね。
市の教育委員会が「水素の発生口に火を近づけてはいけない」という指導も不十分だったと謝罪した上で、再発防止を徹底したいとしているという発表をしたという報道もありましたが、これは本質的に間違っています。
水素は着火エネルギーが非常に小さいので、例え裸火を近づけなくても人体に蓄積した静電気の放電でも十分に着火します。水上置換をしているのは、発生した水素に万が一着火してもその火を水素が発生している側の試験管には行かせない(逆火させない)ためでもあります。
それでもなお、万が一逆火が起こってもガラスの飛散などで事故にならないように、容積の小さな試験管や樹脂の容器を用いることが大切です。
懐かしい!水上置換!そういう理由で水上置換で実験していたんですね。理由も習ったはずですが、あまりに遥か昔のことで忘れてしまっています。
そして水素は静電気でも着火するんですね。
その水上置換で実験する理由の記憶も定かでなくなるほど遠い昔、私が中学生時代にプラスチック製の下敷きで髪の毛をこすって静電気で逆立てて遊んでいた記憶があるのですが、水素に静電気で着火するとなると、実験中にそんな悪ふざけをして何も考えずに下敷きを水素に近づけたりしたら着火する可能性もあるということですよね。
そんな知識は中学生時代の自分には全くありませんでした。今知ったくらいですから。
今回の事故は生徒が興味本位でマッチで火をつけたというところもネックですが、もし、教諭(生徒の立場からすると先生)の言う通りに実験を行っていて事故が起きて怪我を負ったりしたらかなりショックですね。トラウマになってしまうかも。
水素を安全に扱うのは、本当に難しいです。
過去のRISCAD Close Up でのコメントとかぶりますが、中学校の実験レベルで水素を発生させるとしても、教諭の安全教育、過去の理科実験における事故情報の共有などもより一層大切になります。
RISCADで「教育」をキーワードに検索すると、小中学校の理科の授業中の事故はもちろん、高校の化学の授業や化学部での事故、大学の研究室での事故も見ることができますのでぜひ活用していただきたいですね。
また、米国のCSB(U.S. Chemical Safety Board)では、 学校でのデモ実験中の事故の教訓をビデオにまとめチラシも作成しています。ぜひ参考にして下さい。
【USCSBチャンネルより”Back to School Safety Message”】
【RISCAD参考事例】
1980/07 神奈川県:実験中における水素が発生したフラスコの爆発事故
2001/10 奈良県:中学校の理科の実験でフラスコが爆発
2006/01 東京都:中学校の実験で水素が爆発
2006/11 千葉県:小学校で理科の実験中に水素が爆発
2007/12 埼玉県:中学校で実験中にフラスコが爆発
2011/10 神奈川県:小学校で理科の実験中にフラスコ内の水素が爆発
2012/03 広島県:中学校で理科実験中にフラスコが爆発
2017/09 島根県:中学校で理科の実験中に水素が爆発
(↑ 今回のRISCAD Close Up記事の元となった事故です)
さんぽニュース編集員 伊藤貴子