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エタノールの特性と分類−消毒用エタノールは引火性液体−【注目の化学災害ニュース】2020年3月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2020年04月02日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
今回は3月第2週のRISCAD Updateで事故概要をお知らせした、中国での消毒用エチルアルコール(以下、エタノール)噴霧後の火災から、「エタノールの特性と分類」にClose UPです。

新型コロナウイルス(COVID-19)禍

ほんの3ヶ月前、2020年という新しい年を迎えた頃には、あっという間にまたとても暑い夏が来て、東京オリンピックが開催され、当たり前の1年がこれまたあっという間に過ぎていくものとばかり思っていました。しかし、実際には違いました。

世界中が新型コロナウイルス(以下、COVID-19)禍に遭い、「あっという間」という形容では生ぬるいほどのスピードで世の中の情勢は変化しましたね。東京オリンピックも先週延期が決定しました。

ほんの3ヶ月前、2020年という呑気に構えていた3ヶ月前がなんとも懐かしいです。

COVID-19の流行に伴い、国内で起きたこと、起きていることで印象深いことは、まずはトイレットペーパの買占めでしょうか。最近でこそ、ドラッグストアにトイレットペーパが陳列されていますが、一時の騒動には驚かされました。

また、花粉症の時期と重なったことも大きかったのか、全国的なマスク不足が起きています。これについては個人によるマスクの転売を規制するため、国民生活安定緊急措置法の政令が改正され、マスクの転売は禁止されましたが、個人による転売がなくなっても、ネット通販の小売店でのマスクの販売価格を1枚あたりでみると、かつてマスクが容易に手に入った頃の6-10倍程度の価格設定が多いようです。マスクについては、メーカが増産中とのことで、一般にも早く流通することを願います。

さて、もうひとつ流通が滞っていると耳にするものに、COVID-19の消毒に有効といわれている消毒用エタノールがあります。COVID-19流行以前は一般家庭で消毒用エタノールを買い求めるというのはそう多くはなかったのではないかと想像しています。しかし、現在、消毒用エタノールは医療現場でも不足するほど流通していないとの話が聞こえてきます。医療現場にとって消毒薬が不足するというのは、大問題かと思います。こちらも最も必要とするところに早期に届くことを願うばかりです。

消毒用エタノールに起因する火災

消毒用エタノールといえば、3月第2週のRISCAD Updateでは、中国での消毒用エタノール噴霧後の火災についてお知らせしました。その概要は以下のようなものでした。

2020/03/21中国の会社事務所でエタノールで消毒後に火災
中国・江蘇省蘇州市の会社事務所でエタノール濃度75%の消毒液を使用した定期消毒作業後に火災が起きた。消防が出動して消火した。けが人はなかった。当局の調べでは、消毒作業後に電気の延長コードが短絡して出火し、気化して事務所内に充満していたエタノールに着火して燃え広がった可能性がある。また、消毒を行った従業員は、アルコール消毒液を通常の定期消毒時より多量に使用した可能性がある。

消毒用エタノールというと、衛生的で安全なイメージなのですが、このケースでは不運にも火災が発生してしまったのですね。このようなことはそうそうないと思うのですが。

いや、伊藤さん、よく考えてみてください。

たとえ消毒用エタノールであっても、エタノールを60vol.%以上含有するものであれば消防法上の危険物第4類(アルコール類)になります。そして危険物第4類は「引火性液体」です。中でもアルコール類は気化しやすく、気化すると可燃性の混合気を形成し、前述の事例のように多量に噴霧した場合などは、万が一周囲に何かの着火源があれば、気化して滞留したアルコール類に着火して火災が起きる可能性があります。

確かにCOVID-19の消毒には、エタノールを70vol.%以上含有する消毒薬が有効であるといわれています。ということは、消毒薬とはいえ、れっきとした引火性液体なのですね。消毒用エタノールに起因する火災というのは、たまたま不運であったというわけではなく、私たちの身の回りで起きてもおかしくない事故なのですね。

昨今のように、疫病が流行し、しかもそのウイルスの消毒にはエタノールが有効となれば、一般家庭においても、室内でエタノールを大量に噴霧して消毒しようと考える人が出てくる可能性がないとは言い切れませんね。

気化したアルコールが可燃性混合気を形成すれば、些細な火気で着火します。素人判断で消毒用エタノールを大量に噴霧するようなことは避けたほうがいいですね。

様々な用途があるエタノール

ところで、ここではエチルアルコールを省略してエタノールと呼んでいるわけですが、他にも、単にアルコールとか、またメチルアルコールというのもよく聞きます。この違いは何なのでしょうか?そもそも全く違う物質なのでしょうか?

アルコールは、化学構造によってメタノール(メチルアルコール)、エタノールなどに大別されます。そしてエタノールには工業用、燃料用などがあります。

工業用エタノールは、サトウキビやトウモロコシなどの天然原料から製造される発酵アルコールと、エチレンを原料として化学合成により製造される合成アルコールに分けられます。前者は食品添加物や調味料原料として使用され、後者は溶剤、塗料、洗剤などの工業製品の原料などに使用されます。

また、エタノールは、他のアルコール類と違い、私たちが飲む「お酒」に含まれていることから、飲料に含まれるエタノールと工業用エタノールは、酒税法とアルコール事業法という法律で規制され、区分されています。

酒税法とアルコール事業法ですか。後学のため、どのような区分になっているのか調べてみたいので、少しお時間をください。

(調査中)

ざっくりとした調査ではありますが、酒税法はエタノール1vol.%以上の酒類(飲用アルコール)に対しての課税の法律で、アルコール事業法はエタノール90vol.%以上の工業用エタノールが酒類の原料に不正に使用されることを防止する法律なのですね。もちろんそれ以外にも多くのことが定められていますが。

また、製品の原料となる工業用エタノールのエタノール含有量が90vol.%以上であったとしても、製品化された際にはそのエタノール含有量が90vol.%未満になるといった場合、酒税法が適用されないように、別の物質を添加して飲用に適さないようにして製品化しているものがあるとのことがわかりました。

変性剤を添加した「変性アルコール」

その添加される物質を変性剤と呼び、その代表的なものは、同じくアルコールの一種であるイソプロピルアルコールや劇物であるメチルアルコール(以下、メタノール)です。そしてそれらが添加されたエタノールを変性アルコールといいます。

メタノールといえば、戦時中に密造酒を飲み、その成分のメタノールの影響で失明した人がいたことから、「目散るアルコール」と呼ばれたとも聞いています。それをエタノールに添加すれば、まず飲用しようという人は出ませんね。

主に天然ガスから製造されるメタノールは劇物であり、もちろん飲用には適しませんが、様々な工業製品の原料などとなり私たちの暮らしを支えています。

また、もうひとつ変性剤として名前をあげたイソプロピルアルコールですが、こちらにも消毒用と工業用があり、消毒用イソプロピルアルコールはそれ単体としてもエタノールと同じように消毒薬として利用されています。こちらはエタノールと違い、単体でも酒税がかかりませんが、エタノールより毒性が強いため、通常は手指や皮膚、医療用具の消毒に限定して使用されているようです。

そしてこのメタノール、イソプロピルアルコールも、エタノールと同じ危険物第4類(アルコール類)で引火性液体です。気化すると可燃性の混合気を形成しますので、取り扱いには注意が必要です。

メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールともに危険物第4類(アルコール類)で引火性液体であり、取扱いに注意すべきであること、理解しました。

【編集後記】

私の母が自分で使用するための化粧水を作っていて、以前ドラッグストアにエタノールを購入しに行ったことがあったのですが、その際に「エタノール」の記載がある商品が3種類ありました。

・無水エタノール
・エタノール
・消毒用エタノール

日本薬局方では、無水エタノールは99.5vol.%以上、エタノールは95.1~96.9vol.%、消毒用エタノールは76.9~81.4vol.%と、そのエタノール含有量の差で定められています。消毒用エタノールのエタノール含有量は76.9~81.4vol.%と、そのエタノール含有量が90vol.%未満となるので、変性剤が添加されていなければ、酒類の扱いとなり酒税が課せられます。そのためイソプロピルアルコールを添加して価格が抑えられている製品があるとのことです。

ひとりひとりが最大限の予防策を講じ、COVID-19が早期収束することを願うばかりです。