もう一度考えたい「まぜるな危険」【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2021年11月04日 15時00分

10月第2週のRISCAD Updateでお知らせした塩素系洗剤と酸性洗剤の誤混合による事故。私たちが日頃使用する洗剤類に「まぜるな危険」という表示がされるようになったきっかけを含め、塩素系洗剤と酸性洗剤を混ぜることで起きる事故への注意喚起をさせていただきました。今回は、同様の危険性がある別の事故事例を含め、「もう一度考えたい『まぜるな危険』」と題し、塩素系洗剤と酸性洗剤の誤混合への注意喚起の拡大版をお送りします。

塩素系洗剤と酸性洗剤の誤混合による事故

10月初旬、宮城県で塩素系洗剤と酸性洗剤の誤混合による事故が起きました。

2021/10/8 宮城・複合施設で洗剤の誤混合により有害ガスが発生
複合施設で清掃員が洗剤を誤って混合し、有害ガスが発生した。ガスを吸い込んだ清掃員1名が、喉の痛みなどで病院に搬送された。当日、同施設で開催予定のイベント等はなく、従業員や客などへの影響はなかった。警察と消防の調べでは、負傷した清掃員が塩素系漂白剤と酸性のトイレ用洗剤を誤って混合したことで、有害ガスが発生した可能性がある。

負傷された方の命に別状はないようで幸いでしたが、発生した有害ガスは、塩素系漂白剤の成分である次亜塩素酸ナトリウムと酸性の洗剤が反応したことで発生した、塩素ガスであると推測されます。

塩素ガスは、刺激性が高く、曝露したり吸入したりすると、たとえそれが少量でも、目や皮膚、気道、呼吸器などが刺激されます。大量に吸入した場合には死に至るケースがあり、過去には実際に、洗剤類の誤混合で発生した塩素ガスを吸入したことが原因とみられる死亡事故が起きています。
 

洗剤類への「まぜるな危険」表示の歴史

さて、みなさんご存知のことと思いますが、私たちが普段使用している洗剤類の一部には「まぜるな危険」の表示がしてあります。これは、前項に記載した、塩素系洗剤と酸性洗剤の誤混合を予防するためのものです。

洗剤類にこの表示がされるようになったのはいつ頃からなのか。それを説明するには、今から30年以上前の1980年代に遡ることになります。

当時、一般家庭での清掃中に塩素系漂白剤と酸性洗剤を混合したことが原因で塩素ガスが発生したとみられる事故が数件発生しました。事故に遭われ、塩素ガスを吸入するなどして体調不良となった方や、最悪のケースでは亡くなられた方もいらっしゃいました。

この1980年代の事故の後、該当の洗剤類のパッケージへの「まぜるな危険」の注意書きの表示が義務付けられることとなりました。

製品に「まぜるな危険」の表示がされるようになったことが功を奏してか、最近は家庭内での洗剤類の誤混合による塩素ガスの発生事故はあまり聞かれなくなったように感じます。

しかし、別の場所で、消毒剤などの誤混合による塩素ガス発生のニュースを耳にすることが未だにあります。その場所は、工場や学校です。実際の事故事例を見てみましょう。
私たちの身の回りの洗剤類とその表示例

学校での塩素系物質と酸性物質の誤混合による塩素ガス発生事故事例

2017/6 宮城・小学校のプール機械室で消毒剤の誤投入による塩素ガス発生
小学校のプール機械室で消毒剤の誤混合により塩素ガスが発生。教諭がプールのゴミを凝固するためのポリ塩化アルミニウムのタンクに、誤ってプール消毒用の次亜塩素酸ナトリウムを投入したため、化学反応で塩素ガスが発生した可能性。薬品投入作業中であった教諭が目の痛みなどで病院に搬送されたが、軽症。

2021/7/6 静岡・小学校のプールで消毒剤誤投入により塩素ガスが発生
小学校のプール機械室でタンクへの消毒用の次亜塩素酸ナトリウムの誤投入により塩素ガスが発生。プール消毒当番の教諭が、現在は使用されていない酸性の凝集剤入りのタンクに次亜塩素酸ナトリウムを誤投入したため、化学反応により塩素ガスが発生した可能性。児童や教員、周辺住民に体調不良なし。

学校での塩素系物質と酸性物質の混合による塩素ガス発生事故は、上記の事例のようにそのほとんどがプールの消毒等のための薬剤投入時に発生しています。酸性であるポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤のタンクに、誤って塩素系の消毒剤である次亜塩素酸ナトリウムを投入してしまう、またはその逆で、塩素系の消毒剤である次亜塩素酸ナトリウムのタンクに、誤って酸性であるポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を投入してしまうことにより事故が起きています。

東京消防庁のサイトでは、「プール施設等における塩素ガス発生に注意!」で注意喚起をしています。

この情報によると、プールの凝集剤を投入するタンクと消毒剤を投入するタンクの色、形や、凝集剤と消毒剤、それぞれの薬剤の入った容器の色、形が似ていることで、誤投入が起きる傾向があるようです。
 

工場での塩素系物質と酸性物質の誤混合による塩素ガス発生事故事例のおさらい

2017/5 神奈川・食品加工工場で消毒液を調合中に塩素ガスが発生
マグロを解体する機械を消毒するための薬品を調合中に、希塩酸を補充すべきところ、誤って次亜塩素酸ナトリウムを混合し、塩素ガスが発生した可能性。資材置き場から希塩酸と誤って次亜塩素酸ナトリウムを解体加工作業場に運搬し、他の従業員が薬品を取り違えたまま混合した。薬品容器の記載は間違っていなかった。近くにいた作業員16名が呼吸の苦しさ、喉や鼻の痛みなどで病院に搬送され、1名が重症、15名が軽症。

2017/10 愛知・食肉加工工場で消毒薬の誤投入により塩素ガスが発生
工場の屋外のタンクに、消毒薬を誤投入したことにより塩素ガスが発生。屋外タンクは2つあり、片方は消毒用の次亜塩素酸ナトリウム用、もう片方は凝集剤のポリ塩化アルミニウム用であったが、従業員が誤って次亜塩素酸ナトリウム用のタンクにポリ塩化アルミニウムを投入したため、化学反応で塩素ガスが発生した可能性。けが人はなし。

神奈川の事例では薬品の取り違え、愛知での事例では投入するタンクを誤ったことが原因の可能性があります。

いずれも、前項で参考にした、東京消防庁のサイトでは、「プール施設等における塩素ガス発生に注意!」で注意喚起をしているプールでの事故同様、タンクの色、形や、薬剤の入った容器の色、形が似ていることで起きた可能性があります。

特に工場では、一度に投入する薬剤の量が多いと考えられ、誤投入した際の被害が大きくなる可能性があります。タンクや薬剤に印をつけたり、薬剤の違いが明確になるよう置き場を工夫したりして誤投入を防止する努力をされているかと思いますが、さらにダブルチェックをするなどして、事故の防止を徹底したいものです。

どうして「まぜるな危険」なのか

話を家庭の洗剤類に戻します。前述のように、昨今、「まぜるな危険」の表示が功を奏してか、家庭内での洗剤類の誤混合による塩素ガス発生の事故はあまり聞かれなくなったように感じます。

家庭の洗剤類に「まぜるな危険」の表示がされるようになってから約30年。どうして「まぜるな危険」の表示がされるようになったのか、混合するとどのような危険性があるのかという情報が理解されてこそ、表示はその意味をなします。今回は、当たり前になったその表示の意味を再確認するためにこの内容を取り上げさせていただきました。私ももう一度自宅の洗剤類の表示をじっくりと見てみたいと思います。

 

【参考情報】

【参考記事】

さんぽニュース編集員 伊藤貴子