投稿日:2020年05月14日 10時00分
過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
前回のこのコーナーでは「エチルアルコールの特性と分類」をお送りいたしましたが、引き続きCOVID-19の流行で突然私たちの身近なものとなった「消毒用エチルアルコール(以下、エタノール)の取り扱い」にClose UPです。
突然身近になった消毒用エタノール
先月の繰り返しになりますが、COVID-19の流行以前は、消毒用エタノールは、身近なようで遠い存在だったという方は少なからずいると思います。ショッピングモールやスーパーマーケットの入口に置いてあっても見向きもせず、あるいは、置いてあることに気付いていなかった方も多かったことでしょう。それが、今や、苦労して買い求め、自分で使っていらっしゃるのではないでしょうか。どのようなものでもそうですが、新規の物質、慣れない物質を扱うにあたっては、注意すべき点を確認しておく必要があるかと思います。
エタノールを60vol.%以上含有する消毒用エタノールは、消防法上の危険物第4類(アルコール類)、引火性液体であること、ここは注意したいポイントです。
消毒用エタノールに起因する火災
先月のこのコーナーで触れた、中国での消毒用エタノール噴霧後の火災の概要を再度振り返ってみます。(3月第2週のRISCAD Update参照)
2020/03/21中国の会社事務所でエタノールで消毒後に火災
中国・江蘇省蘇州市の会社事務所でエタノール濃度75%の消毒液を使用した定期消毒作業後に火災が起きた。消防が出動して消火した。けが人はなかった。当局の調べでは、消毒作業後に電気の延長コードが短絡して出火し、気化して事務所内に充満していたエタノールに着火して燃え広がった可能性がある。また、消毒を行った従業員は、アルコール消毒液を通常の定期消毒時より多量に使用した可能性がある。
消毒に使用されたエタノールは、濃度75%とのことですから、日本の消防法に当てはめて考えると、危険物第4類(アルコール類)に該当します。
アルコール類は気化しやすく、気化すると可燃性の混合気を形成し、多量に噴霧した場合などは、万が一周囲に何かの着火源があれば、気化して滞留したアルコール類に着火して火災が起きる可能性があります。以下の千葉市消防局の動画でわかりやすく紹介されているのでご覧ください。
千葉市消防局「エタノール火災実験映像」
ーエタノールを噴霧するときは火気厳禁ですー
消毒用エタノールを扱う際に念頭に置いておきたいこと
ここで、消毒用エタノールを身近に置いて使用するにあたり、想定できるケースをいくつかあげて、危険予知トレーニング(KYT)をしてみたいと思います。
・台所での調理前には必ず消毒用エタノールで手指を消毒する
→手指に乾き切っていない消毒用エタノールが付着しており、ガスコンロの種火、火で着火
→消毒用エタノールが衣服の袖に付着しており、ガスコンロの種火、火で着火
→周囲に滞留していた気化したエタノールに、ガスコンロの種火、火で着火
→ガスコンロを使用した調理中に噴霧したため、コンロの火で着火
・手指に消毒用エタノールを噴霧して消毒した後、喫煙する
→手指に乾き切っていないエタノールが残っており、ライターの火で着火
→消毒用エタノールが衣服の袖に付着しており、ライターの火で着火
→周囲に滞留していた気化したエタノールに、ライターの火で着火
・自宅の庭でのバーベキューの際に、調理前、食事前に消毒用エタノールを噴霧して手指の消毒をする
→手指に乾き切っていないエタノールが残っており、コンロの火で着火
→消毒用エタノールが衣服の袖に付着しており、コンロの火で着火
→バーベキュー用コンロのそばでエタノールを噴霧したため、コンロの火で着火
・買物を終えて車に戻った際にすぐに手指の消毒ができるよう、消毒用エタノールを入れたスプレー容器を車内に常備している
→エンジンを停止して駐車した車内が高温になり、エタノールがスプレー容器内で気化し、内圧が上昇して容器が破裂
・大容量容器入りの消毒用エタノールをスプレーボトルに移替える
→誤ってこぼしてしまい、エタノール臭くなったので換気扇をつけたところ、気化して滞留していたエタノールに換気扇通電時のスパークで着火
→誤ってこぼしてしまい、ふきんで拭き取り、洗い流すために給湯器のスイッチを入れたところ、気化して滞留していたエタノールに給湯器の種火で着火
想定できる危険は他にも色々あるかと思いますが、私たちが生活で消毒用エタノールを使用する際には、台所のコンロや給湯器の火気、換気扇の通電時のスパークが最も遭遇しやすい着火源ではないでしょうか。また、今年のゴールデンウイークは外出自粛中であったこともあり、自宅の庭でバーベキューをしているご家庭も多かったと思います。屋外なので風通しは良いですが、火気にかかるような噴霧の仕方をすれば危険です。最後に、喫煙については、喫煙人口はかなり減ったとはいえ、火気を使用するシチュエーションとしては想像に難くないかと思われます。
消毒用エタノールの代用品、高濃度エタノール製品
消毒用エタノール不足が長期にわたり続いていることから、厚生労働省は4月半ば、都道府県などに、アルコール度数が高い酒を手指の消毒に代用できるとする事務連絡を通知しました。それに伴い、日本中の酒造メーカーが「高濃度エタノール製品」の製造を開始しました。これらは、飲用のアルコールのため、本来は酒税の課税対象ですが、国税庁は今月から、消毒用として製造したものに関しては、税務署への届出および「飲用不可」の表示などの条件を満たすこととで酒税を免除することとしました。
これらの「高濃度エタノール製品」も、消毒用エタノールと同様に引火性液体ですので、その取り扱いには十分注意しましょう。
【編集後記】
前述のように、実際にあなたが消毒用エタノールを使用する状況を想定して危険予知トレーニング(KYT)を行い、消毒用エタノールを使用する際に発生しうる事故を想定しておくことができれば、事故を未然に防止することができるかもしれません。
もちろん、危険予知トレーニング(KYT)は様々なシチュエーションに当てはめて行うことができるので、消毒用エタノールの件に限らず、危険が潜んでいそうなことを行う前には危険予知トレーニング(KYT)をしてみてはいかがでしょうか?
【参考情報】
千葉市消防局
「エタノール火災実験映像ーエタノールを噴霧するときは火気厳禁ですー」
さんぽニュース編集員 伊藤貴子
