水で発熱、発火する物質【注目の化学災害ニュース】2018年10月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2018年12月06日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。前回前々回と、自然災害に起因する産業事故、Natech(ナテック:Natural-Hazard triggered Technological Accidents)に関連するお話でしたが、今回もまたその台風という自然災害に起因する産業事故のニュースから出てきたキーワード、水で発熱、発火する物質にClose UPです。

ここのところ、自然災害に起因する産業事故、Natech(ナテック:Natural-Hazard triggered Technological Accidents)に関連するお話が続いていますが、今回の「水で発熱、発火する物質について」も、台風21号の影響による高潮で浸水したコンテナでのマグネシウム火災の鎮火の記事を見てこのコーナーで、取り上げようと思いました。

この火災は9/5に発生、そして10/26にようやく鎮火。鎮火までに実に51日を要したようですね。

この火災が鎮火までになぜこんなに長くかかったかというと、マグネシウム火災だったからですよね(物知り顔)。過去にもマグネシウム火災の事例はありましたが、マグネシウムは水に触れると発熱、発火する性質があるため、放水による消火ができずに長期化するパターンが多くあった気がします。

そうですね、記憶に新しいところですと、と言っても4年は経っていますが、2014年に発生した金属加工工場でマグネシウムによる爆発、火災では機械火花でマグネシウムに着火して爆発も起きましたが、やはりマグネシウムの特性上、消火活動で放水ができなかったため、砂をまいてマグネシウムの温度を下げたり、延焼を防ぐための周りの建物への放水をしたりするという策が取られました。

しかし、燃えているものには水!ってとっさに出てくる考えですよね。全く別の話ですが、食用油、例えば天ぷら油の火災の時なども、火には水!と慌てて水をかけると、高温の油に投入した水が一気に水蒸気になり、それとともに高温の油も周囲に飛び散って、火炎が広がる可能性があるのでやってはいけないというのは主婦の豆知識です(物知り顔)。

危険物を製造、貯蔵、取り扱う場合の許可や届出など

万が一、マグネシウムが火災現場に保管されていると知らずに、消防が出動して、放水による消火活動をしてしまったら大変なことになりますね。

マグネシウムのような、水と反応することにより発熱、発火する特性のある物質も含め、消防法上で危険物*として定められた物質を、製造したり、貯蔵したり、取り扱ったりする場合には、法令で定められた技術上の基準に従い、その量などに応じて、市町村長、都道府県知事または総務大臣の許可や届出が必要になります。

なるほど、その届出などにより、いざ事業所で火災発生という時に、例えば事業所がマグネシウムを所持しているとしても、消防側も「あの事業所では水による消火が適さないマグネシウムを所有している」という情報がすでにわかっているので、消火手段の見極めに役立ちますね。

マグネシウム以外の水で発熱、発火する性質を持つ物質

マグネシウムの他にも、水と反応することにより発熱、発火する性質を持つ物質があるとのことですが、私が聞いたことがあるのはアルミニウム粉末ぐらいです。他にどんな物質がありますか?

その名前を耳にすることが多い物質ですと、カリウムナトリウムあたりでしょうか。

今回、2度も(物知り顔)をしておいて何なのですが、そもそも上の物質はなぜ水と反応することにより発熱、発火するのでしょうか。初めの頃に出た話に戻りますが、火が出たらまずは水をかけようという理屈が通用しないのはなぜなのでしょうか?

高校で習った「イオン化傾向」は覚えているでしょうか。「貸(カリウム、K)そうか(カルシウム、Ca)な(ナトリウム、Na)、ま(マグネシウム、Mg)あ(アルミニウム、Al)あ(亜鉛、Zn)て(鉄、Fe)に(ニッケル、Ni)すん(スズ、Sn)な(鉛、Pb)ひ(水素、H)ど(銅、Cu)す(水銀、Hg)ぎ(銀、Ag)る借(白金、Pt)金(金、Au)」などの語呂合わせで有名なものです。

読んで字の如く、金属(と水素)をイオン化しやすい順に並べたものですが、注目すべきは水素との位置関係です。水素より左側にある金属は、水素よりイオン化し易いので、水素イオンを含む水と反応して金属イオンとなり、水素イオンは2個結合して水素分子として気体になって出てきます。ただし、その反応は左に行けば行くほどし易く、カリウム、カルシウム、ナトリウムは常温の水と反応します。そして、これらの反応は同時に発熱を伴いますので、水と接触すると炎を伴って激しく反応します。マグネシウムになりますと高温の水でなければ反応しませんが、すでに火災になっているマグネシウムは当然のことながら100℃の沸騰水より高温ですから、水と激しく反応してしまいますので、消火のために水をかけてはダメ、ということになります。

これは私も学校で習ったのでしょうか。記憶にありません・・・なんともお恥ずかしい。しかし、「貸そうかな、まああてにすんなひどすぎる借金」というインパクトある語呂合わせ記憶法とともに、水素から左側の物質は、水との相性が要注意であることを今回理解しました。

*消防法のほか、毒物及び劇物取締法や労働安全衛生法など、それぞれの法律で「危険物」の定義がされ、規制されています。

【編集後記】

カリウム、カルシウム、ナトリウムは常温の水と反応すること、マグネシウムは高温の水と反応すること、ここはしっかり頭に入りました。
イオン化傾向の語呂合わせ記憶法、インパクトがありますね。化学記号の語呂合わせ記憶法「水兵リーベ僕の船・・・」などが懐かしく思い出されます。そういえば高校の世界史の先生が、第32代アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルト以降のアメリカ歴代大統領の語呂合わせ記憶法を教えてくれたのを思い出しました。当時その語呂合わせの最後にいた大統領は誰だったか、そうそう、第39代大統領ジミー・カーターまででした。第40代ロナルド・レーガン以降は記憶するまでもなく当時は顔が浮かぶ大統領であったので。時の大統領はギリギリ、第41代大統領ジョージ・H・W・ブッシュ(先日亡くなられた、お父さんの方のブッシュ大統領)でした。ということは、現在の第45代ドナルド・トランプ大統領は、25年と少し前から数えても、アメリカでは大統領の交代はたった4回なのですね。しみじみ。すいません、懐かしさも相まってついつい脱線した編集後記となりました。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子