危険予知トレーニング(KYT)のススメ その2【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2021年05月13日 11時30分

前回4月のRISCAD CloseUPで一緒にチャレンジした、私たちの身の回りでよく見かける電源ケーブルについての危険予知トレーニング(KYT)、いかがでしたでしょうか。今回も前回に引き続き、みなさんと一緒にKYTを行いたいと思います。「さんぽのひろば」の仲間であるわんぽさんがこの春からひとり暮らしを始めたということで、今回はわんぽさんの日常生活からのKYTです。一緒にチャレンジしてみましょう。

危険予知トレーニング(KYT)について

前回と同じ内容ではありますが、まずは、危険予知トレーニング(KYT)とはどんなトレーニングなのか、おさらいしてみましょう。

危険予知訓練は、作業や職場にひそむ危険性や有害性等の危険要因を発見し解決する能力を高める手法です。ローマ字のKYTは、危険のK予知のY訓練(トレーニング)のTをとったものです。
厚生労働省 職場のあんぜんサイト内 危険予知訓練(KYT) より引用)

より詳しい内容については、 「危険予知訓練(KYT)」厚生労働省 職場のあんぜんサイト内)をご覧いただくこととして、早速トレーニングの実践をしてみたいと思います。

わんぽさんのひとり暮らし

今回も、私たち「さんぽのひろば」からは、さんぽさん、わんぽさん、にゃんぽさんがトレーニングに参加しますよ。第2回目の例題は、この春からひとり暮らしをはじめたというわんぽさんのアパートの台所でのKYT。まずはちょっと長めの3人の雑談からスタートです。

わんぽさん、この春から社員寮を出てひとり暮らしを始めたんだってね。どうだい?新生活は?

なかなか快適ですよ。これまでしたことがなかった料理にもチャレンジしたりして、おかげさまで充実しています。

へぇ、わんぽさんが料理を!どんなメニューが得意なの?

パエリアなんか、よく作るよ。

それは本格的な!

わんぽさんはこれまで料理したことあったの?

それが、実家にいた頃は弁当を含め毎食母親が作ってくれていたし、就職してからは、社員食堂や寮のまかないを食べていたから、料理とは縁がなかったんですよ。

それが一念発起して料理とは、やるねぇ。

いや、ぼくも最初は自分が料理をするようになるとは思っていなかったんだ。でも、新型コロナウイルスの流行で、ちょっと仕事が長引くと、外で食べて帰ろうとしてもお店が閉まっていることが多く、かといって、コンビニ弁当には飽きちゃって。それで必要に迫られて料理をしてみたら、思ったより楽しくて。ただ、ひとり暮らしのアパートの台所だから狭いんだよね。1口のガスコンロと、カセットコンロを併用して料理しているよ。

台所は火気を使用するところだよね。その分家庭の中で事故が起きる確率が高い場所だね。この機会にわんぽさんの部屋の台所を見せてもらってKYTしてみない?

あ、ぜひお願いします。知識がないせいで、自分では気づかないうちに危ないことをしているかもしれないですからね。

プロセス1:どんな危険性があるか意見を出し合う

ここにわんぽさんの部屋の台所のイラストがあります。みなさんはこれを参考にしてトレーニングに参加してくださいね。

わんぽさんの部屋の台所

これがわんぽさんの部屋の台所だね。

スッキリと片付いているね。

ガスコンロの横に置いてあるものは何?

スプレー缶入りの殺虫剤と、カセットコンロ用ガスボンベです。
台所は食べ物を扱うところだから、ゴキブリが出るのではないかと警戒しているんです。ぼく、ゴキブリが大嫌いで、料理中にゴキブリが出たらパニックになると思うので、殺虫剤を近くに常備しているんですよ。
カセットコンロ用ガスボンベは、ガスコンロの横で使用しているカセットコンロの燃料の予備として、すぐに交換できるように近くに置いています。

スプレー缶やカセットコンロ用ガスボンベはガスコンロの横に置かないほうがいいよ。コンロの火で熱せられて破裂する可能性がある。

わんぽさんがゴキブリ嫌いなのはわかるけれど、殺虫剤を台所に置くのはやめたほうがいい。「料理中にゴキブリが出たらパニックになるかも」と言っていたけれど、ガスコンロやカセットコンロで調理中にゴキブリが出たとして、その場ですぐに殺虫剤を使う可能性が高くなるよね。よく考えて欲しい。スプレー缶入りの殺虫剤の噴射剤には可燃性ガスが使われている可能性がある。もし、パニックになってコンロなどの火を消さずにその場で殺虫剤を噴射したらとても危険だよ。スプレー缶には「火気厳禁」と書いてあるし、わんぽさんもそれを理解していて、殺虫剤を使用する時にはコンロの火を消すことを想定しているのだろうけれど、パニックになってしまうとどんな行動をするか分からない。一呼吸置いて取りに行ける場所に置く方がいいと思うよ。

コンロの火を消して殺虫剤を噴射したとしても、殺虫剤のにおいが気になって換気しようとしてすぐに換気扇を回すのも危険だよ。換気扇作動時のスパークで殺虫剤の噴射剤の可燃性ガスに着火する場合があるからね。
ガスコンロに着火したつもりが着火できていなくて、ガス漏れが起きてしまった場合なども同様だね。

カセットコンロが2台あるね。その上に乗っている大きなものは何だい?

これは自慢のパエリア鍋だよ。大きいから一度にたくさんの量ができるんだ。新型コロナウイルスの流行が落ち着いたらごちそうするから、うちでパエリアパーティしようよ。

(こんな大きなパエリア鍋…何人前できるのかな。しかもカセットコンロで調理してうまくできるのかな。とりあえず、それは置いておいて…)
この鍋を使って、カセットコンロでパエリアを作るの?コンロを覆うような調理器具を使用すると、カセットコンロ用ガスボンベが熱せられて破裂する可能性があるよ。

火力が足りないから、パエリアを作る時にはカセットコンロを2台並べて上にパエリア鍋を乗せているよ。

それは危険だってば。まず、カセットコンロの使い方として2台並べてその上に調理器具を乗せるのはご法度だよ。カセットコンロ用ガスボンベが熱せられて破裂する可能性がある。カセットコンロを覆ってしまうほどの調理器具を乗せて使用するのも、同じくカセットコンロ用ガスボンベが熱せられて破裂する可能性があるから危険だよ。

なるほど、言われたら納得することばかりだ。危険なのはわかっているつもりでも、ついやってしまっていたこともあるし。今回、ふたりに台所をチェックしてもらってよかったよ。

プロセス2:危険のポイントを把握する

ここで、わんぽさんの部屋の台所の危険のポイントをまとめてみよう。

➀ガスコンロのそばにスプレー缶入りの殺虫剤と、カセットコンロ用ガスボンベを置いていること。コンロの火で熱せられて破裂する可能性がある。

➁スプレー缶入りの殺虫剤をコンロのすぐ近くに置いていることは、破裂の危険のみならず、ガスコンロやカセットコンロで調理中にゴキブリが出た場合にパニックに陥って、コンロの火を消さずに殺虫剤を噴射してしまい、噴射剤の可燃性ガスに着火して火災や爆発の原因になる可能性がある。

➂カセットコンロ全体を覆うような大きな調理器具を乗せて使用すること。カセットコンロ用ガスボンベが熱せられて破裂する可能性がある。また、➃カセットコンロを2台並べて、その上に大きな調理器具を乗せて使用することも同様。

プロセス3:どうしたらよいか

プロセス2であげた➀〜➃について、どのような対策をとったら解決できるか、危険を避けられるか、まとめてみよう。

➀と➁について、ガスコンロのそばに置いてあるスプレー缶入りの殺虫剤と、カセットコンロ用ガスボンベを火気のそばから移動する。スプレー缶入りの殺虫剤については、場所を移動したとしても、火気を使用している場所で噴射することがないようにする。

➂カセットコンロ用ガスボンベの上に全体を覆うような調理器具を乗せて使用しない。また、➃カセットコンロを2台並べて使用しない。

プロセス4:危険を避けるために実施することの確認

では、まとめてみよう。

➀火気のそばにスプレー缶やカセットコンロ用ガスボンベを置かない。
➁スプレー缶入りの殺虫剤は、火気を使用している場所で噴射しない。
➂カセットコンロを覆ってしまうような大きな調理器具を乗せて使用しない。
➃カセットコンロを2台並べて使用しない。


今回、ぼくたちのKYTにより確認できた、わんぽさんの部屋の台所での注意点・改善策は、以上の4点ということでよいかな?

さんぽさんたちのKYT結果

はい!良いと思います!

パエリア鍋は小さいものに買い換えることにするよ。実はあれ、10数人前調理できる鍋なんだ。いずれふたりにごちそうするとしても、もう少し小さい鍋でも大丈夫そうだもんね。

(わんぽさん、そんなに大量に作ってひとり食べていたのか!)

答えはこれだけではない

さんぽさんたちはわんぽさんの部屋の台所から以上の結論を導き出したようです。しかし、これはあくまでも彼らの視点で発見した危険の可能性です。読者のみなさんは他にも危険の可能性を発見されたかもしれません。

たとえば、別の視点から見てみると、
  • スプレー缶入りの製品を使用し終わった後、台所で内容物を使い切ってガス抜きをする可能性がある
     →その後すぐに換気扇を作動させると、スパークでスプレー缶入り製品の噴射剤の可燃性ガスに着火する可能性
     →→使用後のスプレー缶は風通しの良い場所(できれば屋外)で中身を出し切ってガス抜きをする
  • 高所の不安定そうな棚にカセットコンロを収納している
     →使用するためにおろす際に誤って落下させたり、地震の揺れで落下して頭部など身体の一部にあたる可能性
     →→なるべく低位置の扉付きの棚に収納する。耐震への備えを行う。
もちろん、先ほどの写真でのKYTの答えは、今回のこのコーナーであげた事象に限りません。「これは危険につながるのではないか」と気づいたことがあれば、それがまたKYTのスタートとなり、別の答えが導き出されるのです。

まとめ

「KYTのすすめ」第2回目いかがでしたでしょうか。

「危険予知」というと難しいイメージを抱かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、なるべく親しみやすくするため、わんぽさんのひとり暮らしの台所を題材にして、パエリア作りにはまっている意外な一面を紹介しつつのトレーニングとなりました。みなさんもご自宅の台所を見回してKYTをしてみてくださいね。

次回は別のケースを想定したKYTを行ってみたいと思いますので、みなさんぜひまた一緒にチャレンジしてみてください。

【参考情報】

厚生労働省
  職場のあんぜんサイト 危険予知訓練(KYT)
さんぽニュース編集員 伊藤貴子