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不動産関連会社でのスプレー缶処理に関するガス爆発事故ー北海道と東京の事例よりー【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2023年02月02日 10時00分

1/16、東京の不動産会社でスプレー缶のガス抜き作業後にガス爆発が起きました。 「不動産会社」、「スプレー缶」、「ガス爆発」というキーワードを聞いて、2018年12月に北海道で起きた不動産仲介店での消臭スプレー処分中のガス爆発事故を思い出した方は多かったのではないでしょうか。 というのも、今回の東京での事故を受け、報道などで2018年の北海道の事故の事例が紹介されているのをよく目にしたからです。それだけ事故のインパクトが強かったということかと思います。 今回のRISCAD CloseUPでは、2018年の北海道での事故がどのようなものであったのかをふりかえりつつ、今回の東京の事故と何かの共通点があるのか、見ていきたいと思います。それでは「不動産関連会社でのスプレー缶処理に関するガス爆発事故ー北海道と東京の事例よりー」、スタートです。

2023年東京、2018年北海道、それぞれの事故の概要

冒頭でお伝えした通り、1/16、東京の不動産会社でスプレー缶のガス抜き作業後にガス爆発が起きました。事故の概要は以下の通りです。

2023/1/16 東京・不動産会社でスプレー缶のガス抜き作業後にガス爆発、火災
7階建てビルの2階の不動産会社事務所でスプレー缶のガス抜き作業後にガス爆発、火災が起きた。ポンプ車など29台が約2時間半後に消火したが、同ビル2階の1室約25平方mが焼けた。付近の共同住宅など5棟で窓ガラスが破損するなどの被害が出た。同社の従業員2名がやけどなどで軽傷を負い、同ビル1階にいたビルの管理人1名が頭部に破損したガラスがあたり軽傷を負った。警察と消防の調べでは、負傷した従業員2名が、ハンマを使用して賃貸マンションから廃棄物として出た30-50本のスプレー缶のガス抜き作業をしたあと、同ハンマでライターを粉砕していた際に、同事務所内に滞留していた可燃性ガスに着火した可能性がある。また、作業中、換気扇は回していたが窓は締切っており、換気不足であった可能性がある。

また、今回比較して見ていく2018年の北海道での事故事例の概要は以下の通りです。

2018/12/16 北海道・不動産仲介店で消臭スプレーの処分中にガス爆発、火災
木造2階建ての雑居ビルの1階に入居する不動産仲介店内での消臭スプレー処分作業中にガス爆発、火災が起き、約10分後に同ビルが炎上した。消防が出動し、約5時間半後に消火したが、同ビル述べ約357平方mが焼け、周辺の建物39棟、車両24台が破損するなどした。同雑居ビルには、同不動産仲介店の他には飲食店、整骨院が入居していた。同不動産仲介店の店長1名が重傷となり、同雑居ビル内の同不動産仲介店の従業員、飲食店やビル外の飲食店の客、通行人など計51名が骨折や切創などで軽傷を負った。うち、同雑居ビルに1-2階に入居する飲食店の客らは、1階部分にいた18名、2階部分にいた26名が負傷した。自宅の窓ガラスが破損するなどした住民が避難所に避難した。現場周辺は立入規制と交通規制がされた。警察と消防の調べでは、同不動産仲介店内で店長と従業員2名が部屋のドアや窓を閉め切った状態で消臭スプレーを噴霧して処分する作業をしており、重傷となった店長が手を洗うために湯沸かし器をつけたところ、スプレーに使用されていたジメチルエーテルに着火した可能性がある。同店では消臭スプレーを200本以上所有しており、使用期限が近いものの処分のため、うち約120本を噴霧し処分していた可能性がある。爆発の衝撃で同店外の20kgのプロパンガスボンベ2本と同雑居ビル内の飲食店外の50kgのプロパンガスボンベ5本のうち、一部の配管が外れてプロパンガスが漏洩し、爆発の影響で着火した可能性がある。同雑居ビルの所有者とテナント3店舗にはそれぞれ、防火管理者を置く義務があり、消防は立入検査や文書で過去約12回指導をしてきたが、いずれも選任されておらず、消防計画も作成されていなかった。火災報知機や避難器具も設置されていなかった。

2つの事故の印象

北海道の事故では、不動産仲介店と同一のビルにあった飲食店に大勢の客がいたことから、負傷者が多く出ました。また、直接の原因は処分していた消臭スプレーの噴射剤に使用されていたジメチルエーテルへの着火でしたが、爆発の衝撃でビルの外に設置されていたプロパンガスの一部の配管が外れてガスが漏洩し、そのガスにも着火したことで建物への被害などが拡大した可能性があり、当時のニュースなどで取り上げられた現場周辺の建物の崩壊の様子など、その惨状はすさまじいもので、死者が出なかったのは本当に幸いだと思える様子でした。

東京での事故では、ガス抜き作業をしていた不動産会社の従業員2名とビルの管理人1名の計3名が負傷しましたが、いずれも軽傷とのことでした。こちらの事故についても、ニュースなどでは、事故があったビルや向かいの建物の一部が損壊したり、火災により発生した煙がもうもうと立ち上ったりしている現場の様子などが取り上げられていました。

東京での事故のニュースを見聞きした際、発生場所が「不動産関連の会社」であることに加えて「スプレー缶」、「ガス爆発」というキーワードが出てきたことで、2018年の北海道の事故と重ねた方が多かったのかもしれません。

2つの事故の相違点

2つの事故は、前にも述べたように、「不動産関連の会社」、「スプレー缶」、「ガス爆発」というキーワードでつながるため、同様の事故というイメージを持ちがちですが、実際には以下のように少し違いがあります。

北海道の事故では、「消臭スプレーの使用期限が近いもの約120本の噴射処分をしていた」とのことから、使用しきっていない消臭剤の成分が残留している状態のスプレーの缶の中身を噴射して処分していたものと思われます。一方、東京の事故では「ハンマを使用して賃貸マンションから廃棄物として出た30-50本のスプレー缶のガス抜き作業をしていた」とのことで、スプレー缶の内容物は不明ですが、何かの使用済みのスプレー缶内に残留している噴射剤を抜くため、ハンマを使用して穴を開けていたということかと思われます。

着火したのは噴射した内容物と共に出てきた噴射剤、または缶に穴を開けて抜いた噴射剤であると考えられ、いずれもスプレー缶廃棄に至るプロセス中の事故です。

また、北海道の事故の着火源は湯沸かし器の種火の可能性がありますが、東京の事故は噴射剤を抜いた後に、作業に使用していたハンマで「ライターを粉砕していた」際に噴射剤に着火した可能性ということで、推測ではありますが、金属火花による噴射剤である可燃性ガスへの着火などの可能性があります。(しかしなぜライターをハンマで粉砕したのでしょうか。)

いずれにしても言えることは、スプレー缶の中には、内容物を噴射させるために、内容物とともに噴射剤が入っており、その噴射剤の成分としてはジメチルエーテルやLPガスなどの可燃性ガスが使用されていることがあります。例え1本のスプレー缶の噴射処分でも、また、ガス抜きでも、噴射剤が可燃性ガスでその場の換気が十分でないなどの悪い条件が揃えば、少しの火気で着火する可能性はあります。それが北海道の事故ではスプレー缶120本分、東京の事故では30-50本分ほどであったというのですから、どちらの事故も相当なことであることがわかるかと思います。

事故のニュースをどう受け取るか

私たち「さんぽのひろば」では、この「RISCAD CloseUP」のコーナーを含め、過去にスプレー缶やカセットこんろ用ガスボンベに関する情報を複数回取り上げてきました。その情報は文末の【参考記事】を見ていただくとして、今回の東京での事故のニュースの中でとても同意できることばを耳にしたので、最後はそれについて触れたいと思います。

とあるラジオのニュース解説番組で、今回の東京の事故発生をきっかけに2018年の北海道の事故を回顧した際に、パーソナリティの方が以下のような意味合いのことを言っていたそうです。

「今回の東京の事故は、4年前の北海道の事故を教訓にしていれば防げた可能性がある。ニュースは、自分が当事者だと思って聞いておかないと、過去に起きたことと同じようなことを起こす恐れがある。」

私たち「さんぽのひろば」が日ごろRISCAD Updateなどで事故の情報をお伝えする際にも、「そんな事故があったんだ」とか「怖いね」、「気の毒に」といった感想だけで済ませずに、「なぜこのような事故が起きたのか」、「自分の身近なところで同様の事故が起きる可能性はないか」と考え、そしてもし同様の事故が起きる可能性がありそうならばその対策を考えてみるなど、その後に生かしていただくことで、同様の事故を防いでいただきたいという思いを込めています。

「ニュースは、自分が当事者だと思って聞いておく」。起きてしまった事故はもちろん悔やまれますが、それを他山の石とするのは大切なことだと思うのです。

【参考記事】

さんぽニュース編集員 伊藤貴子