液化炭酸ガスボンベの破裂事故【注目の化学災害ニュース】2018年4月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2018年06月07日 10時00分

2018年4月のニュースファイルから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
本来ならば5月のニュースからの内容をご紹介するところですが、昨年9月に起きた大学医学部の研究室での液化炭酸ガスボンベの破裂事故について、4月末に大学の所在地である神奈川県のホームページに掲載されたため、今回はその液化炭酸ガスボンベの破裂事故にClose UPです。

昨年9月、神奈川県の大学医学部の研究室で液化炭酸ガスボンベが破裂するという事故がありました。
2017/09/12 大学の研究室で液化炭酸ガスボンベが破裂
事故当時、同研究室は無人であったため、幸いにも人的被害は出ませんでした。

前回のこの「RISCAD CloseUp」のコーナーでは、消火器の破裂事故について取り上げましたが、高圧ガスボンベの破裂事故は恐ろしいですね。

この事故の原因の一つは、高圧ガスボンベを最後まで使い切らないで残圧を残す、という、ある意味高圧ガスボンベ使用者の常識がもはや常識では無くなっていた、という点にあると思います。

私は高圧ガスボンベについての知識が全くないのですが、高圧ガスボンベの内容物は全て使い切らないものなのですね。

本来それは初めて高圧ガスボンベを扱うときに習うような初歩的なことで、ごく当たり前に知っていなくてはいけないことです。

なぜ液化炭酸ガスボンベは破裂したのか

神奈川県工業保安関係事故のぺージに掲載された該当事故の「高圧ガス事故事例情報シート」H29-62「大学研究室内における液化炭酸ガス容器破裂事故」を参照すると、液化炭酸ガスボンベの内面が水の混入により腐食していたのが原因のようですね。

炭酸ガスの残圧がかかった高圧ガスボンベには外部から水分が入りようがないので、正しい使い方をしていればこのような事故は起きなかったはずです。

なるほど。
詳細に読み進めていくと、この事故は大学に落ち度があったわけではないのですね。高圧ガスボンベは業者を介して内容物が充填され、企業や大学を始めとしたさまざまな消費者のもとで使い回しされていて、たまたま事故の起きた大学で使用中に破裂したということなんですね。

ボンベの腐食の原因

そうです。負傷者が出なくて本当に不幸中の幸いでした。
同時期に消費された液化炭酸ガスボンベを各ユーザから回収し調査したところ、42本中10本で破裂したボンベと同様に水が混入しており、そのボンベの流通経路から、水の混入したボンベは同一の企業が使用したことがあるものと判明したようです。

その企業の使用方法に問題があったということなのですね。

その企業では炭酸ガスをボイラ排水中和用に使用していて、屋根付きの屋外に炭酸ガス中和装置を設置し、その脇に液化炭酸ガスボンベを固定して使用していたようなのですが、問題があるのはこの先です。炭酸ガス中和装置の不具合でボンベ内部が負圧になった、要は、内容物である炭酸ガスが全て使い切られた状態で水が逆流し、その状態でボンベが業者に回収され、液化炭酸ガスが充填されて流通していたのです。
水の混入した液化炭酸ガスボンベは次第に腐食し、たまたま大学の研究室での消費中に破裂したということです。

それを聞くと、同一業者からガスを購入し、ボンベを借用している企業や大学などは、万が一破裂の危険があるボンベが流通していた場合には同じ危険にさらされることになるわけですね。本当に負傷者が出なくてよかったです。

今回の事故は、装置の不具合が原因で、「残圧を残す」ということを知らなかったことが原因ではなかったかもしれませんが、残圧を残すことの意味を理解していれば、「不具合でボンベが負圧になった」という状況を高圧ガスボンベを回収した業者に伝え、再充塡の前に水の混入を調べることができたかもしれません。
単に知識を与えるだけでなく、Know Whyの大切さを思い知らされます。

【参考情報】

神奈川県のサイトより
 工業保安関係事故のぺージ
  「高圧ガス事故事例情報シート」
  H29−62「大学研究室内における液化炭酸ガス容器破裂事故」

【編集後記】

当たり前であろう知識を持ち、それを遵守していれば防げたかもしれない事故は多数あります。どのような分野においても言えることだと思いますが、「Know How」(どうやるかを知る)と「Know Why」(なぜやるかを知る)を常にセットで学ぶことにより、安全意識を高めていくことが大事だと感じました。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子