台所での事故を考える【注目の化学災害ニュース】2020年2月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2020年03月05日 10時00分

前回のこのコーナーでは「食品工場でのガスに起因する事故」をお送りいたしましたが、2月は同じ食品を扱う場所でも、家庭の台所で直面しそうな事故のニュースを数件見かけました。2月第1週のRISCAD Updateの文末で、私、編集員伊藤が経験した家の台所での「あさりの酒蒸し」調理中の、気化アルコールへの着火についてのお話をしたことも踏まえ、今回は伊藤のひとり語りで、「台所での事故を考える」と題して台所での事故にClose UPです。

「あさりの酒蒸し」のヒヤリハット

2月第1週のRISCAD Updateの文末では、恥を忍んで私のヒヤリハット話をご紹介したわけですが、台所には意外と危険が潜んでいるものです。まずは、「あさりの酒蒸し」のヒヤリハットを読まれていない方のために、ここでもう一度何が起きたか簡単にお話ししたいと思います。

・深めのフライパンに冷凍しておいたあさりとたっぷりの日本酒を入れ、蓋をしてガスコンロで火にかけた。沸騰してきたところで鍋をゆすり、しばらくして中の様子を見るために蓋をとったところ、一瞬炎が上がった。やけどは負わなかったが、髪の毛とまつ毛の一部が燃えた。鍋の蓋の密閉性が強かったため、鍋の中で気化したアルコールが外に抜けず、鍋内部に滞留していた。蓋を開けた際に気化したアルコールが一気に鍋の外に拡散し、コンロの火で着火した。

私にとってはまさか、と思うようなヒヤリハットではありましたが、燃えるアルコールというのは、何もアルコールランプ燃料のメチルアルコールやエチルアルコールだけではありません。アルコール濃度が高いお酒が燃えるように、日本酒でもアルコールが気化してこの事例のような状況になれば着火するのです。フグのヒレ酒などはその仕組みを利用して、熱いお酒に蓋をし、蓋を取る瞬間にお酒の表面に火を近づけて着火することで、アルコール分を飛ばし、飲みやすくして提供することがあります。

さて、さわりとして私が体験した事例をご紹介いたしましたが、家庭の台所で直面しそうな事故には他にどのようなものがあるでしょうか。

家庭の台所には何がある?

まずは、家庭の台所には基本的にどのような機器あるか考えてみましょう。オール電化の普及で調理器具としてIHコンロが設置されている仕様の台所も増えたとは思いますが、やはりガスコンロがある割合は高いのではないでしょうか。前出のあさりの酒蒸しの事例もガスコンロが関連するものです。他には調理時のにおいや煙を集めて換気をするための換気扇ガス給湯器などもあるかと思います。

では、ここからは、台所で起きたガスコンロ換気扇ガス給湯器に関連する事故を考えていきたいと思います。なお、わかりやすいよう、過去の実際の事例を集約して、この記事のために設定したフィクションの事例で紹介させていただきます。

家庭用ガスコンロに関連する事故

ガスコンロというと、やはり火を使うものですから、火災につながる可能性があります。よく聞くのが天ぷら油の火災です。油を火にかけて、電話や来客の対応で目を離した隙に火災が起きるというケースが多いようです。

・台所のガスコンロで天ぷらを調理するため、鍋に油を入れ火にかけた。インターホンがなり、宅配便が届いたとのことで、荷物を受け取りに玄関へ行った。油を火にかけたことをすっかり忘れ、そのまま別室で荷物の開梱をした。十数分後、油を火にかけていたことを思い出し、慌てて台所に戻ったが、加熱した油から出火していた。

次はガスコンロと換気扇が出てくる事例ですが、換気扇に油汚れが直接付着することを防ぐための不織布のカバーについての話で、換気扇の機能とは関係ないので、ガスコンロの事例とします。これはあさりの酒蒸しの事例と同じく、私が経験したことですが、以下に紹介いたします。

・台所でガスコンロを使用して脂身の多いひき肉を炒めて赤ワインを注ぎ入れたところ、フライパンに火がまわり、高く炎が上がった。ガスコンロの上に設置された換気扇に装着していた不織布製のカバーに着火した。鍋の蓋であおいで消火した。

まさか一瞬でも炎がそんなに高く上がることは予想していませんでした。そして、化学繊維製の不織布は、着火すれば燃えると理解していたものの、台所のガスコンロのそばにある換気扇に装着して使用するために市販品として販売されているカバーという認識は、私を若干安全よりの思考に誘導し、着火の可能性を疑う気持ちを鈍らせました。家庭で炎が上がるような料理をするというのもレアケースかもしれませんが、このようにアクシデント的なことがないとは言い切れませんし、先に紹介した天ぷら油火災の事例のように油が継続して燃えるようなことが起きた場合にも、換気扇の不織布のカバーに着火することは十分時考えられます。

アルコールも化学繊維製不織布も、着火すれば燃える物質であると理解しているのに、それが「お酒」、「レンジフードの油付着防止用カバー」と呼称が変わった時に、私たちはその扱いに対して油断してしまうことがあるのです。

さて、化学繊維といえば、着衣着火をご存知でしょうか。

・台所のガスコンロを使用しての調理中、着ていたフリースジャケットの袖口にコンロの火で着火した。シンクの水をかけて消火したが、腕の一部にやけどを負った。

これも化学繊維は着火すれば燃えるとわかっていながら、まさか台所のガスコンロで自分の着ている服に着火するとは想像していないことから起きる事故だと思います。着衣着火については「表面フラッシュ現象」と呼ばれるものが起きることがあります。これは、綿、化学繊維などの生地表面が洗濯や長期着用などにより毛羽立ち、そこに着火することで瞬く間に衣類に火がまわる現象です。化学繊維製の毛足の長い糸で編まれたニットなどは、その繊維の風合いである毛足に着火する可能性がありますので、調理時の服装には十分気をつけたいところです。

【参考情報】
「服が燃えて大やけど!知られざる危険『着衣着火』」
 (独立行政法人国民生活センターサイトより)

「ミスター G」との攻防

ミスターG??と思われる方がほとんどかと思いますが、私と友人の間でゴキブリのことを「ミスターG」と呼ぶことがあります。その名を出すのもおぞましいので、隠語のようなものです。さてこのゴキブリ、生理的に受け付けない、見るのも嫌だという方も多いのではないかと思いますが、住まいを衛生的に保っていたとしても、なぜか彼らは出没することがあります。ゴキブリが出没した時、みなさんはどのような行動をとりますか?ただただ恐怖におののく、殺虫剤を噴霧する、スリッパで叩く、などそれぞれ格闘方法はあると思います。ゴキブリは台所に出没してもおかしくない存在ですが、格闘の場が台所であったことで、事故が起きることがあります。

・台所でガスコンロを使用して調理中、近くの壁にゴキブリを発見したため、スプレー式殺虫剤を噴霧した。コンロの火をつけたまま殺虫剤を使用したため、噴射剤の可燃性ガスに着火して爆発が起きた。

この火気の近くでの殺虫剤使用の事例では、殺虫剤には噴出剤として可燃性ガスが使用されているため、火気厳禁であることは分かっているのに、ゴキブリが出たことで動揺してしまい、咄嗟の判断ができず、コンロに火がついたまま殺虫剤を噴霧してしまうというケースがあるような気がしてなりません。要するにゴキブリが嫌い、怖い、早く退治したいという心理が先立って、動揺して正しい判断ができなくなるのです。もしこのような状況に陥ったら、一呼吸置いて冷静になり、ガスを止めてから殺虫剤を手にしてください。その隙にゴキブリに逃げられたとしても、ガス爆発が起きるよりマシだと思います。

スプレー缶のガス抜きによるガス爆発

さて、スプレー式殺虫剤の噴霧剤の可燃性ガスの話が出たところで、「さんぽのひろば」でもよく話題になる、スプレー缶のガス抜きガス給湯器が関連する事故事例で見てみたいと思います。

・台所のシンク内で使用済スプレー缶のガス抜きを行った。缶の上部に付いているボタンを押して、内容物とガスを出し切り、排出音がしなくなったのを確認した。作業を終え、手を洗うために給湯器のスイッチを入れたところ、シンク周辺に滞留していた可燃性ガスに給湯器の種火で着火して爆発が起きた。普段はベランダに出て風通しのいい場所でガス抜きをしていたが、冬場で寒かったので台所で行った。








最近は種火が見えるガス給湯器は少なくなってきているかもしれませんが、
イラストにするとこのような感じのものです

ガス給湯器の種火、これもついうっかり火気であることを忘れがちですので、十分気を付けましょう。2018年12月に起きた北海道の不動産仲介店での消臭スプレー処分中のガス爆発事故もこれが原因でした。

使用済のスプレー缶の廃棄前には、中身を完全に使い切ってガスを抜くことになっていますが、その際には、近くに火気のない、風通しのいい屋外で行いましょう。

なお、自治体によってはスプレー缶のガス抜きのために缶に穴を開けて廃棄するルールになっているところがあります。「さんぽのひろば」では、過去に何度かスプレー缶の穴開けについての記事を掲載してきました。よろしければお時間のあるときにもう一度読み返してみてください。

【参考記事】
スプレー缶に関連する事故【注目の化学災害ニュース】2018年12月のニュースから RISCAD CloseUP
再確認してください!スプレー缶の処分方法【注目の化学災害ニュース】2017年8月のニュースから RISCAD Close UP

それでは換気扇は何が危険なの?

最後に、換気扇に関連する事故についてです。換気扇は火を使う道具ではないし、一体何が危険なのか、そう思われる方もいるかもしれません。換気扇を作動させるときにはスイッチを押すかと思いますが、それは換気扇という電化製品に通電させる行為です。この際に、わずかな火花が発生することがあります。それは換気扇に限らず、照明器具などの電化製品スイッチを入れたり切ったりするときにも起きる現象ですが、それも立派な火気であるため、可燃性ガスなどへの着火源となる可能性があるのです。それでは、換気扇に関する事例をみてみましょう。

・台所のガスコンロの魚焼きグリルで調理中、ガス警報器が鳴った。グリル内を確認すると、火がついておらず、ガス漏れが発生していた。ガス臭さを感じたので、換気のために換気扇のスイッチを入れたところ、漏れて滞留していたガスに、換気扇通電時に発生した火花で着火して爆発が起きた。

可燃性ガスが滞留している場所での火気は厳禁です。たとえばこれは前出のガスコンロ付近に出たゴキブリ退治の事例でも同じです。たとえガスコンロの火を消してあってゴキブリ退治を行ったとしても、殺虫剤を撒いた後には噴霧剤の可燃性ガスが滞留している可能性がありますので、殺虫剤の臭いが残ったので換気扇のスイッチを入れたら爆発、という可能性があります。電化製品への通電の際の火花の危険、覚えておきましょう。

【編集後記】

今回は、日常業務のなかで事故をウオッチしている立場でたまに目にする、台所で起きる可能性のある事故に触れました。場所と物質の呼称が変わるとつい油断したり、危険予知の感覚が鈍ったりといったことが起きます。台所に立たれる方にこの記事をお読みいただき、「ヒヤリハット」や「過去の事故事例」の知識を共有することで、大事故はもちろん、小さな事故が減ることを願っています。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子