投稿日:2023年03月09日 10時00分
近頃よく耳にする、私たちの生活で出たごみを処理する廃棄物処理施設での火災。その影響で長期にわたり処理施設でのごみの受け入れが停止されるといったことも起きています。普段私たちが捨てているごみが処理されないというのは、よく考えると大変なことです。少し大袈裟な言い方ではありますが、私たちはごみを出しながら生きていて、それが予定通りに処理されないとなれば市井はごみで溢れかえってしまいます。今回は「増える廃棄物処理施設での火災」をClose upし、一体どのような原因で火災が発生しているのか、施設で火災が起きることで私たちの生活にどのような影響が出るのか、そして火災を起こさないために私たちにできることを考えてみたいと思います。
増える廃棄物処理施設での火災
冒頭で触れたように、昨今、私たちの生活で出たごみを処理する廃棄物処理施設での火災のニュースをよく耳にします。
まずは昨年から今年にかけて起きた廃棄物処理施設の火災で、私たち「さんぽのひろば」が情報収集できたものの一部の事例を見ていきたいと思います。
2022/2 栃木・廃棄物処理施設の可燃廃棄物ピットで廃棄物の火災
廃棄物処理施設の可燃廃棄物ピットで廃棄物の火災が起きた。消防が約38時間後に鎮火したが、同ピットと、廃棄物クレーンや破砕機などの設備が焼損した。けが人はなかった。設備等の焼損が激しかったため復旧に時間がかかり、同施設の可燃廃棄物の受入が約11ヶ月できなくなった。警察と消防、市の調べでは、クレーンによる運搬などによる摩擦や衝撃などで、可燃廃棄物に混入していたスプレー缶やライター、リチウムイオン電池などから火花が出るなどして可燃物に着火するなどした可能性がある。
2022/3 新潟・廃棄物処理施設の不燃廃棄物ピットでリチウムイオン電池の火災
廃棄物処理施設の2階の不燃廃棄物ピットでリチウムイオン電池の火災が起きた。職員が消防に通報した。消防が約2時間半後に鎮火したが、同ピット内の不燃廃棄物約10平方mが焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同ピット内から焦げたリチウムイオン電池1個が発見されたことから、廃棄物にリチウムイオン電池が混入し、ごみ袋に入った不燃廃棄物を重機でピットに押込む作業中に、同リチウムイオン電池に圧力や衝撃が加わり発火した可能性がある。自治体では、リチウムイオン電池は廃棄物として出してはいけない決まりになっていた。
2022/4 秋田・廃棄物収集車でスプレー缶から火災
廃棄物収集車でスプレー缶から火災が起きた。資源化物用のごみ袋に混入したスプレー缶から出火した可能性がある。自治体では、スプレー缶を廃棄する際には、中身を使い切って回収箱に入れることになっていた。
2022/5 栃木・廃棄物処理施設の不燃廃棄物選別機付近でリチウムイオン電池の火災
廃棄物処理施設の不燃廃棄物選別機付近でリチウムイオン電池の火災が起きた。作業員が不燃物からの出火に気付き消防に通報した。消防が約1時間10分後に消火したが、不燃廃棄物の一部が焼けた。けが人はなかった。同施設が同日の廃棄物の受け入れを停止した。警察と消防の調べでは、不燃廃棄物に混入したリチウムイオン電池から出火した可能性がある。
2022/6 熊本・廃棄物収集車で廃棄物の火災
廃棄物収集車で廃棄物の火災が起きた。収集員が荷室からの発煙に気付き消防に通報した。消防が消火したが、廃棄物の一部が焼けた。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同日は埋立てごみの収集日であったが、火元とみられる廃棄物が入った袋にはスプレー缶やライター、バッテリなどが入れられており、収集車内で圧縮されて出火した可能性がある。
2023/1 熊本・廃棄物処理施設の可燃廃棄物ピットで火災
廃棄物処理施設の可燃廃棄物ピットで火災が起きた。消防が約18時間後に鎮火したが、可燃廃棄物約2,000立方mが焼け、設備の一部が損傷した。けが人はなかった。同施設の廃棄物の受入が一時停止された。警察と消防の調べでは、可燃廃棄物内に誤混入していたスプレー缶や乾電池、モバイルバッテリなどから出火した可能性がある。同地域では、スプレー缶や乾電池、モバイルバッテリなどの廃棄物は、可燃廃棄物でなく特定品目として出す決まりとなっていた。
火災の原因
上にあげたのは出火の原因となったものがおおよそ判明している6事例で、主に廃棄物ピットと廃棄物収集車での火災です。
火災の原因となったとみられるものは、スプレー缶、リチウムイオン電池、乾電池、モバイルバッテリ、ライターなどとなっていますが、いずれもその場に存在しているはずがないものです。
例えば2022/3の新潟の火災では、不燃廃棄物ピットでリチウムイオン電池が燃えましたが、自治体ではリチウムイオン電池は廃棄物として出してはいけない決まりになっていたとのことです。また、2022/4の秋田の火災では、廃棄物収集車でスプレー缶から火災が起きたとのことですが、自治体ではスプレー缶を廃棄する際には、中身を使い切って回収箱に入れることになっていたとのことです。他の火災についても、可燃廃棄物や不燃廃棄物、埋立てごみなどとして回収されたものの中に、スプレー缶、リチウムイオン電池、乾電池、モバイルバッテリ、ライターなどが混入していたことが原因となった可能性があるということがうかがえます。
廃棄物処理施設のインフラの損傷による損失
前出の2022/2の栃木の廃棄物処理施設の火災では、可燃ごみをピットに運ぶ巨大クレーンをはじめとした設備の損傷が大きく、設備の修繕費用は約12億円に上ったそうです。
設備が損傷して稼働停止した同施設は、修繕などの関係で約11ヶ月もの間、可燃ごみの受入れができなくなりました。受入れができなくなったとはいえ、住民の生活に伴いごみは排出されます。当然そのままにしておくわけにはいきません。
自治体は住民に可燃ごみの削減の協力を依頼し、その上で排出された可燃ごみの処理を自治体内の別の廃棄物処理施設で行いました。しかしながら、火災があった施設は自治体のメインの廃棄物処理施設で規模が大きかったため、別の廃棄物処理施設だけではごみを処理しきれませんでした。そこで自治体は他の自治体の廃棄物処理施設や民間の廃棄物焼却施設に可燃ごみの処理を委託しました。
処理を委託するためには、処理費用はもちろんですが、委託先まで廃棄物を運搬する費用などもかかります。処理費と運搬費などを合わせると約37億円もの金額になったそうです。
設備の修繕費用が約12億円、委託先での処理に関連する費用が約37億円。そして他にも可燃ごみ削減のために各家庭で購入する生ごみ処理機の購入費用補助などの支出が2億円以上あったとのことです。この廃棄物処理施設の火災に関する自治体からの支出をざっと計算すると、実に50億円以上となります。
ご存知のように、自治体の財源はもとをたどれば主に税金です。火災が起きた廃棄物処理施設の修繕や、委託先での処理などにかかった費用も主に自治体から支出されるので、同様にもとをたどれば税金であるといえます。もし火災が起きなければ、その50億円は住民にとって有益な他のインフラの整備などに使用できた可能性があります。
可燃ごみに混入していた、火災の危険性があるごみ
同施設の火災については、事故対策委員会が設置され、その
報告書が公開されています。報告書によれば、消防などが出火原因の調査を行ったものの、出火原因は特定できず不明と報告されました。しかし、火災が起きた可燃廃棄物ピット内に、複数の
スプレー缶やライター、リチウムイオン電池などが混入しているのが確認され、それらが火災原因となったと推察されるとの結論に至ったようです。
それらの火災原因となる可能性があるものを可燃ごみとして捨てたのは誰かと考えれば、おのずとその地域の住民またはその地域に立ち寄った誰かであると推測できます。もちろん捨てた人は廃棄物処理施設を損傷させようと思っていたわけではないと思うので、理由としては、分別したが捨てる日を間違えてしまった、分別方法がわからなかった、あるいは分別が面倒なので可燃廃棄物として出したなど、さまざまな可能性が考えられます。
もう一度ごみカレンダーを確認してみましょう
この栃木での事例については報告書を参照することができたので詳細を知ることができましたが、前出の他の事例はじめとした廃棄物処理施設での火災でも、設備が損傷して一時的に廃棄物の受け入れを停止せざるを得なくなったという情報を多く聞きます。栃木の事例は、他の地域で暮らす私たちにとっても対岸の火事ではないのです。
ごみの出し方を誤って廃棄物処理施設をストップさせてしまう可能性は私にもあなたにもないとは言えません。
折しもSDGsの実現が叫ばれる昨今。私たちの生活で排出されるごみの削減を目指すと同時に、廃棄物処理施設を大切に使用することもその一環と考え、もう一度お住まいの自治体のごみカレンダーを確認し、正しい分別をすることやごみの出し間違いを防ぐことを意識してみましょう。
【参考情報】
【参考記事】
さんぽニュース編集員 伊藤貴子