誤飲事故はなぜ起きたか【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2021年03月04日 10時00分

先月中旬、東京の学童保育室で職員の誤認により児童が消毒用高濃度エタノールを誤飲するという事故が起きました。非常に危険な誤飲の事故ですが、幸い児童の体調に異常はなかったとのことです。事故の原因は複数考えられるようですが、「さんぽのひろば」では、「消毒用高濃度エタノール」が入れられていた「容器」に大きな要因があるのではないかと考えました。今回は、誤飲事故はなぜ起きたかと題しClose UPです。

学童保育室での消毒用高濃度エタノール誤飲の事故

先月中旬、東京の学童保育室で以下の事故が起きました。

2021/02/18 東京・学童保育室で児童が消毒用高濃度エタノールを誤飲
学童保育室で児童による消毒用高濃度エタノールの誤飲が起きた。冷蔵庫に保管してあった2Lの飲料用ペットボトルに入ったエタノールを職員が水と誤認してコップに注ぎ、児童に飲ませた。児童が辛さを訴えたため,職員が液体を確認したところ,消毒用高濃度エタノールであることが判明した。児童は救急車で病院に搬送されたが、体調に異常はなかった。区の調べでは、同エタノールは2Lの飲料用ペットボトルに入れられ、側面に「エタノール80%」などと記載された白い養生テープが貼られ、冷蔵庫に入れられていた。当初同ペットボトルは流し台に置かれていたが、水と誤認した職員が冷蔵庫に保管し、別の職員が養生テープの表示を見落として水と誤認して児童に与えた可能性がある。

例えば、飲料用エタノールであるウオッカやテキーラなどのスピリッツ類は、私たち大人が酒と理解して口にしても刺激が強いと思われますし、それを水と思い込んで口にした場合、当然大変な衝撃を受けると考えられます。この事故で、幸い児童の体調に異常はなかったとのことですが、水と思って消毒用高濃度エタノールを口にしてしまった児童の衝撃たるや相当なものであったと想像されます。

しかし、学童保育室の職員が児童に消毒用高濃度エタノールを誤飲させてしまったこの事故は、なぜ起きたのでしょうか。

誤認−「勘違い」と「思い込み」−

概要からもわかるように、この事故には学童保育室の職員2名の誤認が関係しています。

  • 職員Aが、流し台に置かれていた2Lの飲料用ペットボトル入りのエタノールを、水と誤認して冷蔵庫に保管した
  • 職員Bが、冷蔵庫から2Lの飲料用ペットボトルに入ったエタノールを取り出し、水と誤認してコップに注ぎ、児童に飲ませた
エタノールは2Lの飲料用ペットボトルに入れられており、側面に「エタノール80%」などと記載された白い養生テープが貼られていたとのことですが、職員A、職員Bともに、内容物を記載した養生テープを見落とし、それぞれが水と「勘違い」し、水と「思い込む」という誤認をしました。

この事故では、内容物が記載された養生テープが見落とされたことが原因になったのは間違いありません。しかし、個人的には、馴染みがある形状の飲料用ペットボトルに透明な液体が入っているのを見た職員Aが、内容物を「水」と「勘違い」してしまうのも、ましてや、それが冷蔵庫に入れられており、手に取った職員Bが内容物を「水」と「思い込んで」しまうのも無理はないと感じました。

しかし、この事故のみならず、「勘違い」や「思い込み」といったいわゆる誤認が原因となる事故は多数発生しており、当然のことながら、勘違いするのも無理はない、思い込むのも無理はない、で片付けられることではないのですが、今回の事故は、もっと根本的なところに問題があったと考えられます。

それは、「2Lの飲料用ペットボトル」に「消毒用高濃度エタノール」が入れられていたということです。

 「飲料用ペットボトルに入っているもの=飲料」というイメージの強さ

大容量のエタノールは樹脂製タンクや一斗缶などで販売されているので、使用時には小容量の容器に移し替えて使用することになることは想像できます。

この事故でも、行政区がまとめて購入した高濃度消毒用エタノールを飲料用ペットボトルに分けて管轄の学童保育室に配布したか、または、学童保育室で飲料用ペットボトルに分けたか、そのようなことが行われていたのではないかと想定されます。しかしながら、そもそも、飲料用ペットボトルに消毒用エタノールを移し替えて使用するべきではなく、それを行っていたことがこの事故の大元の要因です。

私たちの脳から、「飲料用ペットボトルに入っているもの=飲料」というイメージはそう簡単に払拭できません。例え内容物や注意を記載して表示してあっても、長年の飲料用ペットボトルに対するイメージが強いため、他の情報よりも「飲料用ペットボトルに入っているもの=飲料」という情報が先行する可能性が高いのです。

これはもちろん消毒用エタノールに限ったことではありません。過去には、ペットボトルや栄養ドリンクの瓶に移し替えられた農薬の誤飲事故が繰り返し発生しています。

飲食料品が入っていた容器に、口に入れると害があるものを移し替えるのは、誤飲、誤食などの事故につながる可能性がありますので、絶対にやめましょう。

【参考情報】

総務省消防庁
  新型コロナウイルス感染症対応に伴うアルコールの取扱い等について

【参考記事】

さんぽニュース編集員 伊藤貴子