食品工場でのガスに起因する事故【注目の化学災害ニュース】2020年1月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2020年02月06日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
今回は1月第4週のRISCAD Updateの文末でふれた食品工場で起きたオーブン釜でのガス爆発(2017年発災)から、「食品工場でのガスに起因する事故」にClose UPです。

食品工場で多い事故=火災?

1月第4週のRISCAD Updateの文末で、2017年3月に起きた福島県の食品工場でのオーブン釜のガス爆発事故のその後について触れました。

その際、食品工場という業種において、私たちがウオッチしている範囲でどのような事故が起きたかを思い返し、RISCAD登録事例を調べてみました。

私の予想では、まず食品の製造というと加熱するイメージがあり、加熱=火を使用する=火災が多いのではないかと思ったのですが、一概にそうとも言えない結果となりました。

火炎による加熱という面から考えた場合、熱源に火を使用するということは、何かの燃料があると考えられます。そう考えてみると何か見えてくるのではないでしょうか。

そうなのです。火による加熱ではガスを燃料として使用していることが多く、2017年の福島での事故のように、ガス爆発などのガス関連の事故事例が見られました。

2017/3/8 福島・食品工場のオーブン釜でガス爆発
(1月第4週のRISCAD Updateで紹介した事例)
鉄骨平屋建ての食品工場で高さ約2.5m、幅約3m、長さ約6mのオーブン釜でLPガスの爆発が起きた。火災の発生はなかった。同工場の壁が破損して吹飛んだ。釜のそばで作業中であった従業員1名が爆風で建屋外まで吹飛ばされ死亡し、別の従業員1名が軽傷を負った。警察と消防の調べでは、同工場では菓子の製造をしており、通常7-8名が勤務していた。当日朝8時頃、従業員が菓子製造用オーブン釜に点火しようとした際に、ガス臭がしてガス検知器が作動したため、約1時間換気を行い再度点火したところ爆発した。同釜内から漏洩したLPガスに釜の火で着火した可能性がある。

2017/6/14 熊本・食品加工工場でガス爆発
食肉加工工場でガスボンベから漏洩したガスの爆発、火災が起きた。木造平屋建ての事務所兼工場約300平方mが全焼した。従業員1名が右手首と右大腿骨の骨折で重傷、4名が顔などにやけどで軽傷を負った。警察の調べでは、同工場内の加熱室で従業員約20名がガスボンベを使用して食肉の加熱調理をしており、何かの原因でボンベからガスが漏れた可能性がある。

いずれのケースでも、死傷者が出ています。ガス爆発については、他業種でも同様のことが言えますが、被害が大きくなりがちです。

不完全燃焼と一酸化炭素中毒

そして食品工場関連の事故をRISCADで検索していくと、ガスに絡む事故事例で目につく事例がもうひとつありました。

それはガスの不完全燃焼などによる一酸化炭素中毒ですね。

はい、そうなのです。食品製造工場での一酸化炭素中毒の事例も目立ちました。

2018/6/21 北海道・弁当工場で不完全燃焼による一酸化炭素中毒
弁当製造工場の1階の炊飯をする調理場で一酸化炭素中毒が起きた。副工場長が従業員2名が倒れているのを発見し、体調不良の他の従業員3名とともに病院に搬送され、他に従業員1名が病院に行ったが、いずれも軽症であった。同工場で作業中の約50名が避難した。警察と消防の調べでは、病院に搬送された従業員らは都市ガスを使用する広さ約300平方mの炊飯室で作業しており、同炊飯室で高濃度の一酸化炭素が検出されたことから,炊飯器の使用中に何かの原因で不完全燃焼となり、一酸化炭素が発生し、同炊飯室に充満した可能性がある。また、同調理場内でガス臭がしていたとの情報もあった。

2014/2/24 北海道・カニ加工工場で一酸化炭素中毒
カニ加工工場の作業場で一酸化炭素中毒が起きた。作業員7名がめまいや脱力などの体調不良で病院に搬送されたが、いずれも軽症であった。警察の調べでは、屋内作業場でLPガスを使用して、釜でカニをゆでていたが、換気扇が作動しておらず、窓を少し開けただけであったため、LPガスが不完全燃焼を起こして一酸化炭素が発生し、同作業場内に滞留した可能性がある。

2018/10/24 静岡・食品工場で一酸化炭素中毒
食品製造工場で一酸化炭素中毒が起きた。従業員6名が意識障害などの体調不良で病院に搬送されたが、いずれも軽症であった。警察と消防の調べでは、軽症となった従業員6名は、当日早朝から厚焼き卵を製造していたが、同工場内の窓を解放せずに作業をしており、換気不足により同工場内に一酸化炭素が充満した可能性がある。

ガスの不完全燃焼が原因の一酸化炭素中毒は、一般家庭での発生も聞かれることがありますが、具体的にどのようなメカニズムで起きるのでしょうか?

ガスの燃焼は、ガスと空気中の酸素(O2)の酸化反応によって起き、それにより二酸化炭素(CO2)が発生します。これが完全燃焼です。ところが、換気不足などにより空気中の酸素(O2)が不足した状態で燃焼すると、不完全燃焼となり、一酸化炭素(CO)が発生します。

一酸化炭素は無色・無臭の気体であるため、その発生に気づきづらい特徴があります。そして体内に取り込まれると、頭痛、吐き気、めまい、意識障害などの中毒症状が起きるのですが、その体調変化がゆっくりと進行するため、自覚がないままに重篤な症状に陥り、突然意識を失ったり死亡したりするケースがあるのです。

一酸化炭素が「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」と呼ばれる所以ですね。 過去のRISCAD CloseUPで取り上げた一酸化炭素中毒についての記事でも、その毒性の特徴について触れましたね。(「私たちの身近な場所での一酸化炭素中毒」

前出の一酸化炭素中毒に関する3事例からも、その場にいたほぼ全員に何かの症状が出ているのになかなか気づけない一酸化炭素中毒の怖さがわかります。もしその作業場などにいた全員が意識障害などで倒れてしまった場合には、第三者が発見して異常に気づかない限り、一酸化炭素が作業場内に滞留したままの状態が続くのですから、一歩間違えればと考えるとゾッとします。

故障していたガス検知器

冒頭で触れた2017年3月に起きた福島県の食品工場でのオーブン釜のガス爆発事故の顛末についてですが、実はガス検知器は事故の約1年半前から故障しており、会社はそれを把握していながら修理をしておらず、従業員にも注意喚起をしていなかったことが判明しました。

  2017/3 食品工場でのオーブン釜のガス爆発事故の詳細情報
   高圧ガス保安協会サイトより
    事故情報高圧ガス事故情報高圧ガス事故事例
    ・一般高圧ガス保安規則・液化石油ガス保安規則関係事故
      2017/3/8 LPガスの漏えい、爆発

結果、裁判所は、当時の工場長に対し業務上過失致死と労働安全衛生法違反で禁錮1年2ヶ月および罰金30万円、執行猶予3年を、また、会社には労働安全衛生法違反で罰金50万円の有罪判決を言い渡しました。

この事例では、ガス検知器が正しく作動すれば、ガス漏れに気づくことができ、ガスを遮断して爆発を未然に防ぐことができたかもしれません。そうすれば尊い人命がうばわれずに済んだ可能性があります。

確かにどのような故障かはわかりませんが、事故の約1年半前、ガス検知器の故障が発覚した時点で修理せず放置したことは、会社及び責任者に労働安全衛生法違反判決が下る判断材料となったようです。

また、従業員にオーブン釜の安全な使用方法、主に不完全燃焼が起きた際の対応の指示指導をしていなかったという点も判決の判断材料のひとつだったようです。

ガスを扱う際の安全対策

事故を防ぐためには、いずれの機器も常に正常に稼働するようにしておくことはまず第一ですが、それを使用して、またはそれを参考にして作業にあたる人間への教育も大事であるということですね。

ガス検知器のような安全装置は、何かトラブルが起きた時に必要なもので、通常時は必要性を感じることはありません。ですから、福島県の事例のように故障を放置しても通常の作業には影響がありません。しかしながら、その瞬間には、危険に対する余裕は極端に小さくなっていることは間違いありません。そして、その瞬間にいつもと同じようなトラブルが起きた場合、通常なら安全装置で防げたトラブルが事故に発展することになります。

危険に対する余裕は誰にもわからないのです。

これは別に安全装置に対してのみ言えることではありません。事故が起きた時に、たびたび「いつもやってる作業なのに・・・」ということを聞きます。いつもやっている作業が、実は危険と紙一重だった、というのは事故が起きてからわかるのです。そこを謙虚に、「この作業はどれだけ危険に対する余裕があるかわからない。だから、顕在化した危険要因は放置せずに速やかに取り除こう。」という気持ちが持てるかどうかですね。

ガス報知器が関係する過去の別の事例で、極端なものでは、ガス検知器の誤作動がしょっちゅうあるので、検知器を切ってしまったというケースがありました。それは、安全へとつながる梯子外し、自ら危険に対する余裕をなくしてしまったようなものなのですね。

後から思えば、ああしておけば・・・、にならないために、弛まぬ安全管理の努力は大事ですね。

【編集後記】

今回のRISCAD CloseUPでは、ガスを使用する頻度が高いと推測される食品工場の事故事例から、ガス爆発や一酸化炭素中毒について考えてみました。しかしながら、それは工場ばかりでなく、飲食店でも一般家庭も同じことで、正しくガスを使わなければ、ガス爆発や一酸化炭素中毒の危険にさらされる可能性があります。普段何気なく使用しているガス機器、今日帰宅して使用される前に、どのようなことに注意すべきか、どのような事故が起きる可能性があるか、どうすれば事故を避けられるか、ちょっと立ち止まって家庭での危険予知(KY)活動してみませんか?

さんぽニュース編集員 伊藤貴子