自然災害への心構えと備え−自然災害と一酸化炭素中毒− 【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2020年11月05日 10時00分

「自然災害への心構えと備え」と題し、過去の事例などから拾い上げた、知っておいて損はないと思われる自然災害対策の情報を紹介する企画の第2回目。今回は、一見関係がなさそうに感じる、自然災害と一酸化炭素中毒についてClose UPです。

自然災害と一酸化炭素中毒

一酸化炭素中毒という言葉を耳にする機会は意外と多いかと思いますが、それと自然災害とはどのような関係があるのか不思議に思われる方もいらっしゃるでしょうか。

自然災害と一酸化炭素中毒の交差点、それは停電による発電機の使用です。実際の事例を見てみましょう。

2019/09/23 佐賀・台風で停電となった住宅で発電機使用中に一酸化炭素中毒
台風の影響で停電した住宅で発電機を使用中に一酸化炭素中毒が起きた。住民3名が病院に搬送されたが軽症であった。住民は窓を閉め切った室内で発電機を使用しており、換気不十分で不完全燃焼となり、一酸化炭素中毒が起きた可能性がある。

2020/09/07 鹿児島・住宅内で発電機使用中に一酸化炭素中毒
台風による停電のため住宅で発電機を使用中に一酸化炭素中毒が起きた。住宅内では住人2名と親族1名が倒れており、親族1名はその場で死亡が確認され、住人2名は病院に搬送された。同地域では、前日の夕刻から台風10号の影響で停電しており、住宅内で窓を閉めたまま発電機を使用したため、一酸化炭素中毒が起きた可能性がある。

また、2018/09/06に発生した北海道胆振東部地震の際には大規模停電(ブラックアウト)が起きましたが、この時にも室内での発電機の使用が原因とみられる一酸化炭素中毒の事故が数件あり、3名の方が亡くなりました。

このように、自然災害が原因で停電が起きたことで、電源供給のために住宅内で発電機を使用し、換気不足による一酸化炭素中毒が起きる、それが一見無関係に感じられる自然災害と一酸化炭素中毒の原因と結果なのです。

発電機使用時の換気不足

では、換気不足の状態で発電機を使用すると、なぜ一酸化炭素が発生するのでしょうか。

ご存知のように、炭素や、炭素を含む物質が燃焼する際には、酸素の供給が十分であれば完全燃焼して二酸化炭素が発生します。しかし、その酸素の供給が不十分であった場合には、不完全燃焼を起こして一酸化炭素が発生します。

発電機は、主に軽油やガソリンを燃料としており、自動車などのエンジンと同じで、燃料を燃焼爆発させたエネルギーでモータを回して発電します。つまり、あの発電機内でも燃料の軽油やガソリンといった、炭素を含む物質が燃焼しているのです。

室内で換気不足の状態で発電機を使用した場合、発電機の燃料の燃焼に十分な酸素が供給されずに不完全燃焼が起き、また、不完全燃焼により発生した一酸化炭素は屋外に排出されず、室内に滞留すると想定されます。

一酸化炭素中毒の症状

一定の濃度の一酸化炭素を、一定の時間吸いこむことで起きる一酸化炭素中毒。それでは、一酸化炭素中毒になった場合、私たちの身体に起きる具体的な症状はどのようなものなのでしょうか。

一酸化炭素は無色・無臭であるため、その発生に気づくことは難しく、また、多少吸い込んだところで身体にこれといった異変を感じることもありません。そのため、一酸化炭素が多量に存在する空間にいると、いつの間にか一酸化炭素を長時間吸い続けてしまうことになります。しかし身体にこれといった異変がなく、無症状のように感じられる間に、身体の中毒症状はゆっくりと進行し、突然意識を失ったり、死亡したりするのです。それゆえ、一酸化炭素は「サイレント・キラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれます。

室内で換気不足のまま発電機を使用していて、このように気づかないうちに中毒となり、体調不良の段階で助かった方もいれば、かたや意識不明、そして死亡という最悪のシナリオをたどった方もいるというわけです。

発電機があれば救われた命

ここまで、「発電機」、「一酸化炭素中毒」と何度も繰り返していると、あたかも発電機のせいで一酸化炭素中毒が起きるかのように錯覚してしまいますが、そうではありません。発電機は、その使用方法さえ誤らなければ、自然災害による停電で危機に陥った私たちを助けてくれる強い味方なのです。

昨年9月の台風19号では、千葉県の広い範囲で長期間の停電が起きました。残暑厳しい中、停電により冷蔵庫、冷房などが使用できず、適切に身体を冷やせなかったことなどが原因で、熱中症により死亡した方がいました。

先にあげた事例では、発電機を誤って使用したために一酸化炭素中毒で亡くなられた方がいましたが、この千葉の事例では、発電機を備え、正しく使用していれば、命が失われずに済んだ可能性があります。

これからの災害対策と発電機

幸い今年は昨年ほどの台風の来襲はなく、秋も終盤を迎えました。しかしながら、来年以降もそうであるとは限りません。このコーナーでよく使用する言葉ですが、異常気象はもはや異常気象ではなくなっていきているのです。

少々大げさに聞こえるかもしれませんが、これからは一家に一台発電機を備えるような時代になってもおかしくないと考えます。それほど、気候変動は激しく、地震などはいつ何時起こるかわからず、備えをしておくに越したことはないわけです。

今回のこのコーナーからは、災害時に使い慣れない発電機を使用する場合でも、換気を必ず行うこと、そして一酸化炭素中毒の恐ろしさを認識していただければと思います。せっかく非常用に備えた発電機で命を落とすのでは本末転倒です。

試運転の重要性

もしご家庭に非常時用に発電機を導入される場合には、いざ使用することになる前にマニュアルを熟読し、正しい使用方法をしっかり学んでおくことは大事です。換気のことはもとより、燃料に軽油やガソリンを使用する機器なので、ほかにも気をつけるべきことは多くあると思います。

また、可能であれば試運転をしておくのがよいかと思われます。実際に使用する際の設置予定場所に置いてみて、用途に足りるか、換気が十分にできるかなど確認をしておきたいものです。

とあるメーカーのページを閲覧したところ、出荷時の発電機にはエンジンオイルは入っていないとの記述がみられました。新品の使用時には別途エンジンオイルなどを準備する必要があるかもしれません。いざ使用するときがきたという時に準備不足やトラブルで使用できないといったことがないよう、やはり試運転はしておきたいですね。

【さんぽのひろば 過去の参考記事】

【編集後記】

今回の記事を書くにあたり発電機について調べていたところ、カセットコンロ用ガスボンベを使用して発電できる、小型スーツケース程度の大きさの発電機があるということを知りました。非常用に発電機を、といっても、それなりの大きさのものはマンション暮らしの我が家には置くところがありませんし、燃料が軽油やガソリンであれば、集合住宅ではなかなかハードルが高いので、カセット式ガスコンロのガスボンベを使用する発電機には強く惹かれました。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子