リチウムイオン電池関連火災増加のニュースから(前編)【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2024年1月11日 10時00分

「RISCAD CloseUP」、2024年最初の更新です。昨年末、リチウムイオン電池の事故についてのニュースが入ってきました。東京消防庁管内では、2023年のリチウムイオン電池が関連する火災が過去最多となったとのことです。「さんぽのひろば」では、これまでも何度かリチウムイオン電池について触れてきましたが、このニュースを聞き、再度リチウムイオン電池を題材とすることにしました。過去の内容と重複する部分もあるかとは思いますが、お付き合いいただければ幸いです。それでは、2024年最初の「RISCAD CloseUP」「リチウムイオン電池関連火災増加のニュースから(前編)」スタートです。

増加傾向にあるリチウムイオン電池関連の事故

2023年も押し迫った頃、以下のような内容のニュースを耳にしました。

東京消防庁によると、2023年のリチウムイオン電池が関連する火災が、2022年の150件から16件増加して166件となり、過去最多となったとのこと。

16件の増加はかなり多いように感じますが、リチウムイオン電池が関連する火災は、これまでどのように推移してきたのでしょうか。

以下、東京消防庁による「令和5年版火災の実態」を参照してみましょう。ここには最近10年間のリチウムイオン電池関連火災の発生状況が掲載されています。

 

リチウムイオン電池関連火災状況(最近10年間)

東京消防庁令和5年版火災の実態、第3章 出火原因別火災状況、
(5) その他の特筆すべき火災状況、イ リチウムイオン電池関連火災の発生状況、
表3-6-5 リチウムイオン電池関連火災状況(最近10年間)(p.126)より引用)

東京消防庁管内でのリチウムイオン電池関連火災件数は、年々右肩上がりに増加し、平成25年(2013年)には12件であったものが、令和元年(2019年)には100件を超え、昨年令和4年(2022年)には150件になっています。そして今回発表があったように、令和5年(2023年)はこの150件から16件増加し、166件になったとのことです。平成26年(2014年)には19件であったと考えると、10年で8倍以上に増加しています。

ではなぜリチウムイオン電池の火災が急増しているのでしょうか。

リチウムイオン電池はどのような製品に使われているのか

前出の東京消防庁による「令和5年版火災の実態」には、以下のような資料も掲載されています。

出火要因別火災状況(令和4年中)

東京消防庁令和5年版火災の実態、第3章 出火原因別火災状況、
(5) その他の特筆すべき火災状況、イ リチウムイオン電池関連火災の発生状況、
表3-6-6 出火要因別火災状況(令和4年中)(p.127)より引用)

この出火要因の欄に並ぶ製品と、表の注1に記載された表の「その他」の内訳を見ていただければわかるように、リチウムイオン電池が内蔵されている製品は私たちの身の回りに相当数あります。しかもここに掲載されているのは出火要因となった製品のみですから、これ以外にももっと多くのリチウムイオン電池が使用された製品があるということになります。

リチウムイオン電池が関連した火災事例

ここからは、私たち「さんぽのひろば」が過去に収集した事故事例のうち、身近なところにある製品などに内蔵されたリチウムイオン電池が関連した火災の事例を見てみたいと思います。

2019/1 福岡・スマートフォン用モバイルバッテリが落下して発火
ショッピングモール内の飲食店で客のバッグ内の縦約12cm、横約6cmのスマートフォン用モバイルバッテリがバッグごと落下して発火した。店員が水をかけて消火した。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、客がソファの上に置いたバッグが床に落下し、その際の衝撃でモバイルバッテリが発火した可能性がある。

2019/9 福岡・列車内で乗客の荷物内の電子機器から発火
走行中の列車内で乗客のリュックサック内の電子機器から火災が起きた。停車駅で同乗客を含む乗客が一斉に降車し、ホームで車掌が消火器で消火した。ホームにいた2名が消火器の消火剤を吸入して体調不良となった。列車の上下線が最大20分遅延した。警察と消防の調べでは、座席で膝に載せていたリュックサック内のモバイルバッテリやワイヤレスイヤホンなどの電子機器から出火した可能性がある。

2020/9 東京・列車内でヘアアイロン用バッテリが破裂して発火
走行中の列車内で乗客の荷物内のヘアアイロン用バッテリの破裂、発火が起きた。停車駅で駅員がすぐに消火器で消火した。荷物を膝に乗せて乗車していた乗客1名が太ももにやけどを負って病院に搬送されたが軽傷であった。乗客が一時、停車駅のホームに避難した。列車の運行が約10分間遅延した。警察と消防の調べでは、客の荷物内に入っていたヘアアイロン用のバッテリが何かの原因で破裂した可能性がある。

2021/1 三重・走行中の軽乗用車内でスマートフォンを充電中に発火
走行中の軽乗用車内でスマートフォンを充電中に火災が起きた。同車両の運転手が警察などに通報した。消防が約30分後に消火したが、同車両が全焼した。同車輌の運転手1名が避難の際に手にやけどで軽傷を負った。警察と消防の調べでは、同車内の助手席でモバイルバッテリを使用してスマートフォンを充電中に出火した可能性がある。

2022/2 神奈川・住宅でバッテリ充電中に火災
木造2階建ての住宅の2階でバッテリ充電中に火災が起きた。消防車25台が約1時間半後に消火したが、同住宅の2階部分が焼けた。住人2名が足や喉に負傷した。警察と消防の調べでは、同住宅2階のバッテリを充電していた部屋から出火した可能性がある。

2023/10 北海道・納屋でバッテリ充電中に火災
納屋で電動ドライバのバッテリ充電中に火災が起きた。納屋の管理者が破裂音を聞き、出火を確認して消防に通報した。消防が約2時間後に消火したが、同納屋が全焼した。

リチウムイオン電池が関連した火災を防ぐために

少し古い事例もありますが、ヘアアイロンのバッテリであったり、工具のバッテリであったり、リチウムイオン電池を内蔵した製品が多岐に渡ることがうかがえます。また、使用中の事故のほかに、荷物に入れて持ち運んでいる最中の事故が起きているのも印象的です。

さて、ここまで見てきて、リチウムイオン電池内蔵製品の使用中、携帯中の事故が数多く起きていること、増加傾向にあることはお分かりいただけたかと思います。事故を防ぐため、製品に異常を感じたら使用を控え、新しい製品と交換するなどの対策をとりましょう。

過去の「さんぽのひろば」で、リチウムイオン電池内蔵製品事故に遭わないための内容をまとめた記事(参考記事参照)があります。モバイルバッテリがメインの内容ではありますが、参考にご一読いただければと思います。

次回、廃棄後のリチウムイオン電池が関連した事故について

ところで、日々起きる事故の情報をチェックしていると、リチウムイオン電池内蔵製品の使用中、携帯中の事故を凌駕する勢いで起きている事故があることに気づきます。それはみなさんがリチウムイオン電池内蔵製品を使用後、寿命が来た、古くなったので新しいものを購入したなどの理由から廃棄した後の事故です。

前出の「リチウムイオン電池関連火災状況(最近10年間)」の表のキャプションにご注目いただきたいのですが、「リチウムイオン電池関連火災には、ごみ回収中のごみ収集車から出火した火災及びごみ処理関連施設 (業態が一般廃棄物処理業及び産業廃棄物処理業)から出火した火災を除く。」とあります。そう、最初に触れた、東京消防庁が発表した2023年に発生したリチウムイオン電池が関連する火災166件には、私たちが廃棄した後にごみとして回収されたリチウムイオン電池が関連する火災はカウントされていないのです。

ここからがまた長い話になりますので、続きはまた来月。

【参考情報】

東京消防庁
  「令和5年版火災の実態」
   イ リチウムイオン電池関連火災の発生状況(P.126-129)

【参考記事】

モバイルバッテリを安全に使用するために(前編)【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP
モバイルバッテリを安全に使用するために(後編)【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

さんぽニュース編集員 伊藤貴子