無人実験中の事故【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2022年01月13日 10時00分

  新年明けましておめでとうございます。
  今年も「RISCAD CloseUP」をよろしくお願いいたします。


昨年末RISCAD LookBackのコーナーに「2021年の事故を振り返る」という記事を掲載するため、1年の事故を見返しました。印象深かった事故については、その記事のなかですでに触れていますが、今回このコーナーでは、昨年の事故の中でもうひとつ気になった事故についてお送りしたいと思います。2022年最初のRISCAD CloseUPは「無人実験中の事故」についてです。

2021年に起きた大学の研究室等での事故

2021年の大学における事故のうち、私たち「さんぽのひろば」、「RISCAD」の視点での収集により情報を得られた大学での事故は12件ありました。うち、薬品紛失が1件、工事業者に起因すると思われる事故が2件、その他電気系のトラブルなどによる火災、ぼやが2件、原因不明の火災が1件ありました。

そして残りの6件は、研究室、実験室で実験中に発生した火災でした。ここでは、それらの事故を発生順にみてみましょう。

2021/02/18 23:00 愛媛・大学の実験室で実験機器の火災
大学の校舎の7階の実験室で半導体の研究中に実験機器の火災が起きた。警備員が発煙に気づき、消防に通報後、消火器で初期消火を行った。消防が約30分後に鎮火を確認したが、同実験室内のコンプレッサなどの実験機器や電源コード、床の一部が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同研究室は無人であったが、実験機器を作動させて半導体関連の実験をしていた可能性がある。

2021/03/16 00:50 福井・大学の実験室で無人実験中に紫外線発生装置から火災
大学工学部の研究棟2階の実験室で無人実験中に装置から火災が起きた。学生が実験装置からの出火に気づき、直ちに消火したが、実験器具や同室の壁など約1平方mが焼けた。警察と消防の調べでは、同室は生物有機化学の実験室で、薬品を入れた試験管に紫外線を当てる実験を無人で実施中であった。紫外線を発生させる装置から出火した可能性がある。

2021/08/15 09:00 東京・大学の研究室で薬品の保温用の装置周辺から火災
大学の薬学部の10階建ての研究棟の2階の研究室で薬品保温用の装置周辺から火災が起きた。別の実験で同棟にいた学生が発煙に気づき消防に通報した。はしご車など消防車両45台が約4時間後に消火したが、同棟の2階と3階の一部約70平方mが焼けた。警備員1名が煙を吸って軽傷を負った。警察と消防の調べでは、同研究室は無人で、実験用の薬品を一定温度で温める装置で前日から薬品を温めており、装置周辺から発煙した可能性がある。

2021/10/01 00:20 新潟・大学の研究室で火災
大学の校舎の5階の研究室で火災が起きた。警備員が消防に通報した。消防車など12台が約1時間後に消火したが、同研究室が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同研究室では物質の研究をしており、前日の夕刻から無人で薬品の反応を調べる実験装置を稼働させていた。実験装置の不具合が起きたか、薬品から出火した可能性がある。

2021/11/23 11:20 北海道・大学の実験室でホットプレートを使用した実験中に火災
大学の農学部の校舎の2階の実験室でホットプレートを使用した実験中に火災が起きた。大学の関係者が消防に通報した。学生や警備員がすぐに消火した。消防車16台が出動した。同室内のテーブルや棚が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、実験中に、ホットプレートで加熱した樹脂から出火した可能性がある。

2021/12/04 12:47 東京・大学の実験室で実験中にアルキルリチウムの火災
大学の9階建ての校舎の5階の化学実験室で実験中にアルキルリチウムの火災が起きた。ポンプ車32台が約5時間半後に鎮火したが、同校舎の5階部分の壁など約30平方mが焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同実験室では、学生5名が薬品を混合して反応を確認する実験中で、アルキルリチウムの溶液をこぼして出火した可能性がある。

ここであげた事例が全てではないのはもちろんなのですが、研究室、実験室の6件の火災のうち、無人での実験を行っていた際に発生したとみられる火災が4件ありました。そしてその無人実験中の火災のうち、3件は深夜の時間帯に発生しています。

無人だからこその用心を

密を避けざるを得ないコロナ禍でも、無人で作動させることができる機器を使用して実験が行えるのは良いことですが、事故が起きてしまっては実験の成果が台無しになってしまいます。また、実験内容、扱う物質、機器によって差があるかとは思いますが、無人での実験時の事故は、周囲に人間がいないことで事故発生に気付きにくく、初期対応が遅れる可能性があります。

言わずもがなですが、無人での実験の際には、有人での実験を行う場合以上にしっかりとした安全確認を行い、可能であれば、状態が落ち着くまでは目を離さず、さらに、実験条件を変化させるような場合には、無人であるからこそ起こりうるリスクも加味したリスク評価と安全対策を講じる必要があります。

 

さんぽニュース編集員 伊藤貴子